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第4話 猫耳の女の子

 朝目覚めると見慣れた自分の部屋と違った。ここは父親アッシュと母親クリスの寝室だ。そうだ昨日は……

 

 魔物の討伐を手伝ったレオンは家に帰るとクリスに怒られた。黙って家を抜け出したのもそうだが、戦いに参加した事を知ると更に怒られた。

 アッシュがレオンの活躍を伝えたが、まだ幼い我が子が危ない事をしてはいけませんと、長々と注意を受けた。

 

 レオンは罰として暫くクリスと一緒に寝るようになってしまった。クリスは「母親の愛情を注ぎ込んで再教育よ」とか言っていたが、前々から「一緒に寝ましょう」と誘われていたのだ。

 

 レオンは前世の記憶があるため比較的早く一人部屋で寝起きする事を主張した。だって若い女性、と言っても自分の母親だけど見た目は子供でも中身は成人している歳だから一緒に寝るなんて正直恥ずかしい。

 

 姉であるシンディーの時よりレオンは早く親離れしたものだからクリスは余計に子離れ出来なくなった。

 そこでクリスは今回の事がチャンスだと思い、愛するレオンとのスキンシップタイムを獲得するため、罰として一緒に寝ましょうなんて事になってしまった。


 そんな経緯があり今に至る。アッシュは昨日の魔物の件もあり、後始末のため暫く行政区の建物で寝泊まりするらしい。

 クリスに抱き締められた状態で起きたレオンは身動きが取れず困っていた。

 そお~っと手を振りほどこうとしたがギュッと再び抱き締められる。これって起きてるんじゃないんですかクリスさん? と思った。

 顔を見ると寝顔だが口元がにやけている。やっぱり起きてるじゃないですか……


「クリス母様、おはようございます」


 寝たふりをしているクリスに挨拶した。

 クリスのまぶたが少し上った。

 眠そうなふりした顔をしている。


「おはようレオン」

「母様、そろそろ起きましょうか?」

「まだ眠いから、もうちょっとこのままで」


 そう言ってクリスはレオンとのスキンシップ延長を楽しんだ。




 朝食の時はアッシュも家に戻ってきた。レオンは昨日の事で創造神から本とペンを貰い着ぐるみ魔法を使った事を説明した。もちろん自分が転生者だとは秘密だ。


「なるほど創造神ビシュヌの加護か……」


 アッシュはフムフムと頷きながらレオンの話を聞いていた。


「凄いわねレオン。神話に出てくる神様の加護なんて」


 シンディーはマジマジとレオンの顔を見ていた。その目は尊敬の眼差しだ。これは弟の株が少し上がったのか?


「さすがは私のレオンちゃんね。凄いわ」


 クリスからの株も上がったようだ。子離れが長引きそうな気がする。

 神様からの加護なんて話を信じてもらえるか不安だったが理解のある家族で良かった。




 危機が去ったカルーアの町は、いつもの雰囲気を取り戻している。不安だった住民の顔はいつもの笑顔で満ちている。

 

 町を歩いていると、いろいろな人が声をかけてくる。昨日の戦いの功労者だとか、竜の着ぐるみだったから『カルーアの守護竜』だとか恥ずかしい名で呼ばれた。本気で恥ずかしかったので早歩きで移動した。

 

 町の外では多くの兵士や冒険者等が後始末をしていた。魔物から取れる素材も立派な収入源になるからだ。

 素材を探しに自分が戦った場所に行ってみた。炎や魔法で跡形もないのが多いが、根気よく探してみよう。


「あっ、残ってた」


 よく見ると土に埋もれてた部分があり、その中からワイバーンの爪と牙と鱗を手に入れた。冒険者ギルドに持って行くとかなりの金額になる。

 

 試したい事があるので、レオンは創造神の本を出す。『竜王バハムート』の絵のページを開くと、ワイバーンの爪と牙と鱗を絵の上に乗せた。

 本が一瞬光ると、乗せた素材は絵に吸い込まれ消えてしまった。


「やっぱり、成功だ!」


 本に描いた絵に適合する素材なら、吸収して絵の力をパワーアップさせるらしい。

 更に『竜王バハムート』は強くなるのかと驚いた。特別ページに描いた絵の『竜王バハムート』は一回使ったら丸一日待たないと使えないようだ。力ある物の制約だろう。

 そうなると、むやみやたらに使うのではなく、ここぞの時に使わないといけない。違う絵も描かないといけない。




 夕食の時もアッシュは家に戻ってきた。今後のことを説明するためだ。魔物によって壊滅されたナリディア国には、まだ魔物が多数いるらしい。

 

 魔物の討伐理由を口実に兵を派遣しようとする国があった。キシリア聖国。中央大陸で3番目の国力を持つ大国だ。

 キシリア聖国はキシリア教を全世界に広め、多数の信者をもつ宗教国だ。キシリア教は魔物の根絶を考えてた為に今回のナリディア国への魔物討伐は、ナリディア周辺に展開出来る絶好の口実だ。

 

 ナリディア国周辺の国々は、これに危機感を感じ早急に話し合いをしていたらしい。中央大陸にあるロゼ王国もそうだが、その周りの国も小国ばかりだ。

 ロゼ王国を中心に他の小国も協力し、互いに兵を出してナリディア国に残った魔物を討伐してしまい、キシリア聖国の魔物討伐の大義名分を奪おうと考えていた。


「そういう訳で俺は王都から応援に来るはずだった3千の兵士と、新たに冒険者ギルドに依頼を出して集まった冒険者達と共に、ナリディア国の魔物残党退治をして来る。それと、どうして魔物が軍勢化したのかも調べないといけないからな」


 アッシュはさらりと説明した。


「父様、そのキシリア聖国とは危険な国なのですか?」

「表面上は弱者救済を掲げてる国だ。裏では異教徒狩りをしているなんて話も聞く」


 レオンはその話を聞いて昔習った授業の事を思い出した。この世界でも似たような事が起こっているのだろう。


「なるべく早くナリディア問題を解決しないとな。キシリア12聖騎士が出てくるかもしれない」

「何ですか、キシリア12聖騎士とは?」

「キシリア教皇直属の部隊だ。将軍並みの権限が与えられ、剣術、魔法、知力等を極めた12人だ。経験豊富なSランクの冒険者でも戦いを避けたがる程の強者だ。裏では暗殺もしているとかの噂があったな」


 なんて物騒な奴らだ。まだまだ自分が知らない事が多いんだなと思った。

 

 夕食を終えて自分の部屋に戻ると新しい絵を描き始めた。絵の良し悪しで初期能力が変わるので、気合いを入れて描く。

 一息ついて休んでると、コンコンとノックをされた。部屋に入ってきたのは姉のシンディーだった。


「レオン、そろそろ時間よ」

「えっ、も、もう時間ですか?」

「そうよ! もう時間よ」


 シンディーはレオンの手を取り自分の部屋に連れていった。魔物退治に参加して心配させた罰としてシンディーは、拒否権の無い強制着せ替えの刑を執行した。

 シンディーはレオンより3歳年上だ。後何年続くか分からない姉の着せ替え趣味を、不安に思うレオンだった。




 アッシュがナリディア国に向かって、数日が経過していた。レオンはカルーア町近くのクロノス大森林に来ていた。新たに絵を描き終えて、新しい着ぐるみ魔法を試すためだ。

 

 クロノス大森林を目当てにカルーア町には、多くの冒険者がやって来る。大森林で取れる素材や多種の魔物討伐など多くの仕事があるからだ。

 クロノス大森林は広大で、奥に行けば行くほど強い魔物や良い素材が手に入る。大森林入口だと弱い魔物しかいないので、安全のため入口付近で着ぐるみ魔法を使ってみる。


 ふと見ると数匹の魔物がいた。ゴブリンとオークだ。その魔物と戦っている女の子がいた。助けないと。レオンは新しく描いた絵の名前を叫んだ。


『妖孤』


 キツネ耳フードにフワフワしたキツネの手、尻尾もフワフワしている。『妖弧』とはキツネの妖怪で妖術を使え、人に化けたりする事が出来る。

 

 すぐに女の子の加勢をした。

 女の子の髪から猫耳が見えた。猫の尻尾もある。この子は猫人族のようだ。

 女の子は短剣を持って魔物と戦っていた。周りには何匹か倒したと思われる魔物が倒れていた。

 レオンは魔物にスキルを使う。


『狐火』


 炎がゴブリンに当たる。竜王バハムート程の威力はないが、ゴブリン相手なら充分倒せた。

 

 仲間を倒され怒ったゴブリンが、剣を振り上げて襲って来た。かわして爪攻撃をする。ゴブリンは盾で防御したが、革の盾だったのですぐ壊れた。盾も無いので、レオンの攻撃を防ぎきれず倒されてしまった。

 

 女の子は急に現れたレオンに驚いたが、すぐに魔物の戦いに集中した。

 レオンに向かって来たオークに『妖孤』の別のスキルを使う。


『狐の幻術』


 オークはウォーと声を上げ、誰もいない所をひたすら槍で攻撃している。オークには幻術をかけられていて、無人の場所にレオンが存在しているように見えているのだ。

 

 その隙に『狐火』でオークを攻撃してあっさり倒した。気が付けば魔物はすべて倒して女の子と二人だけになっていた。

 女の子はレオンに近寄ってきた。


「ありがとう、助かったよ。ボクの名前はシェリー、猫人族だよ。よろしくね。君は狐人かい?」

「違うよ、人族だよ。名前はレオンって言うんだ。よろしくね」


 レオンは狐耳フードを取って顔を見せた。不思議そうな顔をしているシェリーを改めて見た。

 耳を超える長さの綺麗な銀髪から出てる猫耳、パッチリとした大きな瞳をした綺麗な目、ピンっとなってる尻尾、可愛い顔立ちは将来間違いなく美人になるだろう。

 

「レオンって名前なら男の子だよね? 名前を聞くまで女の子かと思ってたよ」

「うっ……よく言われます……」


 創造神ビシュヌのせいでよく間違えられる。複雑な心境だよ。


「ねぇ、レオンの服って何だか変わってるよね?」

「これは着ぐるみ魔法なんだ……そうだ! 凄いのを見せるね」


 レオンは「ちょっとごめんね」と断りを言ってシェリーの頭を触る。シェリーはピンと直立不動になり顔を赤めた。


『変化の術』


 スキルを唱えるとシェリーと同じ姿になった。


「これ、ボクだ! 凄い。凄いよレオン!」

「初めて使ったけど成功だね」


 ちなみに声も変化している。触れた相手の姿や声もそっくりに変化出来るスキルだ。


 元に戻ると興奮したシェリーから質問攻めにされた。まぁ、話しが出来る切っ掛けになって良かったよ。

 レオンはシェリーの事もいろいろと聞いてみる。




「キノコ採りに来た時に魔物に襲われたのか、大変だったね。それにシェリーがカルーア町の剣術道場の子だったなんて……強い訳だよ」

「ボクはそんなに強くないよ。でもレオンがカルーア町で噂になってた子供だったんだ。凄いよレオン」


 シェリーと長く話していたので、気付くと辺りが暗くなり始めていた。


「そろそろ帰ろうか。ねぇ、今度遊ぼうよシェリー。もっと話もしてみたいし。良かったら友達になってよシェリー」

「良かった。ボクもレオンと友達になりたかったんだ。これからもよろしくね」


 二人はいろいろ雑談しながら楽しく帰って行った。新しい友達も出来て、心はウキウキだ。




 ナリディア国の壊滅が全世界に知られ多くの人に驚かれたが、悪い事は続くらしい。6大魔王がいる魔大陸で、異変が起こったとの報せが間もなく全世界に伝えられる。




 










お読みいただきありがとうございます。

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