第23話 旧友
何故かエリーシャがこの場に来ている。
「どうして、エリーシャさんがここに?」
「二人を止めに来たのよ」
エリーシャはそう言うと、魔王リリムを見た。
「久しぶりねリリム。」
「久しいなエリーシャ。そなたは、相変わらず元気そうじゃな」
「貴女もね」
どうやらこの二人は知り合いのようだ。
ともかく、戦いは終わりそうだ。
一先ずホッと胸を撫で下ろす。
取り合えずエリーシャとリリムに話を聞こう。
「お二人は知り合いなのですか?」
レオンはエリーシャとリリムに聞いてみた。
「そうよ。リリムとは旧友ってとこかしらね」
旧友と聞いて驚いた。女神と魔王が旧友か。世の中いろいろとあるんだな。
まぁ、長生きできる両者だ。関わりがあった時もあるのだろう。
「ところでリリム、貴女は何をしに、この町に来たのかしら。もしかして私に会いに来たの?」
「別に妾は、そなたに会いに来たのではないぞ」
「あらそう。それは残念ね」
「この町に来たのは、たまたまじゃ。逃亡中の身じゃしな……やっぱり、たまたまは撤回じゃ。美味しい物が多い町で、興味があったのじゃ」
「相変わらずの食い意地ね」
「それが楽しみじゃからな」
魔王も案外、美食家なのかもしれない。
それよりも、安否不明の魔王が生存していた事と、逃亡中の身って事、聞きたい事は沢山ある。
「あら、リリム。逃亡中って言わなかった?」
エリーシャが聞いて欲しい事を、聞いてくれた。
「そうじゃ、妾の城を襲った連中の一人がしつこくてな、追っ手を次々送り込んでおるのじゃ」
「魔王も難儀するのね」
「退屈せずにすむ」
リリムの顔には余裕があった。
しかし、魔王に追っ手を送るなんて、どんな連中なんだよ。
おっかない世の中だ。
「それでリリム。狙われた理由はなんなのよ?」
おっと。確信をつく質問だ。
リリムは一息つくと、口を開いた。
「禁忌の鍵が関係しているのじゃ」
「禁忌の鍵ですって!」
エリーシャの顔色が変わった。
禁忌の鍵とは確か、禁忌大陸の地下迷宮に使用出来る鍵の事だよな。所在が確認されていたのは、クルーズ帝国とキシリア聖国が、それぞれ一個ずつ持っていたはずだ。
魔王リリムも禁忌の鍵を所持していたのか。
「まさか、リリムが禁忌の鍵を所持していたなんてね。襲って来た連中は、何者なのかしら?」
「そこまでは妾も分からぬ。襲撃してきた連中は、全員仮面を付けておった。それに禁忌の鍵は、先代の魔王が持っていた物を、妾が受け継いだにすぎぬからな」
禁忌の鍵を狙って魔王を襲ったのか。禁忌の鍵とは、余程の価値があるのだろう。
「ところで人の子よ、そなたは何者じゃ。エリーシャとは知り合いのようじゃな」
リリムは俺の方を見て言い放った。
「ですから、言ったじゃないですか。刺客ではないって。俺はカルーア町で暮らしている一般人ですよ」
リリムの顔はまだ、納得してはいないような顔だった。
「レオン君、刺客と勘違いされたの? かわいそうね。リリム、この子は刺客ではないわ。私が保証するわよ」
「ほう、エリーシャがそこまで言うのであれば、刺客ではないのだろう。勘違いして悪かったなレオンとやら」
「いえ、誤解が解けて何よりです」
ようやく、身の潔白が証明された。
ありがとうエリーシャさん。
エリーシャに会釈すると、ウインクで返してくれた。
「レオンとやら、そなたの魔法は不思議じゃった。あの魔法は何なのか?」
「あれは、着ぐるみ魔法です」
創造神ビシュヌの事は伏せておいて、描いた絵が力を与えてくれる、不思議な本を持っていると説明した。
「珍しい魔法じゃな。その魔法のせいで、妾の魔法も効かなかったのか?」
「リリムさんの魔法ですか?」
そう言えば、酒場でそんな事を、言っていたような気がする。
「酒場の時の事ですか?」
「そうじゃ。妾の魅了の魔法じゃ」
魅了の魔法。確か学校の授業で習ったぞ。
相手の心を虜にする魔法。
そんな魔法を、あの酒場で使っていたのか。道理で酒場にいた男達が、膝まずいていた訳だ。
「多分、本を所持していたからだと思います」
「そうであったか。本当に不思議な本じゃな」
取り合えず本のお陰にしておこう。
「さてと、ここじゃなんだから皆で町に戻るわよ」
エリーシャの一言で、リリムも俺も頷いた。
カルーア町の酒場まで戻ってきた。
魔王リリムが、飲み直したいらしい。エリーシャと一緒に。
俺も取り合えず参加することになった。
「久しぶりの再会に乾杯」
エリーシャの乾杯の挨拶で宴が開始された。
魔王リリムは酒場に着くまでの道のりで、魅了の魔法を使い、男達を虜にした。
虜にした理由は、酒場の代金を男達に払わせるためだ。何とも恐ろしい魔法である。
「エリーシャは何故、この町におるのじゃ?」
リリムは酒の入ったコップを一気に飲み干した。
「私はレオン君に、クロノス大森林で助けられたの。私の王子様なんだからね。お姫様は王子様と一緒になる運命なのよ」
俺は、飲んでいたジュースを吹き出した。
「ちょ、ちょとエリーシャさん。何ですか、その例えは!」
「いいじゃない。本当の事なんだから。相変わらずレオン君の慌てっぷりは、可愛いわね」
クスクスとエリーシャは笑う。
「その年で王子様か。なかなかやるではないか、レオン」
「リリムさんも茶化さないで下さい」
似た者同士なのか、この二人は。
「ねぇ、リリム。これからどうするの?」
「そうじゃな、暫くはこの町に留まるつもりじゃ」
「魅了の魔法で、男達に貢がせ過ぎないようにしなさいよ」
「程々にするつもりじゃ」
程々か。リリムの顔がニヤついているのを見ると、程々ではないなと感じた。
この際だから、聞いてみたい事を聞いてみよう。
「リリムさんは禁忌の鍵を持っていたんですよね。禁忌大陸には、行った事あるんですか?」
「妾は、禁忌大陸に行った事はない。過酷な場所とは聞いておるからのぉ。不死の魔王が昔、挑戦したとか言っておったぞ。まぁ、途中で諦めたらしいが」
他の魔王が禁忌大陸に挑戦したのか。しかも、諦めたなんて。とんでもなく過酷な場所なんだな。
思わず身震いした。
それと、もう一つ聞いてみたい事がある。
「エリーシャさんとリリムさんは、どんな仲だったんですか?」
ピタリとエリーシャの動きが止まる。
それを見てリリムが笑顔で答えた。
「妾とエリーシャはその昔、どちらがいい女か勝負したのじゃ」
「ちょっとリリム! 昔の話は止めてちょうだい」
慌てるエリーシャは珍しいな。
面白そうな展開だ。
「そ、それで勝負はどうなったんですか?」
「レオン君! 子供はもう眠る時間よ!」
「まだ夕方ですよエリーシャさん」
「うっ……そうだったわ」
これは、是非とも知りたい内容だ。
「エリーシャの慌てぶりも、久しぶり見たぞ。レオン、妾とエリーシャの話はその内話してやろう」
エリーシャはホッとしている。
リリムが「貸しだぞ」みたいに、エリーシャに目配せさている。
まぁ、楽しみは取っておきますか。
お酒を飲み干したリリムは手をあげる。
「店主、妾達の席にもっと食べ物、お酒を持ってくるがよい」
金づるがあるから、豪勢に頼む気だな。
油断出来ない魔王様だ。
その宴は夜遅くまで続き、他の客にもご馳走するなどの大盤振る舞い。
酒場は今まで一番の売り上げだったらしい。
因みに魔王リリム達ご一行は、一銭も払わず、魅了した男達に払わせたそうだ。
『戦慄の魔王を受け継ぐ転生者』
新しい小説を書いてみました。読んで頂いたら光栄です。