魔装弾手に口づけを
緋那が編入してから更に数日。
既に緋那は学園に溶け込み、そんな生活にも慣れてきた。
聖奈人の生活に、再び平和が訪れた。平和と共に、最高の生活も訪れた。
今、楽しい。
男がいなくなったことによってガードが緩くなった女の子達のスカートと中に一喜一憂し、体育の時間で揺れる胸に心を躍らせ、夏に待つ水泳の時間に夢を馳せる。
魔女に対する不安は残るものの、今はこの平和を謳歌しよう。
と、春風に吹かれ、夕日に黄昏、青春(笑)を謳歌していたその時、刃乃は聖奈人を屋上に呼び出した。
緋那が鍵を壊してから、聖奈人達の集会所と化していた。
しかも、そのことは何故か教師にもバレていない。もっと警備しろと突っ込みたくなるが、憩いの場所を無くされても堪らない。
そのことに多少の感謝をしながら、屋上の扉を開けた。
刃乃は既にそこにいた。
刃乃はゆっくりと口を開いた。
まだちゃんと言ってなかったからねー、と。
夕暮れの鮮やかな色に相まって、ちんちくりんな刃乃が妙に艶やかに見える。
聖奈人は刃乃に近づいた。
胸のドキドキが止まらなかった。こんなシチュエーションでドキドキしない男がいるだろうか。
たとえ、どうでもいいことを言われるとわかってはいても。
聖奈人は立ち止まった。話をするには多少離れていた方が話しやすい。
が、刃乃はもっと近づくように要求し、聖奈人は仕方なく一歩近づいた。
だが、刃乃はもっと、もっとと、とうとう体がぶつかりそうなくらいにまで聖奈人を接近させた。
そして、刃乃は自身の顔に耳が丁度届くよう屈むように指示した。
聖奈人はなすがままにしゃがむ。
───そして、聖奈人の頬に柔らかい唇が触れた。
「……は?」
「あはは、あの時は助けてくれてありがとね!それじゃ、また明日!」
刃乃が一人、嵐のように去っていった。
取り残された聖奈人は一人ぽかんとしたまま立ち尽くしていた。
暫くすると自分が何をされたかようやく理解し、あわあわと悶え始めた。
動き回っているうちに足がもつれ、硬い地面に倒れて頭を打った。
痛みに苦しむ。
が、すぐに痛みは消え、落ち着きを取り戻した。
ごろりと仰向けになり、空に手を伸ばした。
「……全く、最高だな」
そして、手で銃の形を作り、夕日に向けてばーん、と撃つ振りをして遊んで見せた。
その後、手を開いて太陽を掻っさらう。
「……さて、帰るか」
聖奈人は立ち上がり、屋上から飛び降りた。
足に魔力を集中させて衝撃を無効化。
夕日の影が聖奈人を朧げに照らした。
───魔法。それは魔女が人類に与えた呪いである。しかしながら人と人を繋ぐことも出来た絆の結晶でもある。
これは、魔法少女に救われた事によって偶然力を得た少年、南宮聖奈人を中心とした物語であった。




