第26話 魔獣達
「思っていたより魔獣が多いんだよな……」
迫り来る魔獣の群れに、ぼやいてしまうレオン。
ざっと数えても、三百体以上はいるよな。
特に気になるのは、大きな魔獣フェンリル。
フェンリルとは巨大な狼の魔物。
体長は六メートル以上、巨大な体の割には素早い動き。爪と牙が要注意なのは言うまでもないが、強力な炎の息も使えるて、非常に厄介な魔物なのだ。
魔物の強さはAランク。
「与えられた仕事はしっかり頑張らないとな」
上空から魔獣の群れに魔法を放つ。
『フレア』
炎と爆発の混合魔法が、魔獣の群れのど真ん中に命中する。魔法の威力は凄く、砂ぼこりが舞い上がる。
視界が良くなるまで待とうした時、砂ぼこりの中から炎の渦が!
「わっ、今のは危なかった」
間一髪避けることに成功したレオン。
煙が晴れると大きな魔獣。
さっきの炎はフェンリルか。
フレアの攻撃を免れた魔獣達がバラけ出す。
「参ったな……集まってくれた方が一網打尽に出来て楽だったのに」
翼がある魔獣が空に上がってくる。
キマイラだ。
キマイラとは、ライオンと山羊と蛇を組み合わせた魔物。この魔物も爪と牙、それに炎の息が要注意。
魔物の強さはBランク。
魔獣系の魔物は、爪と牙が本当に厄介だよな。
「ゴルルルッ!」
牙を剥き出して威嚇するキマイラ。
ライオンの口が開かれ、炎の息を放つ。
レオンも負けじと大きく息を吸い込み炎の息を放つ。両者同じ技だが、レオンの放つ炎が勝り、キマイラは炎に包まれた。
「倒せたか……いや、ダメか」
キマイラは炎に包まれても、平気な顔をしている。翼を羽ばたかせ、炎を消していく。
どうやら、炎の耐性があるようだな。
ならば、氷ならどうだ。
レオンは再び大きく息を吸い込む。
『氷の息』
冷気がキマイラを襲う。
全身がカチコチに凍り付いてしまうと、キマイラは地面へと落下した。ドスンと落ちた衝撃で、凍っていたキマイラは粉々に砕け散る。
「氷は有効だったか。次行くぞ!」
空に上がって来るのは、一体だけじゃない。
三十体程のキマイラが続々と上がって来る。
スピードはレオンの方が上。
囲まれると厄介だな。トップスピードで動いて、追い付かれないよう気を付ける。
隙を見て氷の息を使い、確実に倒していく。
レオンの爪も有効だった。
すれ違い様に、キマイラの首を狙う。
ライオンの首だろうが、山羊の首だろうが、蛇の首だろうがなんでもいい。
速いスピードが影響しているのか、意図も簡単にキマイラを切り裂く。まるで紙を切るような柔らかさだった。
「おっと、地上の魔獣も何とかしないと」
空飛ぶ魔獣と勝負している最中に、地上の魔獣はリリム目掛けて移動している。
先頭を走っている魔獣達に魔法を放つ。
『重力弾』
大きな黒い球体が魔獣をぐしゃりと押し潰す。
地面は大きく陥没し、黒い球体が消えた頃には生きている魔獣は一体もいなかった。
第二波の魔獣が迫っているので、地上に降りて自らを囮とする。
思った通りだ。
地上に降りたことで、狙いは再度レオンとなる。
体長二メートルはあるだろう狼達が、レオンを包囲し出す。狼の口は牙を剥き出しにして、唸り声を上げている。
ジリジリと距離をつめた一体が襲い掛かる。
大口を開けて噛み付こうとしたが、レオンはバハムートの爪で返り討ちにした。
狼はその光景を恐れず、今度は五体同時に飛び掛かる。
動きはレオンの方が速い。
一体を右手の爪で切り裂き、一体を左手の爪で切り裂く。三体目は尻尾で狼の頭がい骨を砕く。残り二体は氷の息で凍らせる。
あっという間に倒した五体の狼だが、その屍を乗り越え次々に襲ってきた。この狼達は恐怖心がないようだな。
死を恐れない者は厄介だ。
仲間が何体殺られても攻撃は続く。
レオンは、爪、尻尾、炎の息、氷の息で次々に倒す。
「これで最後の一匹だな」
多かった狼も、ようやく尽きたか。
「レオン君、大丈夫かしら……」
離れた場所でエリーシャは心配していた。
遠くから魔法で攻撃している音が聞こえる。
「エリーシャは過保護じゃな。心配せずとも、あやつの力なら大丈夫じゃ」
「ちょっとは心配しなさいよリリム。私のレオン君に何かあったら許さないわよ」
エリーシャはリリムを睨み付けた。
「怪我をした時のために、エリーシャがいるではないか。考えてみよ、怪我を優しく癒してもらえば、心も揺れ動くものじゃ」
ニヤッと笑うリリム。
「うっ、確かに一理あるかもね。でも大怪我だと嫌よ。出来れば軽傷程度がいいわ」
「神級の回復魔法が使えるじゃろ。大怪我でも大丈夫じゃ」
「気持ちの問題よ。大怪我を見たら心臓が止まるかもしれないでしょ」
「やれやれ、困ったやつじゃ」
そわそわしているエリーシャを、リリムはあの手この手で宥めていた。
次は、どの魔獣が相手かな。
ドン、と地面を足で叩き威圧するのは、頭が三つある魔獣。
ケルベロスだ。
ケルベロスは犬の頭が三つある魔物。
体長は四メートル前後。三つある頭はそれぞれが独立しており、三体の犬が一体に合体した感じだな。
魔物の強さはBランク。
ケルベロスの三つある首全部がレオンを睨む。
「凄い目付きで睨まれているな。よだれを垂らしている、俺を食う気かな……」
一歩、二歩とレオンに近付き、三歩目で大きくジャンプした。着地と同時に爪で攻撃するが、レオンはサイドステップで避けているのでその場にいない。
一番左の頭がレオンを見付けると、ガブリと噛み付く。これもレオンはバックステップでかわし、左の頭を目掛けて殴った。
「キャイーン!」
ケルベロスは泣き声を上げた。
殴られた左の頭の顎は砕けてしまっている。
噛み合わせられない顎が痛々しい。
残り二つある頭が、レオンに向けて大口を開ける。
その口から高温の炎を放つ。
レオンは、顔の前で両腕を交差して防御する。
炎を吐き終えても平然と立っていれた。バハムートは、耐熱性のある着ぐるみなのだ。
ケルベロスの爪による追撃をかわして、バハムートの爪で反撃する。
右の頭を爪で切り裂く。
頭はボトリと地面に落ちた。
間髪いれず、残りの頭も爪で切り裂く。
頭が全部無くなったケルベロスは、地面に倒れ込んで動かなくなってしまった。
残りの魔獣も倒していき、最後に残ったのはフェンリル一体だ。
大物らしくゆっくり歩いて来るが、油断をするつもりはない。突如スピードを上げたフェンリルは、一瞬でレオンの前に現れると、自慢の爪で切り裂く。
どの魔獣よりも重い一撃。
防御はしたが、少し切り裂かれた。
『炎の息』
至近距離でフェンリルに炎を与えてやったが、大したダメージは無い。
フェンリルにも炎の耐性があるみたいだな。
今度はお返しとばかりに、フェンリルの大口から炎が出る。普通の炎とは違って黒い炎だ。
これも今までとは違う炎で強烈だった。耐熱性のあるバハムートでも熱いと感じる温度。
慌てて氷の息を自分に吹き掛ける。
まとわりつく炎で、氷の息を使わなければ危なかったかもしれない。
「フェンリルは危険な相手だな」
一旦離れようと動いても、追い付いてくるフェンリル。体は大きいくせに、スピードがあるとは油断ならない敵である。
氷の息を出したが避けられ、フェンリルがまた黒い炎を出そうと口を開けた瞬間、魔法を口目掛けて放つ。
『フレア』
フェンリルの体内で爆発した魔法は、レオンも吹き飛ばした。
至近距離で放った魔法なので、巻き添えをくらってしまう。
「いてて……結構痛かったな。でもフェンリルを倒せたし、良しとするか」
見渡せば、魔獣達はもういない。
あんなに多くいた魔獣だったが、全部退治出来た。疲れがどっと出てくる。だが、リリムの言いつけは達成した。
「任務完了だな」
リリムとエリーシャの元に戻れば、すぐエリーシャに抱き付かれた。
「レオン君が帰ってきてくれて良かったわ」
「わっ、エ、エリーシャさん苦しいです」
豊満なエリーシャの胸に、顔を押し潰されたレオン。
「ご苦労じゃったなレオン。ほれ、回復してやらんかエリーシャよ」
胸を押し当ててるエリーシャにリリムが促した。
「そうね、回復して元気な体も抱き締めないと」
そう言ってエリーシャは回復してくれた。
回復が終われば、再度強く抱き締める。
「流石は我が親衛隊だ、褒めてつかわす」
リリムから労いの言葉をもらう。
この人も感謝するんだと驚いた。
「あ、え、えっと、ありがとうございます」
エリーシャに抱き締められた状態でお礼を述べる。
和やかな雰囲気だったが、突然この場の空気が変わった。
その原因は、遠くからやって来る男のせいだ。