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その後

 あれから一週間が経った。

 疲労困憊だった聖奈人も銃も刃乃も、なんとか回復してもう元気になっている。

 あの時、緋那はぶっ倒れていた四人を死に物狂いで聖奈人の家まで運んだ。それを見た琴葉に一発ぶん殴られるというハプニングは起きたようだが。

 聖奈人が目覚めたのは事が終わってから一日経ってからだった。

 実を言うと、一番負担が大きかったのは聖奈人だったのだ。

 今まで停止していた回路パスに突然膨大な魔力が通い、それを一気に消費するなどという無茶をやり遂げたのだ。かかった負担は刃乃や銃とは比べものにならない。

 というわけで、最後に目覚めたのが聖奈人だった。

 聖奈人が起きると、真っ先に佳凪太と刃乃が聖奈人に飛び込んできた。

 佳凪太は「ありがとう」と何度も何度も聖奈人に涙目でお礼を言った。

「俺は何もしてねーよ」と事実を伝えるも、助けた本人らしい刃乃が「聖奈人の協力もあったからだよ」と手柄を分けた為にかえって佳凪太に擦りつかれることとなった。

 あの戦い以来、世の中の女の子は元の姿に戻った。

 身長が二メートルある事もなく、体重が百キロを超える事もなく、顔も劇画調ではなく可愛らしい顔立ちだ。

 どうやら魔女を倒した事によって、魔法が解けて元に戻る事が出来たらしい。

 だが、男がこの世界に戻ってきていないことは謎だ。

 やはり、あの時魔女は男を殺していたのだろうか。

 消した、というのはあくまで噂で、真実は死んでいる確率の方が高いものの、信じたいものがあったのだが……。

 というのはさて置き、今聖奈人は廃工場跡にいた。

 その理由は、投げ捨てたナイフと、スマートフォンの回収に来たのだ。

 あのナイフには聖奈人の中学時代の思い出が詰まっているし、壊れているだろうが、スマートフォンがないとソーシャルロリ子のログインが出来ない。

 ナイフの方はどんな思い出かは敢えて語るまいが。

「……これは無理があるかな」

 かなり大きな規模の建物だったにも関わらず、廃工場はほぼ瓦礫と化してしまっており、その最下層に埋まっているであろうナイフとスマートフォンは回収のしようがなかった。

 瓦礫を一つ退かせようと足で蹴ってみるも、ビクともしない。

 仕方ない、と諦めて聖奈人は引き返そうとした。

「ほら、貴様の探しているものはこれだろう?」

 突如何者かに声をかけられ、振り返った。

 その者が手に持っていて、差し出しているのは聖奈人のナイフとスマートフォンだった。

「おお、ありがとう!誰だか知らんけどぅおっほおおおおおお⁉︎」

 ……なんと、倒したはずの魔女がそこには立っていた。

「変な声を出すな、鬱陶しい」

「死んだ奴が早速ホイホイ出てきてんじゃねーよ!心臓に悪い!」

「死んでなどおらぬわ、あの程度で死んでたまるか」

「あ、あの程度……?」

「……ま、お陰で今は殆ど魔法が使えない、ほぼ普通の人間と変わらぬ体にされてしまったがな」

「へぇ。……そうか!」

 聖奈人は魔女の頭に銃を突きつけた。

「魔女、今すぐ人類に掛けてる魔法を全て解け。なら、命は助けてやる」

「……あっはっは。脅しのつもりか?それは無駄だと言うことは貴様が一番知っているだろうに」

「……」

「妾がまだ生きている理由、それは貴様の魔法に原因がある。貴様の魔法には浄化能力はあっても、傷つけることはできない。お陰で、刃乃や銃からの殆ど食らっていない攻撃分しかダメージを受けていないのだ」

 そういうと魔女はくるり、と身を翻して明後日の方向へ歩き始めた。

「やれやれ、刃乃を手駒にして、偵察にして貴様らを見張らせていたのに、それも全て無駄になってしまった。貴様のお陰でな」

「やっぱり刃乃はあの時からお前の手駒だったのかよ。けど、残念だったな。刃乃はお前の洗脳を受けていた時に俺たちを助けてくれた事があった。人間の思いはお前に負けることなんてない」

「思い、か。ククク、それがいつまで通用するか見ものだ。南宮聖奈人。次は妾を殺せるよう、創意工夫しておくように」

 二マァ、といやらしい笑みを浮かべた後にふっ、と魔女は何処かへ消え去った。

「……あーあ、どう説明すればいいんだ」

 頭を掻き、軽く考えるも、今はとりあえず家に帰ろうと瓦礫の山からその場を後にした。

 次、か。

 次は絶対に勝ってみせる。

 聖奈人は天に拳を掲げた。


 聖奈人にとっては、この登校は久しぶりのことだった。

 廃工場で起きた事故に巻き込まれた……という設定になっているので、今日まで休むことを許されていたのだ。

 聖奈人はこの登校が楽しみでたまらなかった。

 何しろ、これから真の意味でハーレムが始まるのだから。

 通学路を見ると、可愛らしい女の子ばかりで、聖奈人の心は踊り狂っていた。

「こら、キョロキョロしない」

 琴葉が舐めるように周囲を見回す聖奈人を戒めた。

 だが、聖奈人の耳には何も聞こえてないらしく、適当な「はいはい」という返事だけが返ってくる。

「真っ直ぐ前見て歩きなさい」

「へいへーい」

「ぶつかるわよ」

「うっす」

「……殺していい?」

「うぇーっす。…………⁉︎」

 適当とはいえ、聖奈人の返事という大義名分を得た琴葉は聖奈人に全力パンチを繰り出した。

「げふっ!……元の体に戻っても威力、変わらないじゃねーか……」

「当たり前じゃない。あんな体で全力なんか出したらアンタ爆散するわよ。今まで手加減してて、今殴ったのは本気なの」

「うわぁ、すっげぇどーでもいい情報ありがとー」

 そうこうやりとりしているうちに学校へ到着した。

 下駄箱で靴を履き替える。

「そういえば。最近、永海ちゃんが妙に楽しそうだけどどうしたの?何かあったの?」

「……多分緋那関係だと思う。……何かは言わないけど」

 聖奈人は自分の妹に、自分と緋那が薔薇薔薇な関係の妄想をされているということに恐怖を覚え、そこから先は口にすることが出来なかった。

 しかし、琴葉はそれを永海が緋那に惚れていると勘違いしたらしく、顔を真っ赤にしてもじもじとし始めた。

「わー、かわいー。乙女の顔してるー」

「ばっ、何言ってんのよ!」

「久しぶりにお前の顔を見れて俺も嬉しいんだよ」

「……バカ」

 聖奈人は教室のドアに手をかけ、ガラリと開けた。

 すると、正面から佳凪太が胸に抱きついてくる。

「みなくん、おはよう!」

「おはよう、朝から元気だな」

「えへへ、なんでだと思う?」

「……わからんな」

「言うつもりもないよ!」

 そういうと佳凪太は聖奈人から離れた。背後で何か刺すような視線を感じたのは気にしないことにする。

 続いて刃乃も飛んできた。

「おはよー!聖奈人ー!」

「なんでお前らは朝からそんなに元気なんだ?」

「秘密だよ!」

 そこまで言ったところでチャイムが鳴り響いた。結構早く登校したつもりだったが、予想以上に時間がかかったようだ。

「はい、みなさん席についてくださーい」

 前のドアから、何やら小学生が入ってきた。

 しかし、その声には聞き覚えがあった。だが、結局それが何なのかはわからず「誰だ」と漏らす。

 すると、後ろのモブが聖奈人に話しかけてきた。

「南宮君は知らないと思うけど、あれ、美月先生なんだよ」

「……えええええええ!」

「南宮君、どうしました?」

「いえ…………先生って合法ロリだったんですね」

「……私は前の姿の方が良かったんですが……」

 いえ、この姿の方がキュートです。

 どうやら美月はこの小さな体にコンプレックスを抱いているようだった。

「……それはともかく、今日は編入生を紹介します」

 編入生?

 こんな変な時期にまた……。

「どうぞ、柊緋那君です」

 教室が黄色い声で湧き上がった。

「……柊緋那…………です」

 ぶっきらぼうにそう言うと美月に案内されるがままに席に座った。

 一方、聖奈人は開いた口がふさがらなかった。

「な、なんでお前……」

 なるほど、これが刃乃と佳凪太が喜んでいた理由か。

 緋那は何も言わなかったが、聖奈人に向けてしたグッドサインが全てを物語っていた。

「お前だけにいい思いはさせない」と。

 というか、聖奈人がこのクラスになったことが決まった時に、黄色い声が湧かなかったことに聖奈人は納得がいかなかった。

 ……ちくしょう。



「学校って最高だな」

 緋那が屋上の閉ざされた鍵をぶち壊し、風に吹かれながら聖奈人に学校の感想を打ち明けた。

「なら、なんで最初から入らなかったんだよ」

「アホか。なんで筋肉ゴリラに囲まれて学校生活なんて送らなきゃならねぇんだよ。それならニートでもしてるほうがマシだってんだ」

 そして、緋那は「けど」と続けた。

「今は最っ高じゃねえか!それなら多少ダルくてもお勉強する価値があるってもんだ!今度、一緒に女子更衣室覗こうぜ!」

 その発想はなかった。ゲスい緋那の考えに脱帽し、経緯と畏怖と感謝を覚える。

「……これからの学園生活、楽しもうぜ!」

 聖奈人は緋那と熱い抱擁を交わした。

 俺……いや、俺たちのハーレムはまだ始まったばかりだ!!


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