第13話 死霊魔術師
ドラゴニアはレオンの顔をじっと見つめている。鋭い目つきがより鋭くなると、何かを思い出したような顔に。
ドラゴニアはレオンの近くに寄って来た。
「見た事のある顔だ。確かクロノス大森林だ。名はレオン、そうだろう?」
「はい。お久しぶりです、ドラゴニアさん。その節は助けていただきありがとうございました」
「ふん」
ドラゴニアは一言呟くと腕組をした。
ドラゴニアの視線はレオンだけではなく、シェリーや村の兵士達にも向けられていた。
「お前達はここで何をしている……いや、ここはお前達のロゼ王国領内だったな。我々の方が何をしているのか答えなくてはならい立場だろう」
腕組を解いたドラゴニアにキシリア聖国の兵士が口を開く。
「ドラゴニア様……」
「分かっている。しかしここはロゼ王国領内だ、勝手に行動しているのは我々だ。この地で大事になった場合、キシリア聖国とロゼ王国の外交問題に発展するかもしれん」
「……確かに。分かりました。後はドラゴニア様にお任せします」
キシリア聖国の兵士はそう言うと、後ろに下がる。
改めてレオン達の方に向きなおしたドラゴニアは話始めた。
「先ずは、ロゼ王国領内で騒ぎを起こした事を謝罪する」
ドラゴニアはレオン達に頭を下げた。キシリア聖国の兵士達もその姿を見て、すぐに頭を下げる。
「いえ、何か異常があったのだと分かりますので……」
レオンはドラゴン骸骨の死骸を見て答える。ドラゴニアは頭を上げて、また話始めた。
「キシリア聖国でスケルトンが出現したのが半年前だ。すぐに退治されたのだが、暫くしてキシリア聖国の隣国でもスケルトンが出現し始めた。そして次の隣国へと出現。地続きながら出現している」
「もしかして、誰かが移動しながら意図的にスケルトンを出現させてると?」
「恐らくそうだろう」
ドラゴニアは腕組をした。その目は遠くを見つめている。
「スケルトンを出現させている人物に心当たりがある」
「本当ですかドラゴニアさん」
「あぁ、死霊魔術師フロスト。奴がスケルトンを出現させているだろう」
死霊魔術師フロスト。何処かで聞いた名前だ。
思い出した! 確か冒険者ギルドの重要手配者リストにあった名前。何でそんな人物が、移動しながらスケルトンを出現させているのだろうか。
「理由は分からんが、フロストはスケルトンをあちこちで出現させている危険人物だ。早めに対処した方がいいとキシリア聖国の教皇が判断し、フロストが次に現れるだろうと予想してこの地に来たのだ。しかし着いたそうそうドラゴン骸骨に出くわしたのだ」
ドラゴニアの話を聞いてレオンは、シェリーや村の兵士達を見て頷いた。 シェリー達もレオンに頷く。
「経緯は分かりました。父に相談してロゼ王国側としても何かしらの対処をしてもらいましょう」
「こちらの素性も知られたし、お互い協力出来るならこちらとしても助かるのだが……」
「私の一存では何とも言えませんが、善処してもらうよう父に伝えます」
「そうか、助かる。しかしレオンは本当に子供なのか? ずいぶん大人じみているな」
「えーっと……こんな可愛い大人がいますか?」
キャッピと可愛いポーズをした。我ながら恥ずかしいと思うが仕方がない。
ドラゴニアを見ると……うん。予想通り、ぽかーんとしている。実に予想通りの反応だ。
急にドラゴニアの後で控えていたキシリア聖国の兵士達が騒ぎ出した。ドラゴニアが振り返ると、後ろの森から大量のスケルトンやドラゴン骸骨が出て来ていた。
レオン達が倒したスケルトンの数よりもはるかに多いようだ。ドラゴン骸骨も10体以上いる。目の前にいる多くの敵を見つめると、レオンは周囲を見た。
こちら側にはレオンとシェリー、それと村の兵士5人。
それと、ドラゴニアとキシリア聖国の兵士7人、合計15人。
村の兵士達は、ほとんど下級兵士。ここにいるキシリア聖国の兵士は全員騎士の鎧を着ている、恐らく全員上級兵士だろう。
シェリーの剣術は中級だが、中級にもピンからキリまでいる。シェリーの動きを見ていると上級になりかけの中級くらいだと思う。ドラゴニアはもちろん問題ない。
スケルトンだけなら大丈夫だと思うが、ドラゴン骸骨は戦った事がないので強さが未知数だ。
レオンはある程度の戦力分析をした。まだ森の奥に魔物が控えてないか気になる。
全員が戦闘体勢に入りそうになった時、1番後ろにいたドラゴン骸骨の上に人の姿が見えた。黒い魔術師ローブを着てフードを被っている。
「ヒヒヒッ。よぅ、久しぶりだなドラゴニア」
「やはりお前かフロスト」
ドラゴン骸骨の上に乗っている男が、フードを取るとドラゴニアに顔を見せた。
逆立った黒い髪の毛で、睨み付けるような目をしている。体つきは細身だ。
「フロスト、お前は何の目的で騒ぎを起こしているのだ?」
「ドラゴニアよ、何の目的かだって? 教えるわけないだろう……と、言いたい所だが昔のよしみだ、教えてやるよ。俺様の目的は死霊魔術で作る混合生物を生み出すことさ」
「混合生物だと!」
ドラゴニアの顔色が変わった。フロストはその顔を見てニヤついている。ドラゴニアは腕組をして、ふんと呟く。
「フロスト、それはキシリア教の教えに反するぞ」
「キシリア教の教えだと。ヒヒヒッ。反吐が出るね!」
フロストは吐き出すような仕草をした。それを見ていたキシリア聖国の兵士が前に出ようとするが、ドラゴニアは黙って兵士の目の前に手を出し兵士を静止させた。
「投降すれば、少しは罪を軽くするよう言ってやってもいいぞ?」
「相変わらす仕事好きだなドラゴニア。今は捕まる気は全然ない。これっぽっちもな」
フロストは親指と人差し指で、ほんの少しだけ隙間をつくった。
「そうか、なら無理矢理連行するか」
「おっと、今はドラゴニアと戦うつもりは無いぜ。スケルトンを出現させ実験を繰り返したおかげもあって、あと少しで混合生物が出来そうだからな。死骸の埋まっている土地を移動するのは大変だっんだぞ」
「ちっ、ゲスな奴め」
「ヒヒヒッ。何とでも言えよ。禁忌大陸絡みでこれから忙しくなるから早めに研究進めないとな」
「!? 何故お前が禁忌大陸に興味をもつ?」
「さあ、何ででしょう? そろそろお喋りは終わりだ。あばよドラゴニア」
フロストはドラゴン骸骨から降りると、森の中へ消えていった。
ドラゴニアはフロストが見えなくなるまで怖い表情で見ていた。ふぅと、ひと息つくとドラゴニアはレオン達を見た。
「ここは俺達キシリア聖国が引き受ける。お前達は逃げろ」
レオンはシェリーや村の兵士達と顔を見合わせた。皆、覚悟を決めた目をしている。レオンが、皆の目を見ると全員、頷いたのでレオンも頷く。
「ドラゴニアさん。ここは僕達ロゼ王国の領内です。僕達も戦います!」
「そうか……」
ドラゴニアは静かに笑った。
「それよりもドラゴニアさん達は別に戦わなくてもいいのでは? ここはロゼ王国ですし」
「いや、元凶のフロストは元キシリア12聖騎士だった男だ。身内の仕出かした事は、身内で方をつけなくてはならない!」
「分かりました。それならば今回は共同戦線と言うことで」
レオンはドラゴニアに手を出した。ドラゴニアはレオンの手を見た。見た目は小さな手だが、力強く大きそうな手に見える。ドラゴニアはレオンの手をしっかりと握り握手した。
「痛い、痛いですよドラゴニアさん!」
「す、すまん……」
お約束が発動した。
レオンはシェリーと村の兵士達を集めた。
「シェリーは村の兵士達と行動してほしい」
「分かったよレオン」
「村の兵士の方々、無理だと思った時は逃げて下さいね」
村の兵士達は頷く。
「それでは皆さん、気をつけて!」
レオンが声をかけ終え魔物の討伐を開始した。
魔物はこちらの動きを見ているのか、動く気配は無かった。そうなればこちらから攻撃するだけだ。
全員魔物に向かって行く。
レオンは変身するため創造神の本に描いた名を唱える。
『守護獣カーバンクル』
白ウサギの着ぐるみに変身したレオンは、すぐ魔法を使う。
『全能力向上』
『攻撃防御』
全員の体が輝いた。キシリア聖国の兵士達は急に力が湧いて来たのと、敵から受けそうになった攻撃を防いだ事に驚いたが、レオンが使った魔法だと理解すると戦いに集中した。
「ほう、ただの子供ではないと思っていたが……なるほど、逃げずに大人と混じって戦いに参加するわけだ」
ドラゴニアはレオンの魔法に関心しつつ、ドラゴン骸骨に斬りかかった。いつも以上の破壊力、いつも以上のスピード。防御力も上がってそうだ。
「一度の魔法で全能力を上げるのか。面白い魔法だな」
そう言うと、新たなドラゴン骸骨を求めドラゴニアは移動した。
レオンは森の奥にも魔物がいないか確認した。
『全周囲索敵』
ウサギ耳がピンと立ちフードに付いている赤い宝石が光る。半径2キロの索敵を行った。森の奥にはもう魔物はいないみたいだ。全員に森の奥に魔物がいない事を伝えると、レオンは別の着ぐるみに変身する。
『にゃんこ忍者』
猫耳忍者の着ぐるみをしたレオンは『分身の術』を使う。分身5体が出現したので、別れて魔物退治を行う。
それにしても数が多い。『忍刀猫丸』を使いスケルトンを斬っていく。レオンにも『全能力向上』がかかっているので、意外と楽に勝てる。
魔物の中に他とは違う黒色のスケルトンが混じっている。顔は骨だが、体は黒い。黒い肉体がついているのだ。フロストの実験によるものなのか。
ブラックスケルトンと呼ぶ事にしたこの魔物は結構強い。ランクで言ったらBランクはあるだろうか。
シェリー達の所にもブラックスケルトンがいて苦戦している。レオンは分身体を2体送り加勢する。
キシリア聖国の兵士達は上級兵士だけあって強い。魔法を使う兵士もいるので戦略の幅は広い。複数いるブラックスケルトン相手にも、魔法の支援や1体に対して2人がかりで素早く倒し、次のブラックスケルトンを相手にしていた。魔物との戦いに慣れているのだろう。
ドラゴニアは……異常な強さだ。1人でドラゴン骸骨全部倒してしまった。黒い肉体をもつ強そうなドラゴン骸骨もいたが、苦戦する事なく倒してしまった。
レオンも目の前のブラックスケルトン相手に『火遁の術』や『風遁の術』で倒していく。大型の盾を持った奴もいるので、1発の魔法では倒れない事もあったが、慌てずに1体1体確実に数を減らしていく。周囲を見ると多数いたスケルトンも数を減らし、最後にはバラバラとなった骨だけが残った。
戦いも終わりレオンは全員の安否を確認する。死亡した者はいなかったので安心した。怪我をした者はキシリア聖国の兵士が治癒魔法で回復してくれたのだか、レオンの魔法のおかげでほとんどが軽傷だ。
キシリア聖国は治癒魔法の研究が盛んな国とは聞いていたが、剣も使えて魔法も上級を使えるこの兵士達は、エリートな部類にはいるのだろう。
疲れて座っているシェリーに声をかけた。
「お疲れ様シェリー、大変な一日だったね」
「レオンお疲れ様。ボク、あんなに多くの魔物と戦ったのは初めてだよ」
「倒しても倒しても地面から出て来たからね。でもシェリーの戦いぶりは凄かったよ!」
「そ、そうかな……ありがとう」
頑張ったねとシェリーの頭を撫でてあげたら、エヘヘッと喜んでくれた。
村の兵士やキシリア聖国の兵士とも会話していたら、ドラゴニアがレオンの元にやって来た。
「よく頑張ったな。しかし不思議な魔法を使うんだなレオンは。ともかく、お前達のおかげこちらも助かった。礼を言おう」
「こちらこそ助かりましたドラゴニアさん。ドラゴニアさんはこのままフロストを追うんですか?」
「もちろんだ。すぐに後を追う。またなレオン」
「はい。気をつけて下さいねドラゴニアさん」
ドラゴニアはレオンと握手をして、キシリア聖国の兵士達とフロストの後を追いかけて行った。
「ではでは、僕達も帰りますかね」
レオン達は疲れながらも満足な顔をして帰って行った。
その後、ロゼ王国内でスケルトンは出なかったが、他国でスケルトンが出現し出したと聞いた。フロストが捕まったとの報せは未だに届いていない。
暫くしてクルーズ帝国はドワーフ王国との技術協力を発表。その後、魔石が豊富にある隣国に宣戦を布告し戦争に突入し、隣国を併合した。
帝国周辺の国々は侵略を恐れ戦力増強に入った。
ロゼ王国周辺の国々も慌ただしくなり出したが、ロゼ王国が侵略される事はなかった。
そして時は流れ、レオン・フォックスは12歳となり魔法学校に通える年齢になった。