表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/27

第3話 魔物の軍勢と着ぐるみ魔法

 ロゼ王国の隣国のナリディア国が、魔物の軍勢に壊滅したとの情報に周辺国は驚いた。

 小国とはいえナリディア国が、魔物の軍勢に襲われ壊滅するなど、思ってもみなかった事なのである。




 ロゼ王国タレア領カルーア町のフォックス家は、慌ただしくなっていた。ナリディア国に近いカルーア町に、魔物の軍勢が進行しているとの報せが届いたからだ。

 現在カルーア町の領主は病気のため寝込んでいた。レオンの父親であるアッシュは、カルーア町の軍事責任者なので、アッシュが領主代行として指揮をとる。


 フォックス家には臨時の対策本部が設置され、多くの兵士や行政官等が差し迫った問題に対応していた。

 その中でカルーア町の守備隊長である、エルフ族のライアスがアッシュに近況報告をしていた。


「アッシュ様、魔物の軍勢は約1万で、あと2日程でカルーア町に到達するとのことです」

「2日か。町の守備状況は?」

「現在守備兵及び戦いの経験がある者を集い、約2千人程集まりました。それから、町にある冒険者ギルドに魔物討伐依頼を出した所、町に滞在していた冒険者100人程が協力してくれるとのことです」

「冒険者も協力してくれるのは有り難いな。合わせて2100人か。カルーア町周辺の村には避難報告してあるのか?」

「はい。カルーア町に避難するか、安全な場所に移動するか促しました」


 ピリピリとした空気の中で話が続いていた。

 魔物を討伐した事のある者は多いだろう。多くても数十匹、あるいは百匹程度の魔物ならチームを組んで戦った者もいる。しかし1万の軍規模相手の対応は誰もが始めてで皆の顔はやや緊張していた。


「王都への救援要請はどうなっている?」

「先発隊3千が準備中で到着は4日後です。本隊はそれから少し遅れて到着するそうです」

「2日耐えれば応援が届くのか。魔物の軍勢はどんな種類がいるのだ?」

「ゴブリンやオーク、ガーゴイル等いろいろで、下級クラスの魔物が多いですが中級クラスの魔物もそれなりにいます。上級クラスも数匹確認されてます」

「なかなか厄介そうだな」


 危機がそこまで迫っている状況に、レオンは自分の部屋に戻り本とペンを出した。創造神から与えられた力を使うのは今がその時だと思いペンを走らせた。




 カルーアの町は初めての出来事で騒然としていた。初の籠城戦となり家の窓を塞ぐ者やカルーア町を離れようとしている者、戦いに備える者等、見慣れた町が様変わりしていた。

 ナリディア国より避難して来た人達も多くいて、これから起こる事にカルーア町の住人は更に不安が募るのであった。




 フォックス家では家族が集まり、話し合っていた。

 家族全員の表情は暗かったが、なるべく明るい雰囲気を出そうと皆が思っていた。


「私はこの町の守備を任された。魔物は一匹たりとも町に入れるつもりはない。クリス、私がいない間留守を頼むぞ」

「分かりました。アッシュ、無理はしないでね」

「あぁ。シンディー、レオンも大人しくしてるんだぞ」

「はい。お父様のご無事を祈ってます」

「父様頑張って下さい」


 その日の夜は家族で過ごしいろいろな雑談を楽しんだ。そして時間は流れ魔物がカルーア町まで到達した。




 ナリディア国と街道で繋がっているカルーア町の西門にアッシュがいた。西門が激戦区となりそうなので他の門より多くの兵士が配置されていてその指揮をするためだ。

 魔物は既に目視出来る位置にいる。その数を見た人達は緊張していた。

 ゴブリンやオーク等見知った魔物が多いが総数1万ともなると、見方も変わってくる。

 アッシュは緊張している兵士達を鼓舞するため、声をかけた。


「魔物の数を見て驚いた者もいるが大丈夫だ。1対1なら勝てる魔物は多い。数ではなくこちらは質で相手に勝つ。我らの町を守り抜くぞ!」

「オオーッ!」


 多くの兵士の力強い声がカルーア町に響き渡った。




 数時間後、戦闘が開始された。やはり激戦区となったのは西門である。西門の上には弓兵や魔法使いが遠距離攻撃し、城壁を登ってくる相手に剣や槍を装備した兵士が対応していた。


「ライアス、各門の状況は?」

「アッシュ様、どの門もしっかり敵の進行を防いでおります」

「よし。何かあったら直ぐに報告せよ」

「はっ」


 ライアスはアッシュに敬礼して指令本部に戻った。

 西門の上には城壁を登って来る魔物に、猫人族のウィルが剣で鮮やかに倒していた。


「アッシュ殿、大物狙いに行ってもいいかい?」

「ウィルさん待って下さいよ。今は城壁の守備をお願いします」

「やっぱり、まだ駄目か」


 猫人のウィルは、カルーア町の剣術道場の師範で西門守備の要の1人として戦っている。


「アッシュ殿の家族はどうしてる?」


 登って来た魔物を軽く倒しながらウィルが聞いてきた。


「クリスが子供達と家を守ってます」

「うちの家も同じだ。お互い嫁さんは頼りになるな」


 アッシュも魔法を使いながら魔物を倒し、ウィルと話をしていた。今のところは順調に守れていた。




 レオンは自分の部屋で、創造神から貰った本に最後の仕上げを描いていた。


「やっと出来た。急いで行かないと!」


 外に出るためにこっそり部屋を出た。家にいるのは、クリスとシンディー、メイドのミクリにコックのコルトリアだけだ。執事のセバスチャンはアッシュと共に戦っている。

 誰にも見つからずに1階の窓を開け、レオンは外に出た。行き先は西門だ。




 西門では段々と苦戦をしてきた。空を飛ぶ魔物の対処や中級クラスの魔物が目立ち始めたからだ。

 魔物の数も想定していたよりも多くカルーア町に進行する時に、数を増やしながら進行してきたと思われる。

 アッシュはライアスから各門の状況報告を受けていた。


「苦戦し始めたがまだ大丈夫だな。援軍が到着するまで頑張ってくれ」


 アッシュはライアスに各門へと伝令を出した。


 レオンは西門の近くの家で本を出した。ぶっつけ本番となるが創造神の本の力、『着ぐるみ魔法』を使う。

 特別なページに描いた絵の名前を読み上げる。


『竜王バハムート』


 レオンの体が一瞬光輝いた。気付くとレオンの服装が変わっていた。レオンは家のガラスに写る自分の姿を見て驚いた。


「おー。本当に着ぐるみなんだな」

 

 レオンが描いた絵は竜の王バハムートだ。文献ではバハムートは世界魚と紹介されているが、レオンは架空の生き物として竜の王バハムートとして絵を描いた。

 レオンの身長に合った着ぐるみで、頭には竜の角が付いたフード、背中には着ぐるみらしい竜の羽が、手と足にも着ぐるみらしいフワフワ感で出来た竜の手足を装備している。尻尾もちゃんと付いている。


「しかしこれで本当に大丈夫なのか? コスプレ感丸出しだぞ。でもなかなか可愛らしいな……」


 ガラスに写った自分を見ながら一回転してみた。やっぱり可愛いと思った。


「おっと、こんな事している場合ではない」


 背中には羽が付いてるし空も飛べるだろうと考え羽を動かしてみた。体がフワリと浮く。もっと高く飛びたいと羽に力を込めたら、もっと高く浮いた。


「本当に飛べるんだ。よし、西門まで飛ぶぞ」


 レオンは羽を動かし西門へと飛んだ。




 西門の上でアッシュとウィルが戦況を確認していた。


「このまま援軍が来るまで踏ん張のるかいアッシュ殿」

「そうですね。何か決め手があれば攻めに転じてもと考えてますが、今は守り重視ですね」

「ならば私が戦況を変えてみます。アッシュ父様」

「レオンか。しかし魔物の数が多いからなかなか……て、レオン? なんでお前がここに? それにその格好は……」


 レオンが隣にいてアッシュは驚いた。ウィルも羽を使って浮いているレオンに驚いている。


「では父様、行ってまいります」

「あっ、待てレオン」


 空を飛び魔物の軍勢の上で止まった。先ずはスキルを幾つか使ってみよう。レオンはスウッと息を吸い込んだ。


『炎の息』


 レオンの口から大きな炎が出た。炎は広範囲に広がり魔物を焼き尽くした。炎が消えた地面は溶岩のようにグツグツと燃えていた。

 炎が燃え移っている魔物もいて、地面にゴロゴロと寝て消火しようとしているが、次第に動かなくなった。


「凄い威力だな」


 想定外の威力に驚いた。特殊なページだったのが分かる気がした。魔物はまだまだ多い。次のスキルを使ってみる。


『氷の息』


 広範囲の魔物が一瞬で凍りついた。暫くして凍りついた魔物に亀裂が入るとバラバラに砕けちった。鎧を着てようが、盾を構えていようが関係ない威力だ。


「これも凄いな。着ぐるみ魔法恐るべしだな」


 レオンは地上に降りて魔物と対峙した。魔物もさっきの戦いを見ていたため最初は驚いて動かなかったが、指揮官と思われる魔物の声でレオンを襲い始めた。

 竜の爪の威力も確かめたいので、近接格闘に切り替えた。前世では空手、柔道の段持ちでボクシング経験もあった。しかしこの数を相手にするのはやっぱり恐い。

 

 震える体を無理やり動かし、迫ってきた魔物に攻撃する。先ずはパンチからだ。軽くジャブを繰り出した。当たった魔物はぶっ飛んだ。どうやらこの着ぐるみは力も強いらしい。

 竜の爪の攻撃も試してみた。鎧を着た魔物でも豆腐みたいにスルリと切り裂いた。尻尾も自由に動かせ魔物をぶっ飛ばした。


 スピードも早く一瞬で相手に近付く事も出来る。攻撃を受けた事もあったが、ガギンと重い音で敵の攻撃を防いだ。ダメージは全然ない。着ぐるみの素材はフワフワしているのだが、なんて防御力なのだろう。 


 レオンは指揮官と思われる魔物を中心に倒していった。『炎の息』や『氷の息』も使いながら、魔物の軍勢の奥まで来ると大型の魔物に出会った。

 何かの本で見た事があるAランクの魔物、ドラゴンのワイバーンだ。ワイバーンはレオンに向かって口から炎を出した。

 両腕で顔の前をふさいで防御した。ものすごい炎だったが、熱くもなく無傷だった。耐熱性もある着ぐるみだ。

 敵はAランクなので、更なるスキルを試してみる。


『フレア』


 炎と爆発の混合魔法でワイバーンに使った辺りは炎と爆発で地面が吹き飛んでいた。

 ワイバーンやその周りにいた魔物の姿はいない。フレアの威力は段違いのようだ。


 レオンが西門辺りの指揮官クラスを倒し始めたら魔物の統率が崩れてきた。他の門を攻めてる魔物の所にも移動して指揮官クラスを狙い指揮系統を狂わせた。


 右往左往してきた魔物に対してアッシュは西門から精鋭と冒険者を中心に編成した部隊で攻撃に転じた。

 これが奇襲として成功して多くの魔物を討伐した。その後、魔物は別々に逃げ始めカルーア町の戦いは終結した。


 カルーア町の市民は皆が喜び、戦った兵士達もまた同じように喜んだ。

 アッシュの元に戻ったレオンに対して皆が歓喜を上げた。アッシュはレオンに危ないだろうと説教したが、その後はよくやったと褒め称え皆に自分の息子だと自慢気に紹介した。

 こうしてカルーア町に再び平和が訪れた。

 










 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ