第2話 創造神の本とペン
ロゼ王国タレア領カルーア町。ロゼ王国には様々な種族が暮らしている小国である。
人族や獣族、魔族、エルフ族、ドワーフ族等の多民族国家だ。ロゼ王国は種族差別を無くす努力をしている。国家の重要な役職にも人族だけではなく、優秀な人物を優先させるため様々な種族の人物が役職についてる。
実力があれば種族や身分に関係無く活躍出来る国なのである。また、奴隷制度にも反対していて他の国とは違う所が多くこの世界では珍しい国なのだ。
この世界の街並みは中世ヨーロッパみたいなのが多く、文明は前世と比べれば低い。重い荷物を運搬するのは馬や船が物流の主力である。
手紙等の軽い物は、ペガサス等を利用しているため比較的早く連絡出来る。
新生暦1005年。レオンは5歳になった。
洗面所でレオンは顔を洗っていた。洗面所には大きな鏡があり、その鏡に写ってる自分の顔をマジマジと見ていた。
鏡に写ってるのは金髪で綺麗な青い目の男の子。
いや、レオンを知らない人だったら可愛い女の子だと思われるかもしれない。
レオンはため息をついた。
前世とは違う顔つきに、鏡を見るたび戸惑ってしまう。
洗面所から出ると、朝から優雅に仕事をこなしている執事に出会った。
「おはようございます。セバスチャン」
「おはようございますレオン様。朝食の準備は出来ておりますよ」
「ありがとうございます」
彼は執事のセバスチャン。白髪で40代くらいの男性だ。優秀な人物で、あらゆる仕事をこなすプロフェッショナルだ。
ものすごい筋肉質なのが凄く気になる。
食堂に行くと父親のアッシュと母親のクリスが席についていた。
「おはようございます、アッシュ父様、クリス母様」
「おう、おはようレオン」
「おはようレオンちゃん。さっ、私の膝の上に乗って一緒にご飯食べましょうね」
「クリス母様、私は一人で食べれますよ」
クリスはレオンの事を溺愛していた。前世の記憶がある私にしては恥ずかしさもあるのだが、何故か嬉しさもあるから複雑な心境です。
そういえばシンディーがまだ食堂にいない。
「母様、シンディー姉様の姿が見えないのですが?」
「起きてはいたけど、何をしてるのかしら?」
「では、私が呼んで来ます」
レオンは食堂を出てシンディーの部屋に向かった。部屋に入る前に、きちんとノックをする。
「シンディー姉様、おはようございます」
「その声はレオンね、入ってもいいわよ」
ドアを開けてシンディーの部屋に入った。シンディーの部屋は女の子らしい飾り付けがしてあり、動物の人形もたくさん並べてあった。
ベッドの上には女の子の服がたくさん並べてあり、シンディーが何やら考えている。
「シンディー姉様、何をしているのですか?」
「レオンにはどの洋服が似合うのかと考えてたのよ」
「姉様、私は男の子ですよ!」
「あら、いいじゃない。レオンって女の子っぽい顔だし、男の子の服だけではもったいないわよ」
何がもったいないか分からないが、最近のシンディーはレオンに着せ替えするのが楽しみらしい。
服選びに熱心なシンディーを無理やり食堂に連れて行き朝食を済ませた。
朝食が終わったレオンは、この世界の事を知るために書斎で本を読み勉強する。
読んでいるのは神話の時代の話で、昔は神々同士で争ったり、あらゆる種族を巻き込んだ戦争の話等が書いてあった。現在でも生き残った神がいるらしいのだが、封印されていたり力を使い果たしていたりして、表舞台には出て来てないらしい。
創造神ビシュヌの記述もあった。まだこの世界に何も無い時にいろいろな生物や植物等を、誕生させた偉大な神の一人だと紹介されている。
やっぱり創造神とは普通の神ではないのだと改めて思った。一通り本を読んでしまうと、元にあった場所に本を戻す。
次は魔法の本を手に取る。魔法が使えるようにしっかり勉強もしている。ファンタジーな世界に来たのだから魔法が使えないともったいない。
秘密に魔法訓練していて、初級なら少し使えるようになって来た。それからこの世界では無詠唱で魔法を使うのは珍しいみたいだ。
魔法を使うなら無詠唱の方が後々便利に違いない。ならば無詠唱で使えるように努力しよう。
道のりは厳しそうだが少しずつ勉強していこう、
自分の部屋に戻ると椅子に座り創造神から与えられた力を使ってみた。レオンが思えば自由に本とペンを出したり消したり出来る。
レオンは本とペンを出した。本には綺麗な装飾があり、ご丁寧にも『着ぐるみ魔法』と書かれてあった。ペンは前世で漫画を描いてたペンと似ていて使いやすい。創造神の配慮だろうか。
本を開くと説明文が書かれてある。本の1枚ずつに力を与えれるようだ。表に絵を描き、裏に描いた絵の説明を書けば着ぐるみとして着れるらしい。
おかしな魔法だなと思った。これではコスプレではないか、こんなので大丈夫なのかと不安になった。
最初に描ける絵のページが他とは違う。説明文を読むとこのページだけ特別な加護を与えられるそうだ。
つまり、特製の一着が出来るのか。特製だと言われると何の絵を描こうか迷ってしまう。もちろん強そうなのがいいよな。
最近レオンは何を描こうか考え中だ。一度完成させてしまうと書き直しが出来ないからだ。
気分転換をするなら、自分が好きな事をするのが一番だ。レオンはフォックス家の庭で風景画を描いていた。この世界には見たことがない植物が沢山あり、絵を描くのに困らない。
花壇に咲いていた花の絵を描いていたら、メイドがお茶を持って来てくれた。
「レオン様お茶をどうぞ。レオン様は絵がお上手ですよね。そんなにそっくり描く絵を私は見た事がありません」
「ありがとうミクリ」
ミクリはボブの黒髪で、少したれ目の美人さん。彼女は休憩中の時よく木刀で素振りをしている。
前世で剣道の段持ちだったが、そんな私から見てもミクリの素振りは凄いと思った。何でも魔法で身体強化してるらしい。魔法は本当に便利だ。
夢中で絵を描いていると、辺りが薄暗くなり始めていた。
夕方になると、だんだんお腹もすいてきた。調理場からいい匂いがする。調理場に行くとコックのコルトリアが夕食の準備をしていた。
少しぽっちゃりしてる男性で、愛くるしい顔をしている。
「あっ、レオン様もうしばらく待って下さいね。あと少しで夕食をお出ししますので」
「いい匂いだったのでついつい見に来てしまいました。楽しみにしてますね」
この世界の料理は不味くはないのだが、やっぱり日本食が恋しくなる時がある。醤油や味噌等この世界ではまだ見た事がないが、機会があれば探してみよう。自分で作るのもいいかもしれない。
夕食が終わると自分の部屋に戻り本に描く絵を考える。候補の絵を何枚か描いてどれにしょうか迷っているとノックする音が聞こえた。
「誰ですか?」
「私よ。入るわね」
部屋に入って来たのはシンディーだった。シンディーはレオンが描いてた絵を食い入るように見た。
「本当にレオンって絵が上手いよね。これは魔物なの?」
「幻獣ですが、まぁ魔物と似たような感じですね」
「そうなの。あっ、この絵は何だか凄そうね」
凄いと言った絵はレオンの中で第一候補の絵だった。どの絵を選ぼうか考えていたけど、ようやく決めた。
選ぶきっかけをくれたシンディーに感謝しなければと思った時、何かを決意した顔でシンディーがレオンを見ていた。
「な、何でしょうかシンディー姉様」
「レオンの顔を見ていたら着せ替えしたくなっちった」
「……」
姉の権力は偉大だ。有無を言わさず、シンディーの部屋へと連行されてしまった。
着せ替えが出来たら次は髪形も変えられる。
ミディアム金髪のシンディーは自分で髪を編み込んだりしているので、レオンの髪も編み込んであげる。
至福の時間を楽しむシンディーの顔は、それはそれは笑顔だ。
悪夢だったシンディーとの着せ替えも終わり、自分の部屋に戻り本の製作に入る。
本に描く絵を決めたので、次は絵の説明文を考える。どんな能力にするのか。考え始めたらワクワクが止まらない。
男は何歳になっても子供だと言われる事があるが、今は5歳だから誰も文句は言わないだろう。
あれもこれもと能力を付けたいが、書ける文字数には限度がある。よく考えて決める事にしよう。
お茶でも飲んでゆっくり考えようと思い広間に向かった。
広間では、アッシュ、クリス、シンディー、それとセバスチャンがいてお茶の用意をしていた。
「レオン様、いいタイミングでした。今からお呼びしようと思っていたので」
「でしょ。何だかそんな気がしたんですよ」
雑談をしながら家族とお茶を楽しんでいると、玄関の方が何やら騒がしい。
しばらくして、セバスチャンと見知らね男性が慌てて広間に入って来た。男性は鎧と剣を携えていた。
「アッシュ様、失礼します。至急知らせなければならない事態が発生しました」
「何があったライアス?」
「隣国のナリディア国が、魔物の軍勢に襲われ壊滅したとの事です」
「魔物の軍勢だと? 神話の時代では魔物の軍勢を使い、互いに攻め合ったと書いてあったが、新生暦に入って魔物の軍勢なんて話は聞いた事がない。しかも国を滅ぼすとは……」
「それと、その魔物の軍勢がこのカルーア町に向かっているそうです」
「何だと!」
平和が続いていたこの世界が少しずつ狂い始めてきた。