第5話 6大魔王
魔大陸にいる6大魔王の一人、魅惑の魔王リリム・ティーミスの城が襲われた。侵入者は魔王リリムの重要な部下を多数殺害、侵入者に対応した兵士も殺害されてしまう。
王室では魔王リリムと侵入者が戦った形跡があるものの、魔王リリムの死体は無く安否不明。
現在は行方不明扱いしている。
侵入者を見た者はすべて殺害されているため、どんな侵入者だったかのか、何人だったのかも分からないままだった。
魔大陸には6人の魔王がいる。
魅惑の魔王、邪毒の魔王、不死の魔王、魔剣の魔王、魔導の魔王、破滅の魔王。
昔の魔大陸は魔王同士の覇権争いで、よく戦争が起こっていた。しかし新しい魔王が何人か入れ替わってから、戦争も徐々に減っていく。
現在はお互いの国境線で小競合いがあるが、侵略戦争等は無く平和に過ごしている。
魔王リリムが不在となり、新たに魔王を継ぐ有力な部下も既にいない。魔王リリムの国は、周辺の魔王に糾合されそうだ。
他の種族と交流のある融和派の魔王リリムがいなくなる事で、暴力を好む強硬派の魔王が台頭しそうだ。
魔物に滅ぼされたナリディア国は、城も町も村も焼き払われていた。
国を再建したくてもナリディアの王族達と行政官等の多くが亡くなっていたり、国の財産もほとんど残ってなかったので再建は難しい。
幸いだったのは、多くの国民が隣国へ避難して助かった事だ。ナリディアは国として機能出来なくなったので、多くの避難民が他国に移住を希望。
ロゼ王国にも多くの避難民が移住してきた。ナリディア国に近いカルーア町にも移住を希望する者が多く、人口が3千人以上増えた。
カルーア町は、テント生活の避難民のために家を建てている。町は、空前の建設ラッシュだ。
レオンは食文化の事を考えていた。
この世界の主な調味料は塩、酢、砂糖、コショウだ。砂糖とコショウは転生先では高価なパターンが多いが、この世界では手軽な値段で買えるため、庶民も普通に使っている。
フォックス家で美味しい料理も多く食べた。
ただ、元日本人として日本食普及も転生シリーズでは定番なのではないかと考えた。
カルーア町では大豆も小麦もあるため、レオンは醤油と味噌作りをロゼ王国の主要産業にしようと考えている。
麹菌を作るのに苦労したが、前世で漫画を描く時に醤油作りと味噌作りの取材をしたのが良かったな。
温度管理もしっかりしないといけないので醤油、味噌作り専用の建物を無理言って建ててもらった。
魔物討伐に貢献したお礼だそうだ。
試作品が出来るまで、まだまだ時間がかかる。他の調味料作りも考えよう。
バター作りを考えたのだが、確か生クリームが必要だった気がする。この世界にも牛はいるので牛乳は問題ない。しかし生クリームを売っているのを見たことがない。乳脂肪分を分離させなければならい問題もある。
「遠心分離機でも作るか……」
他にもいろいろと、準備しないといけない。
「あっ、チーズもこの世界には無いな」
ジャムならこの世界にもあるがチーズは無い。せっくパンが主食なんだし、チーズとパンの組み合わせも恋しい。
多くの調味料が誕生する事で、食事が今以上に楽しくなる。
夢が膨らむ。
食は大事だ。人を良くすると書いて『食』だからね。
フォックス家のコックのコルトリアにも相談してみよう。創造神の本作りも重要だが、調味料作りも重要だよね。
ロゼ王国の人口も増えたし、新しい調味料が主要産業になればロゼ王国の税収も増え、人々も食事が美味しくなる。
まさに一石二鳥。
この世界の食文化に革命を起こすため、レオンはウキウキしながら調味料作りに取り掛かかる。
夢中になって作業をしていたが、約束をしていた時間になってきたので出かける準備をしなきゃ。
レオンは、カルーア町の活気付いた大通りを歩いていた。通り過ぎた馬車の荷台には、多くの木材が乗っている。そんな馬車が何台も目まぐるしく移動していた。
町の飲食店には、多くの職人、商人、住民が食べに来ていた。
飲食店以外にも繁盛しているお店もあり、ミニバブルがカルーア町に起こっている。
カルーア町にある剣術道場まで来たレオンは、挨拶をして剣術道場に入った。
出迎えてくれたのは猫人族のシェリーだ。
「いらっしゃいレオン」
「お邪魔します。シェリー遊びに来たよ」
今日はシェリーにお呼ばれして、シェリーの実家でもある剣術道場にお邪魔している。
剣術道場には多くの種族の人が稽古していた。剣術道場の師範はシェリーの父親ウィルだ。カルーア町に攻めて来た魔物を討伐した時に活躍した一人。
この世界には多くの剣術があるが、中でも2大剣術と呼ばれる虎狼流と飛燕流が有名である。
虎狼流は攻撃の強さと速さを重視し、飛燕流は防御とカウンターを重視しいる。
剣術も魔法も初級、中級、上級、特級、極級、王級、神級とランク分けされている。
カルーア町の剣術道場師範のウィルは、虎狼流の極級。ちなみにシェリーの母親サラは飛燕流の極級で、虎狼流と飛燕流を両方習える道場として有名なのだ。
「よく来たねレオン君。ゆっくりしていってね」
「いらっしゃい。あながシェリーの言ってたレオン君ね。シェリーの言って通り、可愛い子ね」
「お、お邪魔してます」
シェリーの両親に挨拶されて、レオンは畏まってしまう。
ウィルはイケメン猫人だし、サラは美人猫人だ。その子供のシェリーも可愛いくなるわけだ。
シェリーを見ると目が合った。
見つめてると顔が真っ赤になって目をそらす。尻尾がフリフリ動く。照れる仕草が可愛いな。
暫く道場の稽古を見学させてもらう。
魔法のある世界で身体強化が出来るから、凄い速さで師範は素振をする。
途中でレオンも稽古を誘われたので、道場の稽古に参加する事にした。
素振りをしていたら、ウィルから筋がいいと褒められた。前世の剣道していたのが役立ったようだ。
良かった、剣道習っていて。
シェリーも一緒に稽古をする事になったのだが、彼女の剣術は凄い。実戦で魔物と戦ってる経験もあるから、子供とは思えない動き。
ウィルとサラの英才教育のお陰だろう。
シェリーはこの道場では強くて可愛いから、アイドル扱いされているらしい。あれだけ可愛いなら、当然アイドル扱いされるよね。
稽古も終わりシェリーの部屋で、お菓子を食べながらお喋りする事に。
シェリーの部屋は、姉のシンディー部屋とは違った女の子らしさがあった。窓のそばには小さな植木鉢があり、綺麗な花を咲かせている。
シェリーと、お互いの家族の事や好きな食べ物、いろんな事を話した。
話をしながらも、レオンは我慢していた事が一つあった。長い時間考え迷ったあげく、ついに勇気を出して言ってみる。
「シェ、シェリー」
「どうしたのレオン?」
モジモジしているレオンに、どうしたんだろうと気になった。
「あ、あのねこんな事いきなり言ったら失礼かもしれないけど……」
「う、うん……何かな?」
ただならぬ空気にシェリーも緊張した。
「シェ、シェリーの尻尾を触ってもいいかな!」
「えっ!」
ついに勇気を出して言った。
レオンは、フワフワして柔らかいのが大好きだ。正直着ぐるみ魔法も最初は大丈夫なのかと心配したが、今は素材のフワフワ感に虜だ。
前世でも動物好きだったのもあり、目の前でユラユラ動いている柔らかそうなシェリーの尻尾を、触ってみたいとの欲求が爆発した。
「えっと、ボ、ボクの……し、尻尾をかい?」
「うん」
「……ボクの尻尾だよね?」
「うん」
シェリーの顔を見たら驚いた様子で、ボーッとした状態だった。しまった、やっぱり失礼だったか?
「ごめんシェリー。こんな事を急に言って失礼だよね。ごめん、さっき言ったのは忘れて」
「えっ……べ、別にいいよレオンなら」
「本当にいいの? ありがとう」
シェリーはレオンに背を向けて座った。
シェリーの尻尾はユラユラ動く。
念願のフワフワした尻尾を触るため深呼吸した。
「じゃあ、触るよ?」
「う、うん」
レオンに背を向けたままシェリーは返事を返す。
「では、失礼します。……これは……おお~。癒される」
シェリーの尻尾を優しく触った。
感触は、最高ランクの感触。
あまりのフワフワ感に、我を忘れて頬ずりまでしてしまう。
「ひゃうん!」
シェリーは思わず声に出してしまった。しかし小さな声だったのと、レオンが夢中になってたので、レオンには聞こえていない。
背を向けて座っているのでレオンには分からないが、シェリーの顔は今までで一番真っ赤になっている。
レオンは知らない。
猫人族の尻尾を同性が触る時は、触った方が『私はあなたと友達になりたい』との意味がある。猫人族の尻尾を異性が触る時は、触った方が『私はあなたに好意がありますよ』との意味がある事を。
レオン知らずに頬ずりまでしている。
求愛だ、極めて強い求愛だ。
だがレオンは知らない。
レオンはフワフワ感を思う存分楽しむと、尻尾を触らせてもらったお礼を言った。
「ありがとうシェリー。思わず興奮しちゃった……ごめんね」
「あ、えっと……うん」
レオンは手に残ったフワフワ感の余韻を楽しんでる。シェリーは、レオンの顔をチラチラ見ながら顔を赤めている。
何度も言うがレオンは知らないのだ。
それからレオンは描きたい風景画の話や、食べてみたい物の話をした。シェリーは冷静さを取り戻そうとして、必死でレオンとの話を合わせた。
空も暗くなり始めたので家に帰るレオンを外まで見送ると、シェリーは急いで自分の部屋に戻って枕に顔を埋めた。
その顔が恥ずかしがったり、ニヤニヤしたりしていたのを知るのは、シェリー本人だけだ。