ブレイ・ブラック
「はぁ……はぁ……」
満身創痍の状態で先に進む。
足取りはおぼつかず、ふらふらと頼りない。
「そ、そうだ……。あいつに……連絡して……おこう……」
聖奈人は思いつきでスマートフォンを取り出した。
メールの宛先は”あいつ”だ。
震える指先、霞む視界でなんとか短いメールを打ち、送信する。
「頼むぞ……」
送信を終えたことを確認すると、聖奈人はスマートフォンをその辺に投げ捨てた。これから先は邪魔になるだけだ。
魔力は十分に回復した。回復どころか今まで滞ってた魔力が湯水のように溢れ、しばらくは尽きることがないぐらいだ。だが、いかんせん血が足りない。
けど、そのお陰で頭は冴え渡っている。冴え渡ったところで別に特別得をするということもないのだが。
それより害のほうが大きい。
というか、こんなところでのそのそと歩いている暇なんてない。
聖奈人は痛む身体に鞭打って銃のもとへと駆け出した。
戦闘中というのに妙に静かだ。
もしかして、まだ見合っていたりするのだろうか。
それならばまだ間に合う。
傷口を抑えながらとてとてと走る。
やがて、先ほど魔女がいた部屋が見えてきた。佳凪太が閉じ込められている魔方陣の光がそれを証明していた。
聖奈人は銃を作り、戦闘に備える。
そして、陰から密かに部屋内の様子を覗き見た。
するとそこには信じられないような状況が広がっていた。
銃が倒れている。
魔女は大きな玉座に座って銃を見下している。
なんてことだ。銃がやられてしまったのか。
聖奈人は驚愕した。
そんな聖奈人の気配を察知するかのように魔女は立ち上がった。
「南宮かぁ?ククク、そこにいるのはわかっておるぞ」
「……バレたか」
聖奈人は部屋へと入った。
内装は何故か絢爛豪華なものに変わっており、廃工場の外見からは考えられないほど似つかわしくなかった。
「刃乃を倒したようだなぁ。あっはっは、あの程度の魔力でよく倒せたものだ。どうやった?」
魔女は倒れている銃へと接近し、頭を踏みつけた。
「あぐっ……」
銃が痛みに喘ぐ。
魔女はそれを見て愉快そうに話しを続ける。
「しかし残念だったなぁ、頼みの綱である魔法少女はこの通りボロクズ。どう足掻いても貴様に待っているのは死のみだ」
「……それはどうだろーな」
そう言うと聖奈人はネックレスを魔女に見せた。
「……なんだ?それは」
「見てりゃわかるよ」
聖奈人はネックレスを高く、高くへと放り投げ、後ろを向いた。
「魔法少女ってのは、魔力を内包することによって普通の状態から魔法少女に変身するみたいだな」
「よく知っておるではないか。その通りだ」
「んで、魔法少女が×8いればお前と互角だとも聞いた」
「非常に腹立たしいことだが、まぁ概ねその通りだ」
「その中でもお前が恐れているのは、お前の魔力を打ち消し、逆に侵食できる浄化の魔力だ。違うか?」
「……貴様、何が言いたい?」
「だから言ったろ。見てろってな!」
聖奈人はおもむろに正面に向き直り、丁度目の前に落ちてきたネックレスを銃でぶち抜いた。
ネックレスは弾け、黒と銀の光と化して聖奈人に覆いかぶさった。
聖奈人を完全に光が覆ってすぐ、聖奈人は空へ銃を掲げ、黒い閃光を纏った弾丸を一発放った。
聖奈人を覆う黒い光は霧散し、聖奈人は姿を現した。
その姿は先ほどの制服とは全然違った、黒い衣装に銀の魔力のライン。ブリュレ・ノワールそっくりの姿だが。
「貴様……その姿……!」
「魔法少女……いや、魔装弾手ブレイ・ブラックとでも名乗るのかな。改めて自己紹介だ。南宮聖奈人、魔法少女に助けられ、魔法少女の力をその身に宿した男だ」




