表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
創造神の本とペンと着ぐるみ魔法  作者: お月見ウサギ
第3章 魔王来訪編
23/27

第22話 魔王の一人

 ロゼ王国カルーア町を、遠くから見つめる二人の姿があった。


「あれが噂のカルーア町なのじゃな?」

「地図を見る限り、カルーア町で間違いないです」

「妾を楽しませてくれそうな町じゃな。

 では、参るとするか」


 異質な魔力を放つ二人は、カルーア町を目指して歩き出す。その後ろには、二人を襲って来たと思われる魔物の死体が、大量に転がっていた。




「よいではないか。よいではないか」 


 そう言って、レオンの服を引っ張るのはルイだ。

 

「嫌です。もう懲りましたから」

「そこをなんとか。私とレオン殿の仲ではないか」


 今日のルイは、なかなか引き下がらない。前回あんなに拒絶したのに。


「そもそも、何で俺なんですか?」

「それは……レオン殿だからだ」


 どんな理屈だよ。

 でも、ここまで食い下がるとは。

 もう一度だけ、チャンスを与えてもいいのでは?


「ルイさんがそこまで言うのなら、受けてたちましょう」

「本当か! さすがレオン殿だ」


 急いで袋を持って来たルイは、小さな箱をレオンに渡す。レオンは、その箱をテーブルの上に置き、椅子に座った。

 そして箱の(ふた)を開けて、手を合わせる。


「いただきます」


 見た目は問題ないな。よし、いくぞ!

 しかし、箱の中身を食べたら、数秒後に倒れてしまった。


「レオン、大丈夫?」


 慌ててシェリーが駆け寄って来た。


「うっ、うぅぅ……シェリー、先立つ不幸を許してね……」 

「しっかりしてよ、レオン!」


 シェリーがレオンを揺さぶるが意識がない。


「レオン? レオンー!」

 

 悲しみのあまり、倒れたレオンに抱き付くと、パンパンと手を叩く音がする。


「ほらほら、芝居はそこまでだぜ。ルイが茫然自失してやがるぜ」


 ターニャの言葉でルイを見た。魂が抜け出た感じだ。


「でも、一瞬意識が無くなったのは本当だよ」


 レオンはむくりと起き上がった。

 前回の手作りお弁当も不味かったが、今回も更に不味かったなんて。


「ごめんねルイさん。レオンが、またお腹を壊しても困るし、お芝居に協力しちゃった」


 ペコリとシェリーは、ルイに頭を下げた。


「いや、いいんだシェリー殿。芝居をしてくれたお陰で、レオン殿の深刻さが分かった。それよりもレオン殿、今回もダメだったか?」

「お世辞を言っても問題の解決にはならないので、はっきり言わせてもらいます。不味いです!」

「そ、そんなー」


 自信があっただけにショックのあまり、膝から崩れ落ちてしまった。

 ルイは最近、料理に興味をもちだしたようだ。

 非常に残念ながら、魔法や剣術の才能があっても、料理の才能は無かった。

 古典的な砂糖と塩を間違える事や、まだ中身が生だったりと、いろんな意味で残念としか言えない料理が多い。


「ところで、自分で作った料理は、味見とかしました?」

「あっ!」


 意味深な一言で、全員がルイを見る。


「も、もしかして味見とかしてないとか?」


 俺は、恐る恐る聞いてみた。


「素材の味見はしたのだが、完成した料理は味見してない。自信があったからな」

「……」

 

 その後、知ってる限りの、料理のイロハを最初から教えた。願わくば、料理のスキルが上がりますように。 

 



 学校が休みの日に、エリーシャのお店を手伝うように頼まれた。

 カルーア町にあるエリーシャのお店は、幅広い種類の薬草が揃っていて、良く効く店として有名だ。

 お店の広さは、エリーシャ一人で切り盛りしているので、広くはない。


「エリーシャさん、この薬草は何処に置きますか?」

「空いてる所に置いといて」

 

 商品を陳列している棚には、調合した様々な薬草が並べられていている。エリーシャの言われた通りに、空いているスペースに新たに調合した薬草を置いた。


「他にやることありますか?」

「他はいいわ。休憩にしましょうレオン君」


 休憩に入ると、エリーシャはお茶を用意してくれた。


「学校では、どんな授業を受けてるの?」

「攻撃魔法が中心ですかね。後は、治癒魔法や剣術も一通り習ってますよ」

「あら、治癒魔法なら私が、手取り足取り教えてあげるのに」 


 胸を強調して、上目遣いで見つめてくる。

 この人は女神だ。しかし、俺がイメージしていた女神は、可憐で清楚なイメージだったんだが。


「女神様から教えてもらうとは、貴重な体験ですね。でもエリーシャさんの手取り足取りは、エロスが混じりそうな気がします」

「レオン君だけの特別授業だからね。お姉さんがいろいろと教えてあげたいの」

「やっぱり学校の授業で習います」

「もう。意気地無し」


 本気で残念そうな顔をしている。どんな授業をするつもりだったのか。




 エリーシャから買い出しを頼まれたので、買い物リストのメモを持って各お店を巡った。

 

 酒場のある店の通りに来た時、いつもと違う雰囲気だった。

 午後も過ぎて客足も減る時間帯なのだが、中は騒がしい。

 気になるので中を覗いてみたら、一人の女性を中心に盛り上がっていた。周りは男性ばかりで、全員が(ひざまづ)いている。女性はまるで女王様のようだ。


「人の子よ、妾の宴に何のようじゃ?」


 ロングで薄紫色の髪をした、妖艶な女性が聞いてきた。

 見た目は20代くらいで、胸は谷間が見えるほど大きく、男全員が(ひざまづ)くのも分かる気がするが、この光景は何か異常だ。

 

「これは一体何が起こっているのですか?」

「言ったであろう。妾の宴だと。それにしても、そなたも男じゃな?」


 性別を間違わないでくれる方は貴重だ。


「はい。男ですが」

「妙じゃな。男性で、妾の魔力に影響を受けぬとは……名は、なんと申す」

「レオン・フォックスです」

「レオンか。お主は何者じゃ?」

「何者って、別に普通の人間ですが」


 妖艶な女性は跪いている男性達を退かすと、レオンの目の前にやって来た。それから、暫く見つめられた。

 

「レオンとやら、妾について参れ」


 買い出しの途中だったが、なぜか断れず着いていった。連れてこられたのは、町から離れた何もない場所。




「さて、ここまで来れば良かろう。レオンとやら、そろそろ正体を現しても、良いのではないか」

「正体?」


 言っている意味が分からない。

 誰かと勘違いされているのか。


「しらを切るか。そなたが妾の刺客だということは、分かっておるのだぞ」

「刺客? 人違いです!」

「排除する」


 そう言って妖艶な女性は魔力を込めた。真っ黒な霧が女性を包んで、霧が無くなると変身した女性が現れた。

 頭には黒い角、背中には蝙蝠の羽、お尻には悪魔の尻尾。服装は、黒色の露出の多い服にロングブーツ。


「妾は6大魔王の一人、魅惑の魔王リリム・ティーミスじゃ」


 6大魔王、確か前に魔大陸の王の一人が、何者かに襲われたと聞いた。安否不明だったが生きていたか。

 この、異様な魔力、命の危険を感じた。自分も変身しないと危ない。


『竜王バハムート』


 一瞬で竜の着ぐるみに変身したレオンに、リリムは驚く。


「これは不思議な魔法じゃな。強大な力を感じる。やはり刺客であったか」

「だから、人違いですって!」


 完全に人違いなのだが、聞き入れてもらえないようだ。

 まさか、魔王と戦うなんて。


 リリムに巨大な魔力が集まっていく。


地獄の業火(デスファイヤー)


 桁違いの高温な炎が広範囲を攻撃する。

 

 目の前に攻撃が迫ると、レオンは息を吸い込んだ。


『炎の息』


 レオンも炎のスキルを使うが、ややリリムの魔法の方が上で、お互いの炎がぶつかり合うと、レオン寄りで爆発した。 

 しかし着ぐるみの『竜王バハムート』は耐熱性があるので、受けたダメージは無い。


「ビックリした。これって火の王級魔法だよな。いきなり無詠唱で、王級魔法とか反則だろ」


 体に付いた火の粉をパッパッと払う。


「お主の魔法もなかなかじゃな。妾の魔法が上だったが、さして目立ったダメージも無い。防御力もあるのじゃな」


 ダメージの無い姿を見て、リリムは新たに魔力を込める。

 

 相手の高威力な魔法に気をつけないといけない。そう考えていると、次の魔法が放たれていた。


水竜の咆哮(アクアロアー)


 レオン目掛けて、巨大な水の竜が襲いかかる。

 慌てず、大きく息を吸う。


『氷の息』


 巨大な水の竜が、たちまち凍りついていく。


「今度は水の王級魔法か。さすが魔王様だな」


 凍りついた水の竜にヒビが入ると、大きな音をたて砕けちってしまった。

 レオンは竜の爪を出すと、リリムに接近した。


 爪で攻撃するが、リリムのスピードは速くかわされる。リリムも自分爪を伸ばし攻撃するが、レオンのスピードも速くかわされる。

 お互いギリギリで避け、二人ともすり傷程度のダメージだ。

 

 リリムは腰に付けていた(ムチ)を取り出し、攻撃した。

 速い鞭の攻撃で避けるのが困難だったので、腕で防御した。防御した腕に鞭が当たると、バーンと大きな音がする。


「痛い! いてて……痛いと思った攻撃は、初めてかも」


 竜の防御力を上回る服なので、普通の攻撃は、びくともしない。それが痛みを与えるとは、攻撃力のある武器だ。


「その服、ただの服ではないな」


 予想してたダメージじゃないレオンを見て、リリムの攻撃が止まる。


「妾の鞭の偉力は、鋼の鎧をも簡単に貫くのじゃが」

「特注な服なので」

「そうか。なら、もっと攻撃を与えてみるか」


 鞭をもつ手に、力が入りそうな瞬間、レオンは息を吸い込み『炎の息』を出した。

 リリムは防御したが、動きは止まった。

 今がチャンス。


『重力弾』


 大きな黒い塊がリリムに当たり包まれると、黒い塊は地面にぶつかり、地面ごと叩き潰れた。

 ぶつかった地面は、大きく陥没している。


 竜の翼を使い、空に飛んで上から様子を見た。

 大きく陥没している穴には、リリムが立っていた。どうやら、倒せてはいないようだ。


「これも面白い魔法じゃな」


 穴から泥まみれのリリムが出てきて、ギロリとレオンを睨む。


「うっ、ドラゴンも潰してしまう魔法なんですが……」

「心配するな。ダメージはあるぞ」


 魔王様から心配するなと言われても、心配するでしょう普通は。


「レオンよ、光栄に思え。妾の最大魔法じゃ」


 膨大な魔力がリリムの手に集まり出す。

 直感で、かなり危険だと感じた。


魅惑の魔法弓(ファスクアロー)

 

 光る弓を持ったリリムは、輝く矢を放つ。

 魔力が圧縮された矢だ。

 こっちも魔力を込め最大魔法を。


滅炎大爆発(フレア)


 リリムとレオンの魔法ばぶつかり合い、大爆発を巻き起こす。

 土煙が消えるまで、かなりの時間がかかった。


 煙が晴れると、二人とも仁王立ちで、状況を見つめていた。


「妾の魔法と同威力か。これは長引きそうじゃな」


 魔王相手に、延長戦とか生きた心地がしない。

 どうする?


「そこまでよ、二人とも!」


 突然女の人の声がした。振り向くとエリーシャが立っていた。

 


 


 

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ