第16話 学校案内
昨日は、いい雰囲気だった。あの時、噴水が出てなかったらどうなっていただろうか……
シェリーは朝ごはんを食べながら昨日の事を思い返していた。いつもより心臓がドキドキしたあの瞬間。思い出すと恥ずかしくなってしまう。でも、また体験したいドキドキ。
朝食のパンを、ため息をしながら食べている姿を見て、父親のウィルはどうしたのだろうと心配した。
いつもなら元気よく食べるシェリーなのだが、今日はゆっくり食べたり、急に頬に手をあて恥ずかしそうにしたりと、自分の指を見たりと不審な行動が目立つのだ。
今日もレオンが迎えに来てくれるから、その時に自分の娘に何があったのか聞いてみようと、父親のウィルは思った。
「おはようございます」
元気に挨拶をするレオンの声を聞いて、ウィルは急いでレオンの元へ向かう。
勢いよく目の前に現れたウィルに驚いた。息づかいは荒く、真剣な顔をしていたからだ。
「レオン君、聞きたい事があるのだが」
「何でしょう?」
「では、こっちへ」
ウィルは個室にレオンを連れ出した。廊下に誰もいないかを確認して静かにドアを閉めた。
ただ事ではない感じに緊張が走る。
ドアを閉めたウィルが、レオンの目をしっかりと見た。
「レオン君。昨日は娘に何かあったのかい?」
「昨日ですか? 昨日は入学式が終わってから町を散歩して、それからプレゼント交換をしました」
「プレゼント交換?」
「はい。お互い入学祝いでプレゼントを用意していたんですよ」
「そうか……」
父親の前だし、いい雰囲気になったのは黙っておこう。
ウィルは考えた。プレゼントを貰ったら嬉しいはずだ。しかし今日の娘の様子は違った。嬉しそうというより、物思いにふける様子だ。
何だ? 娘は何を悩んでるいるのだと考えてると、ドアが開かれた。入って来たのはシェリーの母親サラだ。
「あら、二人で何をしているの?」
「ちょっとレオン君と話をしていてな……おっと。学校行く時間だったよな」
ウィルはレオンを部屋から出すと、また考え始めた。
「ウィル、どうしたの? 悩み事?」
「あぁ。サラは、シェリーの様子がおかしい事に気が付かなかったのか?」
「もちろん気付いているわよ」
「何が原因なんだろうな?」
「鈍いわねウィルは」
サラの言葉でウィルはキョトンとした。鈍い? 何が?
「そういえばウィルは、あの時いなかったっけ?」
「何が?」
「シェリーがレオン君からプレゼントを貰ったって、嬉しそうに見せてくれた所よ」
「そんなの見てないよ……何を貰ったんだ?」
「銀の指輪よ」
「!? なるほど。理解した」
「ようやく理解したのね。それにしても、レオン君となら楽しみね……」
しかしレオン君か……悪くないかも。ウィルはニヤニヤが暫く止まらなかった。
因みにこの世界で指輪を贈る時の意味は特にない。前世では婚約指輪とか結婚指輪とかあるが、こっちでは結婚する時に指輪を贈る風習は無い。
その事をレオンも知っていたので、指輪をプレゼントしても誤解されないだろうと思ってプレゼントした。
だが獣族だけが違った。獣族にも指輪を贈る時の意味があるのだ。
その意味は『絆を深めたい』もっと親密になりたい者に贈る風習が獣族にはあったのだ。
これからの展開に、ワクワクするシェリーの両親だった。
昨日の事で、よそよそしくなるかもと思っていたが、お互い普通通り話しながら通学出来た。
魔法学校に着くと、朝早くから出て来てクラブ活動をしている生徒達がいた。クラブはいろいろあって、魔法系や剣術系、文化系等、大小数多くある。いかにも青春って感じで胸が熱くなる。
特別クラスの教室に入ると、レオン達よりも早く来ていた3人がいた。
「おはようございます」
挨拶は人として基本だ。
「おはよう」
「お、おはようございます」
「よう」
挨拶してくれたのは、竜人族のラルクと鬼人族のナナミ、それにドワーフ族のターニャ。
自分の机に荷物を置くと、親睦を深めるために話しかけた。先ずはラルクから。
ラルクは自分の席で本を読んでいる。
「ラルクさんは何を読んでいるのですか?」
「これかい」
ラルクが見せてくれたのは見覚えのある本だ。入学した全員に配られたあの本だ。
「学校の規則が書かれている本だよ」
眼鏡をくいっと上げてレオンを見た。
「よかったら一緒に読むかい?」
「いや、今度お願いします」
「そうか。それは残念だ」
一緒に読むのもどうかと思うのだが。しかし朝から学校の規則本をしっかり読んでいるなんて、なんて真面目な人でしょう。この人、絶対特別クラスの委員長になりますよ。
読書の邪魔をしちゃいけないので、次のクラスメイトと親睦を深める。
机の上で何かの部品をいじっているのはドワーフ族のターニャだ。
「ターニャさんは何をしているのですか?」
「おう。レオンだっけか? これは魔導具を作っているのさ」
魔導具とは魔力を動力源にして使うアイテム。一般の生活から軍事まで、幅広く魔導具は活躍している。
シェリーにプレゼントした指輪も魔導具の部類に入る。
「魔導具作りって難しいのですか?」
「簡単な物だったら誰でも出来るさ。ハイスペックな物は複雑な魔法陣を描いたり、魔導具に合った魔石が必要だったりするけどな。興味があるならオレが今度教えてやるよ」
「是非ともお願いします」
ターニャはやっぱり面倒見がいいみたいだ。机の上で作っている部品の1つ1つを説明してくれた。男っぽい口調も、姉御って呼びたくなるような存在感。
お次の生徒さんは、あがり症の鬼人族のナナミ。
「ナナミさんは鬼人族なんですよね。鬼ヶ島とかあるんですか?」
「お、鬼ヶ島ですか。あ、ありますよ」
「えっ! あるんですか」
自分で聞いといてなんだが、まさか鬼ヶ島が本当にあるとは思わなかった。じゃあ、桃の人も存在するのか気になる所だ。
でも、鬼ヶ島の話題だと桃の人が登場するかもしれない。話題を変えないと。
「鬼ヶ島あるんですね。いつか行ってみたいです。所で、ナナミさんは和食に興味ありませんか?」
「わ、わしょく? ですか?」
和食の説明をすると、鬼人族にも米を食べる食文化があるので、和食の話は盛り上がった。話し込んでいたらクラスメイトも全員登校して来て、ミランダ先生も教室に入って来たので自分の席に戻った。
「おはよう。今日は、お前らに魔法学校の施設を案内する。野郎共、付いてこい!」
「合点承知!」
立ち上がって返事をしたのはレオンだけだった。ミランダ先生が親指を立てた。これはグッジョブのポーズ。どうやらミランダ先生に気に入ってもらえたようだ。
ロゼ魔法学校は1200人以上の生徒が学んでいる学校なので、とにかく広い。
最初に案内された場所は訓練場だ。ここには見覚えがある。入学試験の時に、実技試験をした場所だ。
訓練場は何時でも開放されていて、魔法や剣術を使い放題だ。的もいろんな種類が用意されており、訓練する内容に合わせて的も変えれるのだ。
武器も一通り揃っていて使い放題だ。
次は闘技場。ここでは生徒同士の実戦訓練が出来る。闘技場の下には、特殊な魔法陣と魔石が施されており、闘技場で戦っても受けた傷を回復してくれる。
致命傷な攻撃の時は、防御装置が発動して可能な限り威力を減らしてくれるそうだ。
どんな仕組みなのか分からないが、凄い場所だというのは分かる。
図書室に案内された。2階建てになっている図書室には、ものすごい数の本が、本棚にびっしりと入っている。
読むための机と椅子も多く設置してあり、図書室の管理人もしっかりいる。貸し出しは自由で、期限をしっかり守るようにと書かれた紙が貼ってある。
禁忌大陸関係の本もあるだろうか?
以前、死霊魔術師のフロストが言っていた禁忌大陸の事が気になり、フォックス家の書斎で調べたが、詳しく書いてなかった。
ここの図書室なら詳しく調べる事が出来そうだ。時間のある時に調べてみよう。
次に来たのは魔法学校の食堂だ。食堂も2階建てになっていて机と椅子が、ずらりと並んでいる。
食堂は寮生のために朝、昼、晩と開いていて常に温かい食事が出来る。安い料金、尚且つ豊富なメニューから選べるので生徒達だけではなく教師達にも人気な食堂なのだ。
調理する人達も多様な人種がいて、遠くから学びに来る生徒達に古郷の味を提供するサービスも人気だ。
医務室では治癒魔法が使える先生が常に常駐している。傷だけではなく、毒や呪いの治療も出来るので安心しろとミランダ先生が説明した。
他には職員室や学生寮等を案内されて、自分達のクラスに戻った。
教室に戻るとミランダ先生から授業の事で説明があった。ロゼ魔法学校は単位制だ。自分のランクに合った授業を受けに行く。
担任による授業の時もあるので、その時は担任の授業を優先させなくてはならない。
特別クラスだからと言って、専任の先生がいるわけではなく、普通クラスの生徒達と同じ教室で学んでいる。
特別クラスは普通の生徒より秀でた才能があるので魔法の研究や、他国にロゼ魔法学校を知ってもらう宣伝役としても活用される。
特別クラスの特典としては授業料が免状、魔法や剣術の研究費も学校が出してくれる所だ。
「今日の所はこれで終了だ。明日から授業が始まるるから、そのつもりで夜露四苦!」
ミランダ先生の貴重なお話が終わると、一人の生徒が立ち上がった。その顔は自信と傲慢さが合わさった感じだ。
その生徒はエルフ族のルイだ。彼女は今年の首席合格者。ただならぬ雰囲気だったので、そのまま静かに見守った。
ルイは魔族のディースの席の前まで来ると、ディースを指差す。
「ルイ殿、あなただな。もう一人の無詠唱使いは?」
「無詠唱? まぁ、一応魔法は無詠唱だけど」
「今年は私だけが無詠唱者だと思っていたけど……無詠唱者としてどちらが上か、貴殿に決闘を申し込む!」
「嫌だけど」
「なぬ?」
ディースの発言でルイは困った。挑発に乗って挑戦を受けると思っていたが、計算違いをしてしまった。
引くに引けないら、ここは押し通す。
「どちらが上か興味ないのか?」
「興味ない」
「少しも?」
「少しも興味ない」
「……」
このまま首席であり続けるために、早めにライバルとなる者と勝負して白黒つけようかと思っていたのだが、断られるとは……これからどうしたものか。
曇った表情になったルイを見て、ディースはレオンの方を見た。
「俺よりもレオンの方が強いはずだよ」
「!? えっ、俺?」
突然のご指名で驚いた。まさか自分に矛先が向くとは思ってなかった。
ルイの目の色が変わった。元気を取り戻したルイはレオンに言い放つ。
「レオン殿、決闘を申し込む!」
面倒な展開になってしまったな。




