説明
「また突然だな……。それも含めて話してやるから待ってろ」
聖奈人は目を瞑った。琴葉と永海はその行動を、何をどう話すか迷っているのだと受け止め、静かに聖奈人が開眼するのを待つ。
しばらく経って、聖奈人は目を開いた。何が語られるのかと二人は固唾を呑む。
しかし、そんな二人を余所に聖奈人は大きな欠伸をした。拍子抜けもいいところだ。
「真面目にやりなさいよ」
「うるせぇ、疲れてんだよ。……今話す」
聖奈人がシリアス顔になる。
「まず、この前の男の名前は柊緋那。俺と同じ、魔法少女に命を救われた奴だ」
「……まぁ、それはそんな気がしていたわ」
「なんだ、気づいてたのか」
「なんとなくよ」
「お前って、たまに勘が鋭くなるよな……。続けるぞ。それで、とりあえず緋那とは仲良くなっておいた」
「ふぅん。で?なんで柊君?はあたしたちに襲いかかってきたのよ」
「あいつ、色々あって魔力フィールドの外に出たらしい。それで、魔女の魔力に当てられてああなったんだと」
「だから言葉使いがあんなに変だったのね。……あれ?でもおかしいじゃない。柊君、魔力に当てられておかしくなってたのに、次の日会った時は普通だったじゃない。なんでよ」
「ああ、それだけどな。……というより、ここからが本題だ」
「何よ、改まっちゃって」
「俺が改まるぐらいヤバいってことだ」
二人には何が起こっているかさっぱりだが、聖奈人がこれ程までに真剣になったことなど一度もないということはわかっていた。聖奈人が言った「改まるくらいヤバい」という言葉を聞いて、かなり緊迫していることを悟った琴葉は茶化すのを辞めて聖奈人に真剣に耳を傾けた。隣で座っている永海もだ。
「永海はわからないと思うけど、聞いていてくれ。琴葉、緋那に襲われた時、刃乃が俺たちを助けてくれただろ?」
「うん。刃乃ちゃんが蹴飛ばして……けど、それがどうしたの?」
「単刀直入に言う。刃乃は魔法少女だ」
「……は?」
現実を受け止めきれないようで、琴葉は聖奈人に聞き返した。
「刃乃は魔法少女だ。あいつの持ってる魔力には浄化能力がある。だから、魔女の魔力に汚染された緋那を浄化することが出来たみたいなんだ」
「……なんか、実感が湧かないわ」
「俺もだよ。けど、それが現実だ。……話を戻すぞ。同時に、刃乃は俺を助けてくれた魔法少女でもあったんだ」
「そうだったの⁉︎……でも、それなら変じゃない。それならアンタのこと知ってたはずよね。なんであの娘はたかも初対面みたいな風だったの?」
「……覚えていなくて当然だ。だって刃乃は今、魔女に操られてるんだからな……!」
聖奈人が怒りで細かく震える。この怒りは魔女に対して、そして、何も出来ない自分への怒りだった。
「で、でも、さっきの話だと、刃乃ちゃんの魔力は浄化能力があるって……」
「多分、その限度を超えているんだ。浄化能力があっても、機能していないなら意味がない。多分、俺達を助けてくれた時は、一瞬だけ元に戻れたんだろうな」
「……そう」
琴葉がうつむく。刃乃を心配しているのだろう。
「っていうか!なんでアンタ、魔女に操られてるって知ってんのよ!」
突然元気になり、立ち上がって何故かを問う。
「実はな、佳凪太が行方不明になったんだ」
「そんなこと聞いてないわよ!」
「聞け。佳凪太を探しているときに、魔力フィールドの中に侵入してきた魔女を見つけた。ちなみに、佳凪太も魔女に攫われてる」
「……嘘」
琴葉が力なく地面にへたり込む。
刃乃だけでなく、佳凪太も、というところが応えたのだろう。
もっと言えば、魔女がこの街にいるということも絶望的だ。
「じゃ、じゃあ、話って……」
「ああ。危ないから絶対に外に出るなってことだ。……これで終わりだ。六時間後に銃と会う約束をしてる。それまで休ませてくれ」
「銃ちゃん……?なんで?」
「ああ、銃も魔法少女だ。……これから、佳凪太をどうにか助けに行く。それで、六時間後に集合ってわけだ」
琴葉が押し黙る。聖奈人はそれを尻目に自分の部屋へ戻ろうとする。
だが、琴葉がそれを引き止めた。
「なんで……アンタも行くのよ」
「なんで……とは?」
「アンタ、魔法適正ないんでしょ⁉︎そんなアンタがま、魔女なんかに立ち向かってどうすんのよ!死にに行くようなもんじゃない!」
「……行かないわけにはいかねーだろ」
「お兄ちゃん……」
「アンタ、あたし達に言ったわよね?危ないから絶対に外に出るなって。それはアンタも一緒だとは思わないわけ?」
聖奈人は考える様子を見せた。しかし、さも当然かのように「思わんな」と否定した。
「馬鹿だ馬鹿だとは思ってたけど、アンタがそこまで馬鹿だとは思わなかったわ……!」
「わからなかったのかよ」
「ふざけんじゃないわよ!死ぬのよ⁉︎」
「俺が死ぬと思ってんのか?」
そう言うと、今までほとんどしゃべらなかった永海も口を挟んできた。
「お兄ちゃん……私も行って欲しくないかな……」
「……銃ちゃんと会わせて。これからの事を話させて欲しい」
「……ちっ、わかったよ」
行かせて貰えない苛々からつい舌打ちをした。その行動を聖奈人は後々悔いた。一秒後に聖奈人は琴葉のアッパーによって天井にめり込んだ。




