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創造神の本とペンと着ぐるみ魔法  作者: お月見ウサギ
第3章 魔王来訪編
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第25話 単純な作戦

 暗殺者ラッセン。

 犬人族の男性で、狙った獲物は逃がさない。

 

 孤児だったラッセンは、盗賊団の雑用として生活をしていた。その生活は過酷で奴隷のような扱いだ。

 その中でラッセンは、静かに牙を研いでいた。

 戦う術を見て学び、隠れて自主訓練もやり始める。

 実力がつき始めると、ある事を実行に移す。

 寝静まった時を狙い、盗賊団のリーダーを殺害。ラッセンが初めて人を殺害した瞬間でもある。それから次々に仲間も殺害していく。

 その日から暗殺者ラッセンは誕生した。


 冒険者ギルドでは、長らく指名手配中の身。

 勿論賞金を狙った冒険者は何人もやって来た。一人で倒しに来た者や、何人も集まってチームで来た者達もいた。

 だが、すべて返り討ち。

 その中でSランクの冒険者もいたが、ラッセンの相手にはならなかった。


 次第に懸賞金も上り、今では莫大な懸賞金となっている。一度狙った相手は、けして逃がさないのがラッセンの信条。

 

 魔王リリムの城を襲った時の契約は禁忌の鍵の奪取。リリムの命を奪うことは契約には入っていない。

 だが、ラッセンはリリムの命を狙っている。

 それは、襲撃の時にリリムを取り逃がしたのが原因だ。依頼主は禁忌の鍵が手に入れば、別にリリムの生死はどうでもよかった。

 しかし、ラッセンのミスでリリムを取り逃がしてしまう。完璧主義者のラッセンは自分のミスが許せなかった。

 だからこそ、ラッセンはリリムの命を狙う。

 ミスを帳消しにするには、リリムを暗殺する事。そう自分に言い聞かせてリリムを追った。




 シェリーはフォックス家で、戦々恐々としていた。その理由は、目の前に魔王リリムがいるからだ。


「そう緊張するではない。もっと楽にせよ」

「は、は、はい……」

「大丈夫だよシェリー。リリムさんは意外と優しいから」

「意外とは失礼じゃな。妾は魔王の中では誰よりも寛大じゃ」


 和んでいる魔王とレオンの姿に、驚きを隠せないシェリー。


「そろそろエリーシャの元へ行くとするかの。シェリーよ、ゆっくりしていくがよい」

「は、はい」


 リリムは約束事があるので、エリーシャのお店へと向かった。


「ねぇねぇ、何で魔王がレオンの家で(くつろ)いでいるの?」

「えーっとね、話せば少し長くなるんだけど……」


 取り敢えず、これまで起こった出来事を説明した。


「なるほど……レオンも大変な目にあったんだね」

「そうなんだよ。いつの間にかリリムさんの親衛隊とかに入隊されてるし、困ったものだよ」 


 リリムも居ないので、ここぞとばかり愚痴が出てしまう。本人の目の前だと恐くて言えないから、しょうがないよね。


「それでレオンは、リリムさんとラッセンの対決を手伝うんだよね。大丈夫なの?」

「不安はあるけど大丈夫だよ。リリムさんの言う通りなら、俺が相手するのは弱い敵のはずだから」

「ボクは心配だな。何か手伝えればいいんだけど、ボクだと足手まといになるから……」

「ありがとうシェリー、気持ちだけでも十分だよ」


 シェリーは優しいな。

 一緒にいるだけで癒される。


「あっ、そうだった。今日はレオンを誘って、美味しいものを食べに行こうと思っていたんだ」

「そうなんだ、行こうよシェリー」

「よかった。レオンと一緒に行けて嬉しいよ」


 つかの間の休息を楽しめてよかった。シェリーには感謝しなきゃね。


 翌日、エリーシャのお店へと呼び出された。

 相変わらず繁盛しているお店なのだが、今日は休みなので人通りもなく静かだ。

 お店に入るとエリーシャとリリムが待っていた。


「いらっしゃいレオン君」

「待っておったぞレオンよ」

「待たせてすいません。それで、何か動きがあったのですか?」

「慌てなくても大丈夫よ」


 エリーシャから座るように促されて、椅子に座った。エリーシャが紅茶出してくれたので、ゆっくりと紅茶を味わう。

 砂糖を多めの紅茶がレオンの好みだ。

 その事を知っているエリーシャは、レオン好みの紅茶をちゃんと出してくる。


「レオンよ、ラッセンが近くまで来ておるそうじゃ」

「いよいよですか」

「当初の作戦通り、妾がラッセンを仕留める。ラッセン以外をレオンが仕留める。エリーシャはサポート、以上じゃ」


 随分あっさりした単純な作戦だよな。

 しかしラッセン以外の敵とは、どんな敵なの?


「リリムさん、ラッセンには協力者とかいるのですか」

「いや、奴は単独行動を好む。情報収集も一人でこなす。気を付けるのは、ラッセンが手下にしている魔物じゃ。レオンの強さなら大丈夫じゃ」


 これは力を認められているのか? 

 だとしたら素直に喜ぶべきか。いや、調子に乗ったら無理難題を吹っ掛けられるかもしれない。

 ここは謙虚に。


「俺なんかで大丈夫なんですか」

「案ずるなレオンよ。実力は妾が身をもって体験しておる。この戦いに勝利したら、妾の親衛隊長に任命しよう。どうじゃ、ヤル気がみなぎるであろう?」 


 逆にヤル気が失せてしまうよ。

 謙虚になってもマイペースなリリムには関係無いのか。しかも、ここにきて昇格の話とは……

 

「ほらほら、レオン君の可愛い顔が青ざめているでしょ。勝手にレオン君をリリムの親衛隊に入隊させないでよ」

「よいではないか。若き才能は早めに確保しとくのが妾の方針じゃ」

「あら、残念でした。私の方が先にレオン君を取り込んでいるのよ。レオン君は私のものなんだから」


 いやいや、取り込まれた記憶は無いのだが。

 そんなこんなでレオンの取り合いが続いたので、自分で紅茶のお代わりをして、落ち着くのを待った。


 話がやや脱線したので元に戻す。

 カルーア町の西にある平原。そこでリリムが姿を現し、ラッセンを誘い込む。

 予想されるは、ラッセンの手下である魔物との戦い。

 リリムの話だと、魔大陸から中央大陸まで移動した時に、繰り返し魔物の追っ手を放っている。その追っ手を、リリムは全部返り討ちにした。

 手持ちの魔物は少ないはず。

 と、リリムは予想する。

 

 ラッセンが手下にしている魔物は、魔獣系の魔物らしい。

 素早い動きが厄介そうだな。


「今回の作戦はリリムさんが囮となるんですが、いいんですか?」

「無論かまわぬ。しつこいラッセンを討ち取るためじゃ。この地で終わらせないとな」


 不適に笑うリリムが恐ろしい。 


「リリム、何でもっと早くラッセンと戦わなったのよ」

「探し物を優先させていたのじゃよ。だから各地を移動しながら、追っ手だけを倒してきた」

「へぇー、気になるわね、リリムの探し物。で、見つかったの?」

「まだじゃ。今後はカルーア町を拠点に探すつもりじゃ」 


 リリムの探し物か。気になりますな。

 けど、カルーア町を拠点にするなら、当分付き合いが長くなりそうだな。なんだか寒気がしてくるよ。


 作戦決行まで各々準備を整える事を確認して解散となった。




 あれから一週間が過ぎた。 

 カルーア町の西の平原にいるのは、レオン、リリム、エリーシャの三人。

 見渡す限り人の姿はいない。

 戦いにはうってつけの場所みたいだ。


「ラッセンは現れますかね」

「必ず現れる。奴もそろそろしびれを切らす頃じゃ」

「戦闘向きじゃない私としては、現れてほしくないわね。でもレオン君が守ってくれるのなら安心ね」


 エリーシャから期待の目差しが向けられる。

 戦闘が苦手のエリーシャだ、守ってあげないと。


 突然風がパタリと止む。

 静かな平原だったが、遠くから音が聞こえる。


「来たようじゃな、レオン」

「了解です」


 レオンは着ぐるみ魔法で変身する。


『竜王バハムート』


 変身が終わると、羽を使って空高く飛んでみる。

 砂煙を巻き起こして近付いて来る集団。

 魔獣の群れだ。

 地上に降りてリリムに報告した。


「リリムさん、魔獣の群れがやって来ます」

「そうか。ではレオン、出撃じゃ」

「あの……魔獣の数が多いんですが……」

「ほう、それは遣り甲斐があるではないか。頑張るのじゃぞレオンよ」

「は、はい。頑張ります」


 とんでもないブラック企業に入社したみいだ。

 しかし、請け負った仕事はしっかりやり遂げないといけないよな。

 レオンは気合いを入れて、魔獣の群れへと向かって行く。

  

 


 



 

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