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第二章 ツッコミがキツい人魚姫⑤

「ジャーン! どうよ?」

 どうよと言われても困る僕は、少し顔を赤くしながらユリネラから視線を逸らした。

 海岸へ向かう道の途上。さっきまでは、ノースリーブのシャツにデニムのショートパンツ姿で、ボディーバッグを斜め掛けし、ビーチサンダルを引っ掻けて歩いていたユリネラだったか、今はビキニの水着姿になっていた。道の途中でスポーツ用品店を見つけたユリネラが「ちょっと待ってろ」と言って入店してから二分弱。ボディーバッグを斜め掛けしてサンダルをつっかけるのはそのままだったが、衣装が水着に変わっていたのだ。

 鮮やかな水色と黄色のビキニは、ちょっと表面積が小さめだった。だから、質量のある胸元と、細くくびれた腰、すらりとのびた細い脚がいやがおうにも目に飛び込んできてしまって、どうしようもない。午前中に見てしまったユリネラの生まれたままの姿がチラついて、なんだか、とてもよくないような気持ちになる。気がする。

 やめよう、やめよう。妹の前だ。深く考えるのはやめよう。心頭滅却すれば火もまた涼し、だ。僕は心の中で般若心経を唱え始めた。

 そんな僕を見て、ユリネラは口を尖らせる。

「ちぇー。なんだよ。似合う、似合わないくらいの感想は言えよ。これだから日本人の男はダメなんだよ。なあ、玲?」

「そーそー。ダメなんだよねー」

 ピンクの花柄シャツに、同じ柄のキュロットを穿き、猫キャラのデザインされた運動靴を履いた妹が大人ぶって同意する。女の子は子供の時から『女』なんだっていうのは本当なのかもしれない。

 なんか、地味にキツいよ、これは……。

 と、僕が落ち込みかけたとき。

「ほら、これ」

 そう言って、突然、ユリネラが僕に何かを投げて寄越した。受け取ってみると、それは空気を入れる前の状態の、ビニール製のビーチボールだった。

「海岸で、それで遊ぼうぜ。あの店で買ってきたんだ。あたしからアンタら兄妹へのプレゼントだよ。タダ飯喰らいだしな」

 頬を掻きながらそう言うと、ユリネラはいきなり走り出した。

「海岸まで競争だ!」

「きゃー!」

 妹が嬉しそうに叫びながらその後を追いかける。ユリネラは妹のペースに合わせて走りながら、僕を振り返ってニヤリと笑った。

「雅はハンデ、それ膨らましながら来いよな!」

「え! ちょっ……! ひどいよー!」

 僕は慌ててビーチボールの空気入れ口を探す。それに息を吹き込みながら、肩に担いだ水筒とバッグをガチャガチャ言わせて走るのは、結構息が上がった。

 蝉の大合唱が響く真昼の道を、僕はひぃひぃ呻きながら、軽やかに笑って走る女子二人の後ろ姿を追いかけて走った。


「わたしが一位~!」

「二位はあたしがゲットだぜ」

「ぼ、僕は……三位……」

 僕が汗をダラダラ流しながら砂浜に跪いてゼエゼエ言っているのとは対照的に、女子二人はウキウキ、ワクワク、楽しそうに笑っていた。僕からバッグを奪った二人は、中からビニールシートを取り出して砂浜に広げる。

「ほら、雅はここで休んでろよ」

「そんなに疲れて……お兄ちゃんはもう年なのね。休んでいいよ」

 妹の言葉に軽くショックを受けつつ、僕はありがたくビニールシートの上で横になる。女子二人ははしゃぎながら、僕の膨らましたビーチボールを持って、駆け出していった。

 海の波は収まってきていた。サーファーの人達が波間に数人見えるが、海水浴客はまだ少数しかいなかった。だから、ユリネラと妹はのびのびとボールの投げ合いっこができるようで、楽しそうな歓声をあげている。

 太陽は高くて、僅かに入道雲が見える他は真っ青な空が広がるばかり。日光はジリジリと降り注いで少しきついけど、僕は疲れた体が命じるままに自分の腕を枕に横たわったまま目を閉じた。

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