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ブリュレ・ノワール

「……魔女、ね」

 最悪だ。

 何気ない風を装ってはいるものの、内心は、平常心を保つことが出来ないほど、焦りに焦っていた。

 今朝の話を改めて考え直し、魔法少女八人と同等の力を持つなんて桁外れで馬鹿げた存在なんてものが目の前にいることを思うと、恐怖で気が狂いそうだった。

「……聖奈人君、逃げるよ」

 ぼそりと、魔女には聞こえない、聖奈人だけに聞こえる小さい声で囁いた。

「でも、かなが……」

「分が悪すぎる。今歯向かっても一瞬で私たちは死ぬか、使い魔にされて終わりだね。だから、逃げるんだ」

 逃げるんだ、という部分を強調して話した。

 確かに、魔女の八分の一の力と、そのオマケ如きじゃ勝てるはずもない。いや、勝ち負け以前に勝負にならない。佳凪太を助け出す暇さえないだろう。

「……そうだな。逃げるか」

 聖奈人も一歩後ずさりした。そのままジリジリと少しずつ、少しずつ、気づかれない程度に後退していく。

 しかし、そんなことがいつまでもバレないでいれるわけもない。

「逃げるつもりかぁ?」

 そう魔女が言った瞬間、銃がまるで自分に言い聞かすようでもあるような大声を出した。

「聖奈人君、走れ!」

 聖奈人も銃も全力で走り出した。

 銃は右手に指輪を出し、既に変身の準備に入ろうとしていた。

 右手の指輪がキラリと光り、一筋の閃光が銃の周囲をぐるりと素早く回った。そして、指輪が光と化し、それを口元に持っていったその時、後ろに居たはずの魔女が目の前に現れ、変身を途中で辞めてしまった。

「なっ……」

「マジか……」

「ククク」

 くつくつと聖奈人達を見下すかのような目つきでいやらしく笑った。

「銃ぅ。妾は悲しいぞ。折角の再開なんだ、もっとゆっくりとしていけばよいものを」

「くっ……!」

「ああ、それに、貴様達に見せたいものがあるんだ。……特に銃、貴様になぁ」

 ぱちん、と指を鳴らした。すると、奥から大きな人影が重々しい足音を立てながら姿を現した。

 姿を現した少女は、二人がよく知る人物だった。

 それは、先ほど消えたり現れたりを繰り返していて、佳凪太を発見した時にすっかり忘れてしまっていた刃乃だった。

「なんで君が……」

 刃乃はその言葉に見向きもせず、何故か胸元を少しあけた。非常に筋肉質で健康的な胸筋が顔を出す。

「お、おい……何してんだお前。というか、なんでお前がこんなところにいるかまだ聞いてねーぞ」

 先ほど、それを聞こうと追いかけていたことを思い出し、それを今問う。

 だが、その言葉にも何も答えず、ふと目を瞑った。

 すると、首に突然、黒く、禍々しく光るネックレスが現れた。

「なっ⁉︎」

 銃は驚愕した。

 だが、それよりも驚いたのは聖奈人の方だった。

「……まさか」

 そして、刃乃の周囲を黒い閃光が走り、光は増幅して刃乃の体を覆った。

「……変身」

 その言葉を皮切りに、刃乃の着ている服が謎の光に変わる。

 やがて光は刃乃全体を包み、姿が見えなくなった。

 数秒後、剣閃が三度、四度走り、空を切るような轟音と共に再度姿を現した。

 しかし、その姿はいつものゴッツイゴリラではなく、以前自分が語っていた、小さく、慎ましやかな胸を装備し、袖がぶかぶか……所謂だるだる袖の黒い、腰にはマントをつけた、和服と洋服を融合させたかのような服を着た、背丈が低めで可愛らしい女の子が立っていた。

 その姿は、成長こそしていたものの、聖奈人が幼少期に見た魔法少女の姿そのものだった。

「……魔法少女、ブリュレ・ノワール」

 昔の快活さは微塵も感じられず、ただ機械のようにその名を名乗った。

「嘘……だろ?」

 ブリュレ・ノワールと名乗った少女、それは聖奈人が誰よりもその姿を鮮明に覚えていた。

 聖奈人はこれほどまでに目を疑ったことはない。まさに絶望という言葉が似つかわしい。

 刀匁刃乃、彼女は魔法少女だった。

 そして、何故か魔女と一緒にいる。理解不能だ。

 だが、この後聖奈人は理解することとなる。

 この間から続く、晴れない闇の夢を見た理由を。

「あははぁ。どういうことかわからんという風だなぁ。愉快愉快」

 ケタケタと笑う様に苛立ちを覚える。

 さらに続けて魔女は喋る。

「知りたいか?何故この女が妾と行動を共にしているかを」

 魔女が腰に手を当て、彼女にとって楽な体勢をとった。しばらく話し込む準備らしい。

 しばらく逃げることはできそうにないので、聖奈人も銃も諦めて隙を伺って逃げる算段に切り替える。今は聞けるだけのことを聞いておこう。

「……教えてもらえるなら教えてもらっとこうか」

「素直な者には好感が持てるぞ」

 魔女は聖奈人に一歩近づいた。聖奈人は一歩後ずさる。

「貴様、名をなんと言う?」

 そういうと、魔女は姿を消した。

「⁉︎」

「返事はどうした?」

 気付いた時には魔女は聖奈人と銃の後ろに回りこんでいた。

 圧倒的な威圧感が聖奈人を刺す。

「南宮……聖奈人……」

「南宮聖奈人、か。まぁ、覚えておいてやろう」

 魔女はまた瞬時に移動し、元の位置へと戻った。

「……刃乃がお前と一緒にいる理由はなんだ?」

「いきなり本題に入るか。……少し昔話をしてやろう」

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