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第三章 魔女までウチにやってきた⑥

 僕の予測は当たり、陸地に捜索範囲を移した後の作業は順調に進んだ。

「あ、発見」

「うひー! 見逃してくださいっすー!」

 僕は砂浜に打ち上げられた流木の裏に潜んでいたヒトデを拾い上げて水槽に運んだ。その僕の横でユリネラが走っている。

「わりーけど、逃がさねえぞ」

「わわわ。ご勘弁をー!」

 砂浜を走って逃げるヒトデをユリネラが追いかけている。突起を手足のように器用に動かしながら走るヒトデを、ユリネラは素早く摘まみ上げた。そのユリネラの後ろでは妹が歓声をあげる。

「ヒトデさん、捉まえた!」

「見つかってしまったっすー」

 砂浜に半身を埋めて隠れていたヒトデを、妹が掘り起こしたところだった。

 午前と、お昼を挟んだ後の午後の捜索とで、合計十匹のヒトデを発見することができた。水槽の中は、薄黄色の体表に波の模様を付けられたヒトデでいっぱいだった。

 既に夕暮れ時を少し過ぎ、赤い光が弱まって暗い闇色が迫ってくるような時間帯だった。

「今日はもう終わりにしましょうよ。もう疲れたわ」

 欠伸をする口を黒い扇子で覆うマリアさんに、ユリネラが青筋を立てながら詰め寄った。

「テメー、何もしてねえくせに、疲れたってなんだよ!」

 海水と砂に塗れ、腰と膝を屈めながら捜索作業をする僕らに対し、マリアさんは日傘を差しながらあーだこーだ言うだけだったんだから、ユリネラの態度も仕方がないように思う。

「だってもう飽きちゃったし。もう残りは明日でいいじゃない」

「この野郎……!」

 退屈そうに黒の扇子を煽ぐマリアさんに、ユリネラは飛びかからんばかりの勢いだった。

「ま、まあまあ、ユリネラ。確かにこの暗さじゃ、そろそろ捜索は無理だよ。帰って夕飯にしよう」

「うー!」

「もう結構捉まえたし、明日でどうにかなるんじゃないかな。ほら、玲も疲れちゃったみたいだし」

「……そっか。そうだな」

 妹は砂浜に敷いたビニールシートの上で眠りこけていた。マリアさんの黒い日傘をビーチパラソル代わりに、遅めのお昼寝を楽しんでいる。

「ほら、玲、そろそろ帰るよ」

 肩を揺すると、妹が目を擦りながら体を起こした。

「僕は夕飯買ってくる。お惣菜でもいいかな?」

「おう」

 ユリネラが水着の上に服を着ながら頷いた。

「悪いけど、玲と先に帰って、お風呂の準備しておいてくれる? お米も炊いておいてくれると助かるなあ」

「いいぜ。野菜適当に切って、サラダみたいの作っとく?」

「あ、それすごい助かる」

「よし、任せとけ!」

 服を着終わったユリネラはヒトデの入った水槽の、蓋の上についた取っ手を掴んで持ち上げ、もう片方の手には玲の手を握って歩き出した。途中までは同じ道なので、僕もビニールシートなんかをしまったバッグを担いで、妹のもう一方の手を握る。

「いいわね。いいわね! なんか新婚夫婦みたいよ。妻と夫の役割が逆な気がするけど」

 マリアさんが僕達の後ろで奇妙なテンションではしゃぐのを、ユリネラは面倒臭そうに睨んだ。

「変なこと言ってんじゃねーよ!」

 ユリネラは踵側で地面を後ろに蹴り上げて、マリアさんに砂をお見舞いした。マリアさんは華麗に日傘を操って難を逃れたけれど。

「そういえば、夜のうちに残りのヒトデが別の場所に行ったりしないかな」

「大丈夫よ、あのヒトデは海から出たらそれほど移動することはできないの。別の場所に移動するには、一度海に入って海流に乗らないといけないのよ。でも、海はわたしのフィールドですもの。ヒトデ達が海を使ったらすぐにわかるわ。夜中でも飛んできて捕まえるわよ。ヒトデ達もそのことはわかっているから、海には戻らないでしょうね」

 マリアさんは真っ赤な唇の端を吊り上げてニヤリと笑う。

 そういうことなら早めに教えてほしかったなあ。前半の海の中を探す作業はまったく無駄だったってことじゃないか。

 僕がついた溜め息には気付かぬように、マリアさんは両手をパンと叩く。

「あ、そうだわ。念のため、監視役のクラゲを海に放っておこうかしら。あなた達、先に帰ってて頂戴」

 そう言うと、魔女はいそいそと浜辺へ戻っていった。

 マリアさんと別れた僕らは、防波堤と防砂林の間にある狭い道を並んで歩いた。歩きながらユリネラの持つ水槽の中を眺めていた妹が、ふと、顔を上げてユリネラを見た。

「ねえ、ヒトデさんを逃がさないの?」

「え? あ、ああ……」

 ユリネラはバツが悪そうな顔で頷いた。

「このヒトデはあの魔女のもんだからな。全部見つけたら渡すんだ」

「ふうん……」

 妹は眉を八の字にして再び水槽の中の十匹のヒトデを見た。ヒトデは魔女の視線を気にしているのか、水槽に入れられてからは、伏したまま一言もしゃべらなくなっていた。

「なんだか可哀想」

 妹の言葉に、僕とユリネラは思わず視線を交し合う。でも、二人とも、何も言うことができなかった。

 暗くなり始めた海辺の道を、波の音を聞きながら、僕達は静かに歩き続けた。

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