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真実

 銃が一口トーストを齧った。さくりと小気味の良い音が鳴る。

「何を聞きたいのかな。とりあえず答えられる範囲で答えるよ」

「単刀直入に聞こう。お前は俺を助けてくれた魔法少女か?」

 銃はその質問を聞くと、やっぱりか、という表情を作った。

「君は魔法少女に助けられたんだね。男の人が魔法に適応することはほとんど無い。何億人に一人するかどうかというレベルを君が引き当てたとも思えないし、君がどうやって生き残ったか疑問だったんだ。……で、なんでそう思ったんだい?」

「昨日の話だよ。お前は以前、一人の男を助けたことがあると言ったな」

「確かに言ったね」

「それだ。俺は助けられ、お前は昔に誰かを助けたことがある。お前の人助けが好きだという思想を根付ける大きなイベントといえば、あの大天災を除いてないと俺は予測した」

「それだけの根拠なのかい?少し浅はかすぎないかな」

「いいや、まだある。あの時の魔法少女の容姿はちょうど俺と同じぐらいだった。同年代だ。そして、お前は同級生で、その辺の見た目の辻褄は合う」

「まだ弱いね。大体分かってるから本当の理由をハッキリいいなよ」

「……そうだな。笑われるかもしないけど、一番しっくりくる理由は、お前といると、なんだか以前から仲が良かったような……そんな感じがするんだ」

 聖奈人は笑われることを覚悟していたが、銃は笑うことなく真剣に話を聞いていて、何を言おうか考えているようだった。

 そして、何をどう話すか決まったようで、ゆっくり口を開く。

「断言しよう。私は君を助けた魔法少女じゃない」

「……そうか」

 なんとなく分かっていたことだが、改めてそう言われるとやはり、ショックは大きかった。

「君が私といてウマが合うような感じがしたのは、魔法少女特有の魔力の影響だろうね。私達魔法少女は魔女や、時々魔力フィールド内に侵入してくるモノの魔力を感知することが出来るんだけど、どうやら君はあまり魔力感知能力が高くないらしい。魔力の感知分けが上手くできないんだろう。上手く出来ないが故に、そんな曖昧な感情を抱いたのだろうと推測するね。多分、他の魔法少女といても君は同じ感覚を味わう筈だよ」

 銃はすっと立ち上がった。

「コーヒー飲むかい?」

「なんで食べ始めてからなんだよ」

「悪いね、寝ぼけてたもんだからさ!」

「悪かったって」

 まだ根に持っている様子の銃に平謝りする。けど、平謝りするだけの、する以上の情報は得ることが出来ているつもりだ。

 コーヒーを入れながらも会話を続行する。

「魔力感知なんか出来たことねーぞ」

「当たり前だろう。魔力感知は魔法少女と魔女だけが持っている、言わば特殊能力だ。君の場合、魔法少女の魔力を体内に吸収したことによって得た……そうだね、副作用のようなものかな。君の魔力は殆ど感じないけど、魔法少女の魔力は多少感じる。そのお陰で君は無意識とはいえごく僅かの魔力感知を行えているわけだ」

「魔力感知、ねぇ」

 いまいち要領を得ず、頭に腕を回し、椅子に浅く腰掛けた。

「まずは魔法少女が何かを話す必要がありそうだね」

「そっから教えてくれるとありがたいな」

「だろうね。まず。私が魔法少女になったのは大天災が起こる前のこと。他の七人も同時期に魔法少女になっている筈だよ」

「へぇ。魔法少女になるには何か条件でもあんのか?」

「条件……というより、そもそも魔法少女は相続式なんだよ」

「相続式?」

「そう。先代の魔法少女や先先代の魔法少女もいるってわけ。魔法少女は自らの力をなにかがあって魔法を手放すとき、魔法少女の力が自動的に魔法少女の魔法……コアの部分とでも言うべきかな。そのコアが次の適応者を見つけるまで何処かに隠れるんだ。そして、また新しい適応者を見つけたらその女の子のもとに現れて魔法少女になる」

「よく言われてる、魔女の魔法を自分の物にしたのが魔法少女とかいうのは全然信じてなかったけど、てっきり魔法少女なんて言うんだから変なちっこい喋る動物が『僕と契約してよ!』なんて感じかと思ってた」

「まぁ、そうだよね。というか、こんな歳になるまで魔法少女だなんて精神的にキツイよ。普通、魔法少女なんて小、中学生がなるものだろうに。さっさと新しい宿主を見つけてくれないものかな。……と、こんな歳まで魔法少女を続けているのも含めて、アニメとかに出てくる魔法少女とは根本的に違うんだよ」

「……ま、その辺は魔女が現れた時に諦めてたけどな。もっとコミカルな魔法仕掛けてくれれば良かったのに」

「というか妙にリアルなんだよ。男はしっかり消して、女はガチムチとか、何考えんだか」

「ああ、それなら分かるよ」

「本当か⁉︎」

 聖奈人は身を乗り出して叫んだ。声のトーンに驚いた銃がびくりとさせた。それと同時に少し椅子を引く。

「わ、わかるとも」

 聖奈人はいままでにないというほど驚いた。まさか、ここまで聞けるとは思ってもいなかったのだ。

 聖奈人は固唾を飲んだ。

 魔女の目的……推測でしか語られることのなかった、真実が今、解き放たれる。

「魔女はね、人類を彼女の使い魔に変えるつもりなんだ」

「使い……魔?」

 聖奈人は意味がわからずに聞き返した。使い魔自体の意味はわかるのだが、それがどういうことなのかは検討がつかなかった。

「そう、使い魔。魔法少女のなり損ないみたいな感じかな」

「なり損ない?」

「そう。なり損ない。ほら、漫画とかにでてくるだろう?魔女の手下の雑魚軍団みたいなものさ」

「あ、それならロリ子にも出てくるな。拝金主義の下僕いぬって名前の奴ら」

 それを聞いて銃は微妙そうな表情をした。

「嫌な名前だね……」

「俺は結構好きだけど」

 まだ熱いままのコーヒーを一口啜る。濃厚な苦味が口いっぱいに広がる。

 今の間を置いたことによって話をリセット、さらなる核心部分へと踏み込む。

「使い魔にされるとどうなるんだ?」

「今はまだ、というより向こう十数年は大丈夫だろうけど、それを過ぎると多分、意識が突然なくなって、魔女の操り人形になるね。因みに、こんな姿になった理由は、少しでも強い方がいいという理由からだね」

「おいおい……滅亡すんぞ人類……。でも、誰もいなくなった箱庭の孤独の世界で王を気取って、何するつもりなんだ?」

「孤独?それは違うね」

 聖奈人は最初は気づいていなかったが、すぐにハッと気付き、今まで以上に真剣な表情になった。

「魔法少女と俺……か」

「正確には、私が助けた、もう一人もいるけどね」

 つまり生き残ることができるのは、魔法少女数人と聖奈人と緋那、それに銃の助けたもう一人、ということになる。

 しかも、黒と銀の魔法少女は安否が不明なので実質一人減っているも同然だ。

 人類は半数に減っているとはいえ……魔法少女が各地にフィールドを張っているとはいえ、今まで滅亡せずにすんでいたものだが、十数年後には魔法少女と自分と緋那ともう一人で魔女に立ち向かわねばならないのだ。

 流石に事態を重く受け止めざるを得なかった。

「けどね、そう悲観するでもない」

 銃はニヤリと笑った。

「魔法少女はその名の通り、少女がなるものだ。そういうこともあって男は魔法に適応出来ないと魔女は思った。だから男は消したんだろう。だけど、実際は違った」

 聖奈人は自分の手のひらを見つめた。自らの存在を再度確認する。

 銃はにやけ顔をさらに強め、楽しげに続けた。

「実はね、魔法少女八人と魔女の力の関係はイコールで結べるんだ」

「……結べるったって、一人欠けてるじゃねぇか」

「もし、君を助けたあの子がいなくなってしまったとしていたとしても、十数年あれば適合者の一人や二人見つかるだろう。そして、使い魔レベルを少し超えただけの域だとはいえ、君と私が助けたもう一人が何処かにいる。私達ほどの力はなくとも、十分戦力にはなるはずだよ」

「……そんなもんかね」

「そんなもんさ」

 その言葉と同時に食事を終え、席を立った。

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