プロローグ
漫画家になってもう12年になる。まさか自分が売れっ子漫画家になるなんて夢にも思ってなかった。
有名美術大学に在学していた時は誰もが私を優秀な画家になるだろうと思っていた。
しかし私は漫画家になる道を選んだ。誰もが驚いたが漫画家になるために、あらゆる美術の知識を習いにこの大学を選んだのだ。
美術大学卒業後も漫画家の助手の仕事もしながら漫画の書き方も覚えていった。
苦労もしたが今では人気漫画家の一人だ。
売れっ子漫画家ともなるといろいろなグッズとコラボしたりする。今回は連載中の漫画に出て来る幻獣や登場キャラクターをモチーフにした着ぐるみコラボの話を受けた。
着ぐるみと言ってもいろんな種類があるが、ガッツリとした人形に入る着ぐるみではなく、着ぐるみパジャマで、フードに動物の耳が付いてるゆったりしたタイプの着ぐるみだ。
打ち合わせの場所の喫茶店に向かうため、着ぐるみのデザインを書いたノートを持って家を出た。
肌寒くなってきた季節で日が沈む時間が早くなった。薄暗い道を街灯が明るく照らす。
待ち合わせの時間に少し遅れそうなので小走りで向かう。
もうすぐ待ち合わせの場所に着く所で反対側の道路からボールが転がってきた。
その後を小さな子供がボールを取りに道路に飛び出してきた。
子供の先にはトラックが迫っていた。トラックのスピードは落ちない。運転手は気付いてないのか?
「危ない!」
道路に飛び出し子供を歩道側に押し出したが私はトラックに跳ねられてしまった。
道路に倒れ自由に動く事が出来ない。これはもう助からないんだと自分でも分かった。
子供は? どうやら無事のようだ良かった。
目の前には着ぐるみのデザインを書いたノートがあった。残った力でノートを掴んだ所で意識が無くなった。
気が付くと花畑の綺麗な所にいた。直感で分かる、ここはあの世だと。自分もしっかり浮いているので。
後ろから呼ばれる声がした。振り向くと綺麗な人がいた。
「君は面白い物を持っているんだね」
綺麗な人が持っていたのは着ぐるみのデザインを書いたノートだった。
「あっ! そのノートは私のです」
「素晴らしい絵の才能だね。まるで生き写しの様だ」
「あ、ありがとうございます」
褒められて若干顔が赤くなった。ノートには気合いを込めて幻獣やら自分の漫画のキャラクター等が、描いてある自信作だった。
「ここで出会えたのも何かの運命なのだろう。君に私の力を与えよう。私の名前はビシュヌ。創造神のビシュヌだ」
「ビシュヌ? 創造神?」
神様なのだかろか。言われてみれば何だか神々しい感じがする人だ。
「君には私の本とペンを与えよう。君が書いた絵が力を与える。そうだ! 書いた絵がこの着ぐるみとやらの服に加護を与えるようにしよう」
何だ? この人は何を言っているのだ。いきなりの出来事と、トントン拍子で進む話に頭が混乱している。
「君は、これから異世界に転生するのだが、前世の記憶は残るようにする。性別は……男の方が良いだろう。しかしこの着ぐるみとやらの可愛らしい服を着るであれば、顔立ちは可愛い方が良いだろう。よし、この条件に合う転生先を探す!」
「ちょ、ちょっと待って。転生? 着ぐるみ?」
一方的な話が進み、だんだんと眠くなって来た。
「いいかい、君は将来大きな争いに巻き込まれる。逃れる事が出来ない争いだ。その中で君がどんな選択を選ぶのか楽しみに見てるよ」
聞きたい事がいっぱいあったが、創造神ビシュヌの声が聞こえなくなると眠さが増してそのまま眠ってしまった。