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第二章 ツッコミがキツい人魚姫⑧

 翌朝は、また三人一緒に朝食を食べた。妹について行ってラジオ体操を初体験したユリネラは、さっぱりした顔をしていた。

 その後はこれまた三人で近くの雑木林に虫取りへゴー。

 種々の蝉が絶妙なハーモニーで鳴き声の競演をする中、虫かごを首から下げた妹は虫取り網を持って走り回った。昨日のトラウマが消しきれないのか、ユリネラは恐々と妹の後を追いかけていた。蝉やコガネムシ、テントウムシを追いかけて網を振り、網の中身を嬉々として確認する妹は、戦果をユリネラに見せようとするのだが、ユリネラは完全に腰が引けている。だが、徐々に慣れていって、小枝の先で突っつくくらいはできるようになったようだ。

「あたしも小せえ頃は、クラゲとりとかウミウシ取りとかして遊んでた。姉さんはそういうのはあんまり好きじゃなかったけどな。懐かしいな」

 そう言ってユリネラは笑った。

 雑木林の戦果に満足した妹は、田んぼの畦道に移動して蝶やトンボを追いかけて走る。昼前には何匹もが虫かごに入っていたのだけど、妹は「かわいそうだから」と言って、家に帰る前にそれらを放した。

 飛び去っていく蝶や、ノソノソと歩いて行くコガネムシを見送っていると、ユリネラが腕や脚を掻きはじめた。

「なんだろ? すげー痒いんだけど」

「蚊に刺されたの? 大丈夫?」

 ユリネラはさらにボリボリと体を掻きむしる。

「がー! こんなに痒いのかよ! くそ。クラゲに噛まれるのとはまた違うんだな」

「そんなに掻いちゃダメだよ。ほら、薬塗っときなよ。スッとするよ」

 僕は背中のリュックから液体タイプの塗る痒み止めを取り出した。だが、ユリネラはそれを受け取らず、僕に向かって腕を差し出して言った。

「塗って」

 見れば、蚊に刺された箇所もぷくっと腫れていて、引っ掻いたせいで爪の跡が薄く赤い色になっている。それが両腕に何個も見られた。

 とはいえ。

「な、なんで僕が。自分で塗りなよ」

「えー、塗ってくんねーのかよ」

 ユリネラは口を尖らせた。

「お兄ちゃん、わたしも刺されちゃった。塗ってー」

 妹まで僕に腕を差しだしてくる。僕は頭を抱えた。

「ほら。いつもは自分で塗る玲までこんなこと言い出したじゃないか! ユリネラ、ちゃんと自分で塗りなさい」

「ちぇー、わかったよ。ふん。ほら、冷たい雅は塗ってくれないって言うから、あたしが塗ってやるぞ、玲」

「わーい。じゃあ、ユリネラお姉ちゃんにはわたしが塗ってあげるね」

「優しいなあ、玲は。どこかの気の利かない兄ちゃんとは大違いだぜ。そういう男として優しさが足りないところがダメなんだよな」

「ダメなんだよなー」

 ユリネラと妹は、本人を目の前にしての皮肉を言い続けた。

 なんか、この展開、最近多い気がするんだけど……。

 僕は毎度ながらがっくりと肩を落とした。


 午後は、居間のちゃぶ台で学校の宿題をする僕を尻目に、女子二人は座布団を枕に、畳の上で寝っ転がりながらグダグダしていた。

「玲、夏休みの宿題は?」

「絵日記以外は終わったー。絵日記も今日までのはちゃんと書いてあるよ」

「ふうん……えらいね……」

 我が妹ながら僕よりしっかりしていて、たまに嫌になる。僕は話す対象を変えた。

「ユリネラは? 人魚には宿題とかないわけ? そもそも学校とかは?」

「学校なんかねえな。人魚なんて数が超少ねーもん」

「へえ」

「人魚は女しかいなくて、普通は十人くらいの姉妹の群れで過ごしててよ。基本は姉から色々教わんだよ」

 女の子しかいないって、それで種族が成り立つのかな。そういえば、人間とは殖え方が違うと言っていた気がする。

「じゃあ、ユリネラはアリアラから色々教わったんだ? 他にも姉妹はいるの?」

「他の姉妹はいない。あたし達は群れからはぐれちまったから、姉さんと二人きりの姉妹だった。たまに魔女とか亀のじいさんとかにわかんねーことは聞いてっけどさ。基本は姉さんとずっと一緒だったな」

「そうなんだ……」

 それじゃあ、アリアラが旅に出てしまったら、ユリネラは一人になってしまうんだ。

 僕は大の字で寝っ転がるユリネラに改めて視線を向ける。扇風機の風に当たりながら、気持ちよさそうに目を閉じているユリネラ。長い黒髪だったアリアラと違って、耳を隠すくらいの長さの銀髪だけど、顔立ちはやはり姉に似ているように思う。今は瞼に隠れている瞳だって、姉譲りの真っ青な色をしていた。

――たった一人の姉であるアリアラを邪険にした(つもりはないけど結果的にそうなってしまった)僕のことを、ユリネラはどう思っているんだろう。

「あのさ」

「あん?」

 座布団に頭を預けたまま、ユリネラは閉じていた青い瞳を開いた。

「もしかして、僕のこと、実は結構恨んでる?」

 ユリネラは、青空みたいに澄んだ瞳を少し細めて僕を見た。そして、一言。

「びみょー」

 そう言うと、寝返りを打ってうつ伏せになる。それきり黙って、動かなくなってしまった。眠ってしまったのだろうか。

 微妙って、どういうことなんだ?

 微かな扇風機の回る音だけが聞こえる室内で、僕は宿題に集中できなくなってしまった。

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