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第三章 魔女までウチにやってきた⑤

 再び海に戻り、海底を注意深く覗いているユリネラに僕は小声で話しかけた。

「ねえ、あのヒトデ、本当にマリアさんに引き渡す? 可哀想じゃない?」

 ユリネラは作業の手を止めて体を起こすと、呆れたような表情で僕を見た。

「あのなあ、自分らの魂が賭かってるんだぜ? 何言ってやがんだよ」

 そう言って溜め息をついたユリネラは、次の瞬間はっとしたような顔になり、下を向いた。なぜだか急に顔色が悪くなったように見えた。

「それとも、雅はあたしの魂だったら引き渡してもいいと思ったのか……?」

「え?」

 一瞬、僕はユリネラの言った言葉の意味が理解できなかった。

「違うよ! そういう意味じゃない。そんなわけないじゃん!」

 慌てて否定するが、ユリネラは僕に背を向けて魔女のいる砂浜に向かって歩き始める。

「いいぜ、別に。そんならそれで。あたしが卵を差し出せばいいだけだし」

「な、なんでそうなるんだよ……? あの魔女はユリネラに今すぐ死ねって言ってるんだよ? そんなの認められるわけないじゃん!」

「だって。マジでヒトデは可哀想だし。人魚は本当に死ぬわけじゃねえし」

 ユリネラの足元でバシャバシャと跳ねる海水。僕とユリネラの距離がどんどん開いていく。僕は慌てて後を追いかけた。

「で、でも。ここにいるユリネラはいなくなっちゃうんでしょ? 卵になっても記憶は引き継げるの?」

「いや……覚えてはいられないけど」

「そんなの……そんなのだめに決まってるだろ!」

 当然だ。当然のことだ。例え記憶を引き継げたとしたって、そんなのダメに決まっている。それなのに、こんなこと言うのは――。

「ごめん。ごめんね。僕が考えなしなことを言ったせいだ。しっかりヒトデを探そう!」

 僕はユリネラの日に焼けた細い腕を後ろから掴んだ。ユリネラが少し驚いたような顔で僕の方を振り返る。

「あ、そうだ! もしかしたら、海水のない場所を探した方がいいのかも。ほら、魔女は海を見通せるって言ってただろ? だから、ヒトデはそれを怖がって砂浜とか、陸地に避難してるのかもしれない。ね、そうしようよ!」

 僕はユリネラの手を引いて砂浜に向かった。僕が先導して、その少し後ろを、ユリネラが俯き加減についてくる。

「ごめん、雅」

 僕の後ろのユリネラが、小さな声で言った。

「え?」

 弱々しい声にびっくりして振り返ると、彼女は天敵に追いつめられたウサギみたいに、張りつめた表情をしていた。

「変なことに付き合わせて、ごめん。こんなことになるはずじゃなかったんだけどよ……」

「僕は気にしてないよ――っていうか、なんで泣いてるんだよ!」

 僕はぎょっとして固まる。

 ユリネラの目が赤くなって、目の周りが少し腫れているように見えた。睫毛の際に雫が溜まって、キラキラと輝いていた。

「泣いてねえよ!」

 ユリネラはそう言って、僕が掴んでいない方の手で目の周りを乱暴に擦った。

「ちょっとゴミが目に入って痛かっただけだよ!」

「え! あ、そうなの? 大丈夫? 擦っちゃダメだよ。早く水道で洗い流さないと」

 僕はユリネラの手を引いて、心持ち早足に歩き出す。すると、背後で小さな溜息が聞こえた。

「え?」

 振り返ると、目が赤く染まったままのユリネラが呆れたような顔をしている。

「お前……やっぱり全然アレだな」

 そう言うと、ユリネラはなぜだか突然小さく吹き出して笑った。

「え? え? なに?」

「なんでもない。なんでもねえよ」

「なんなの? え?」

「なんでもねえって」

 そう言ってユリネラは、まだ少し赤い目のまま、なんだか楽しそうに微笑んだ。

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