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quiet  作者: 柊 ひいろ
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★1話

暗い森の奥にひっそりと古い洋館がそびえたっている。もう数百年も人が立ち寄っていないその洋館は薄暗く、所々にホコリや蜘蛛の巣がある。さながらホラー映画にでも出てきそうな館だ。そんな館入ってすぐ二階へと続く階段の踊り場。そこにある大きな窓から月光が差し込み、その“影”を映し出す。佳良な椅子にもたれかかり足を組んで肘をつき、薄ら笑いを浮かべている。満月を背景に挑発的な人を食うような笑みを浮かべる。

「ククッ・・・生贄をここへ、さあ、今宵も魔の宴を始めよう」

そう高らかに叫び、高笑いする。夜闇の中、“影”の青い目だけが高圧的に鋭く光っている。そして、その―

―――ゲホッゲホッ

うぅ、むせたぁ、ここ埃っぽいんだよ。そりゃ、咳の一つもするって。まあいいや。

「んしょっと」

椅子から降りて、さっそく一人反省会をする。うん、さっきのは結構かっこよかったよね!月明りを利用するっていうのは我ながらいい案だ。でも、思いっきり和のこの屋敷を洋館って言ったのは無理あったとは思ってる。まあ、大きさ的には問題ないからいいや!今度は仁王立ちとかにしてみようかな。セリフは「フハハ!よく来たな勇者よ!だが貴様もここで終わりだ!」にしよううん、それがいい。あと、マントつけてそれをバサァって風になびかせたり(屋内だから風ないけど)、いい感じに錆びた剣 (ここにないけど)を相手 (いないけど)に向けて決めポーズとかもしてみよう。

っと最近ハマっている“かっこいいおれ”ごっこは置いといて。

「う~ん」

実は、ずっと悩んでいることがあるんだ。それはこの屋敷を掃除するか否か・・・だ。埃とか蜘蛛の巣とか衛生的に悪いし、掃除したいんだよなぁ、さっきもむせたし。でも、わざとこうしているのにも理由があるし、いやでもでも、きれい好き的には掃除したくてたまらない、でもでもでも、あーうー!っという具合にこの葛藤はもう何千何万回しているけどいまだに結論に達していない。そして、現状、何とか我慢して掃除していない。たまに耐え切れなくなってしてしまうけれど。ちなみに、理由というのは単純だけどボクにとっては重要なことで“そのほうがかっこいいから”である!その、もし、もしだよ?ここに人が来たら「まるでホラーゲームに出てくる洋館みたい・・・オバケとかでそうで怖いっ!」ってなるじゃん?そういうのが見てみたいんだよ。そうしたらボクが全力で驚かすんだ。こう、恐怖を煽る感じに、低い呻き声を上げたり、こんにゃく的なものを吊るしたり。ああ、あと、演出として、扉が勝手に閉まるとか、何もしていないのに物が落下するとかは忘れちゃいけないね!

ふふ、考えただけでニヤニヤするなぁ。

おっとまた妄想しちゃった。この玄関寒いしもうそろそろ部屋に戻ろうかな。少し歩いて、ドアを開けて、自室に戻る。自室はゴミどころか、ホコリ一つないピカピカな状態だ。電気も点けてあるから明るいし整理整頓もちゃんとしているから清楚な感じになっている。もちろんボクがした。自室だけでもこうしておかないとね。

まあ、自室って言っても一人暮らしなんだけどね。

はぁー、もうすぐ春だけどまだ寒いなーおこたおこたーっと。小さな木製のこたつに入ってゴロゴロする。こたつ布団の中の温度はとても暖かくて快適だ。これがいちばん落ち着くというか、ボクをダメにする気がするよ。こたつ最高だなー。ゆったりぬくぬくしながらぼんやりと、なんとなく自己紹介でもしようかな。


自分で知ってるボクは、

・区分的に男子

・身長159cmぐらい

・黒髪

・色白

・青というより水色の瞳

・貧弱な体つき

・吸血鬼

ってぐらい。

何か“事故”にあってボクは記憶がない、らしい。目を覚ましたときに、ボクをその“事故”から救ってくれた(って教えてくれた)ひとが言ってた。だから、ボクは自分の名前も知らない。でもこの一人暮らしの生活をしていて支障がないから全然気にしていない。あと、その“事故”の後遺症で大半の力を失ってしまって、いまは能力的には人間と同じだそうな。しかし、これまたその力が“あった”ときの記憶もないから「初めからこんな感じなんじゃ?」って思ってて、気にしてないんだ。まあ、能力的に人間さんと同じかつ日光に弱いって考えるとボクめっちゃ不利なのでは?とだれに張り合っているわけでもないのに、なんとなく思ってしまう。

―――ふわぁ~

なんだか眠くなってきたなぁ。もうそろそろ朝なのかな。うとうとしていると次第に視界が黒くなっていく。少しずつ意識が遠のいていく。まるできれいな湖にでも沈んでいくような感覚。ボクは結構好きなんだ。おやすみぃー。










―――――ゆっくりとゆっくりと意識が水面から上がってくる感じ。ボクはどれぐらい眠っていたかな。体感的には11時間ぐらいなんだけどどうだろう。

「ふわぁ〜。んしょっと」

こたつ、つけっぱなしにしたまま寝ちゃったなと思いながら、のそのそと布団から抜けてぼーっとする。今日は何しようかなと少し考える。

よし!昨日からいや、ずっと前から抑えてきた衝動を今解き放つ!そう、掃除するのだ!…やっぱり掃除したい欲に負けました。てへっ☆






―――ふぅー。額に浮かんだ汗を軽く手で拭って満足げな顔になる。この屋敷にある2、30の部屋全ては流石に疲れるなぁ。まず、ほうきではいて、雑巾で拭いて、無造作に捨ててあるゴミを捨てて、それから散らかった物を整理整頓して、金属製の物や、壊れやすい物はそれに応じた手入れをして、コロコロをしてという作業を2,30回ほど繰り返した。疲れるけれど、掃除好きとしてはとても楽しい。

でも、“演出”のためにわざと、だだっ広い玄関だけは手をつけていない。やっぱり“かっこよさ”も残しておきたかったんだ。一ヵ所そういう遊びができるところを残しておかないとね!

今日は充実してるなー。よし、残すはあと一部屋、この部屋だけだ。気合を入れなおして取り掛かるぞ!


ほうきではいて、雑巾がけをして、モノを整理して――――ん?なんだろう、これ。

最後の部屋を掃除している途中に見つけた棚の後ろに隠れるように置いてあったこの細長い物体。


大半がビニールでできていて、それが真ん中にある紐のようなものでまとめられている。紐のようなものを外すとビニールが広がって丁度自分一人入るぐらいのスペースを作った。先端は一方はとんがっていて、一方はくるんとカーブを描いていて手に取りやすいようになっている。


ハッとして気づく。これ、人間さんが使う“カサ”というものだ!たしか、雨から自分の身を守るために使うものだったはず。でも、この“カサ”は普通のものよりも少しビニールが分厚い気がする。あ、そうだ、分厚いものは日光からも身を守ることができるんだった。

これ、珍しいものだし何かに使えないかな。うーん。オブジェにするとか?いや、そうじゃなくてもう少し実用的な…ビニール、、?かぶる、、?

ふと、僕はあるアイデアを閃いた。リスクはもちろんある。もしかしたらほんとうに死ぬかもしれない。そんなアイデアだ。それでも一度脳裏に浮かぶともうこのアイデアが頭から離れない。この好奇心はもう抑えられない。

そうとなればすぐに実行しよう。善は急げというものだ。

僕はほうきや雑巾の片付けも忘れて部屋をひいてはこの屋敷を飛び出した。“カサ”だけを持って。







「わぁーーーー!」

空。晴天というものなんだろう、青い、とっても青い!吸い込まれそうなほど綺麗で透き通った青さだ!今まで見てきた夜空とはまったく違う!


木々。薄い黄緑から濃い深緑まで!いろんな“緑”がある!

花々。赤、黄色、色、青、、、たくさんの色で辺り一面を埋め尽くしている!

それらすべてが日に照らされてキラキラ輝いている!生きてるって主張している!


本日昼下がり。とっても気分が高揚している!そりゃそうだ、長年の夢が叶ったんだ!

日中に外に出て、空や植物を見るっていう夢!

―――そう、ボクのアイデアはこの“カサ”を差して外に出ることだ!


夢がやっとかなったよ。やっと。そう思うとなぜか少し胸が痛んだ。何か足りない気がした。誰かがいない気がした。でも僕はそれが何なのかわからない。だからそれはきっと気のせいなのだろう。

それよりも、今はこの感動のまま外を練り歩きたい気分だった。あっ!羽をパタパタさせながら飛ぶ小さく白い動物がいる!蝶々だ!あっ!むこうが辺り一面黄色だ!確かタンポポってやつだ!

ふふっ、願いがやっと叶ったなぁ。とっても楽しいな。今日は本当にいい日だなぁ。





そうこうしているうちに空に朱が混じってきた。これから、暗くなるんだろう。透明な青からオレンジへ、そして群青へ。その景色は、時間はこの世のものではないと思うほど神秘的で美しく、ボクは歓声を上げるのも忘れて見入っていた。


もう空はいつもの色になっていて、差していたカサも閉じた。よし、もうそろそろ帰ろうかな。なんか名残惜しい気もするけれどこいつがあればいつでもあの景色を見れる。そうして、歩き出そうとしたとき、向こう側に誰かがいるのを見つけた。

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