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捜索

 佳凪太の家に到着した。走ったのと、興奮していることもあって二人の息は荒い。

 大きな鉄製の門を押してみた。鍵が開きっぱなしになっている。普段の菜種家ではありえないことだ。それによって不安は更に増長する。

「聖奈人君」

「……ああ」

 門を押して広い庭へと入った。愛想のいい老人の庭師がいるはずだが、見当たらない。別の所で作業しているのかと耳を澄ましてみるが、そんな様子もない。

 聖奈人は走った。

 次は玄関。やはり鍵が開いているままだ。というより、壊されていた。

 その他に何かを確認するでもなく家の中に入った。

 壊された鍵を見て、不安は確信へと変わろうとしていた。

 真っ先に聖奈人は佳凪太の部屋へと向かう。それに続いて銃も走る。

「かな……っ!」

 階段を駆け上がり、廊下の曲がり角を曲がると、使用人達がバタバタと倒れていた。

「なっ……⁉︎」

 銃が側に座り込み、脈を確認する。

「大丈夫。なんとか生きてる」

 その言葉を聞いて安心し、聖奈人は佳凪太の部屋へと足を運んだ。

 しばらく走っていると、いつも佳凪太が「わたしの部屋だよ」と言っている部屋へと到着した。

 頼む、いてくれ……。

 祈るような思いで勢いよく扉を開いた。

 誰もいない。

「……クソッ!」

 隣の部屋を確認した。やはりいない。その隣も、その隣の隣も。

 家中を駆け巡って探しても、佳凪太の姿はどこにもない。

 やがて、まだ見ていない部屋は残り一つになった。

 頼む。

 先ほどよりも強く祈って扉を開けた。

 目に入ったのは、壁、天井いっぱいに、額縁に入った聖奈人本人の写真。

 大きなものから小さな物まで多種多様にある。中には、この間ファーストフード店で撮ったであろう物も混ざっていた。

「……あの野郎……!」

「聖奈人君?ってうわ……」

 後から来た銃もその異様な光景に仰天した。

 ドン引きだ。

 聖奈人はぷるぷると身を震わせて拳を固く握った。

 それを見た銃は無理もない、と少し同情した。

 だが、銃が想像した反応とは違う反応を聖奈人は見せた。

「やっぱりあの時写真撮ってるじゃねーか!なーにが『何も撮ってないよぉ〜』だよ!」

 気持ち悪く佳凪太の声真似をし、怒りを露わにする。

「い、いや……そこじゃないだろう」

「何がだ?」

「……き、君がいいならいいんだけどね……」

 自分がストーキングされているという事実に気づいていない鈍感な聖奈人に銃は呆れを感じると同時に、大して問題にすら思わない聖奈人のいい意味での間抜けさに多少の敬意を払う。

「探すぞ!あの写真の弁解をしてもらわないといけないしな!」

「それより気にすることはあるだろうに」

「そんなのわかってるっての。佳凪太の魔力を探知出来るか?」

「やってみる」

 銃が目をつむった。いつもはつけていない、指にはまっている指輪が不思議な輝きを見せる。

 そして明るい光が銃を数秒間覆い、やがて弾け飛んで消えた。

「……だめだ。見つからない。というより、土台無理な話だったんだ。普通の人の魔力はごく微々たるものだし……」

「だめだったなら仕方ない。色々探してみよう。琴葉や永海も呼んだほうがいいか?あ、永海は俺の妹だ」

「いや、呼ばない方がいい。十二夜ちゃんや妹ちゃんに何かあっても、対処能力がない」

「琴葉は強いぞ」

「あくまで対人だ。もし、人以外の何かが犯人ならどうしようもない」

 そこで聖奈人はこの間、琴葉が緋那に襲われた時のことを思い出した。

 もうあいつを危険な目に会わせるわけには行かない。浅はかな考えを恥じた。

「行こう。私はとりあえず警察に行くから、もし見つけたらこの電話番号に連絡してくれ」

「わかった」

 手早く連絡先を交換し、お互いがすべきことに向けて全力で走り出した。

「かな……っ。無事でいてくれ……!」

 スマートフォンを握りしめる手の握力が強まる。

 まずは学校に向かった。教室の隅々まで探すが、教員と部活動の生徒以外は誰もいなかった。当然、その中に佳凪太の姿はない。

 次に、駅の近くで写真を見せて聞き込みをした。

 こんな世の中、一人だけあんなに小さく可愛らしい者ががいれば誰かが気付くものかと思ったが、街行く人々は口を揃えて「知らない」と言うばかり。しばらく粘ってみるも期待した成果は得られそうにないので他の場所を探すことに決めた。

 佳凪太がいきそうな、心当たりのあるところをシラミつぶしに探していこうと決めた時、銃から電話がかかってきた。

『聖奈人君、警察に行ってきたよ。私は警察と同行することになったから、聖奈人君は聖奈人君で探してくれ。それじゃ』

 要件を言うだけ言って、返事をする間も無く切断された。それだけ銃も焦っているということだ。言葉の端々にいつもの軽快さが見当たらない。

 聖奈人は自分を恨んだ。

 自分にもう少しでも魔力探知能力があれば、佳凪太を見つけることが出来たかもしれないのに、と。

 しかし、それは仕方のないことだともわかっていた。

 わかっている。わかってはいるけど……。

 無力感に打ちひしがれ、歯をくいしばった。ただ、走り回ることしか出来ないだなんて。

 その時、何処からともなく水滴が鼻の頭にポツリと落ちてきた。瞬時に悟る。雨だ。

 一粒二粒と小雨が大地に降り注ぎ、やがてバケツをひっくり返したかのような豪雨が行き交う人々を襲う。

 聖奈人も例外ではなく、ブレザーを濡らしながら街を駆けずり回る。

 今日は朝のニュースを見ていなかったので、雨が降るだなんて知らなかった。だが、雨が降ることは周知の事実だったようで、みんながみんな傘をさしていて、傘もささずに全力疾走をしている聖奈人を人々はおかしな目で見つめた。

「くっそ、最悪だ!」

 弱り目に祟り目とはよくいったものだ。

 佳凪太が攫われ、ついでに雨も降り、更に祟りのような夢の的中。もう、うんざりだ。

 聖奈人は大きな廃工場のある方角へと向かっていた。それは先日、刃乃と別れた場所の近くだった。

 それだけの事を思ってその道を通り過ぎようとしたその時だった。

「……なんだ?」

 妙に廃工場が気になる。それに、何故だかそこに行く事が必然かのような……。

 聖奈人はハッとした。

 そうか、これが魔力探知とやらか。

 無意識ながら、自らの力が働いていることに感慨を覚える。

 すぐに足を止め、反転してから廃工場へと向かった。

 その先には佳凪太がいると信じて。










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