判明
「あいつの脳内はどうなってんだよ!女ともそんなプレイしたくねーよ!」
スマートフォンを床に叩きつけた。
音に驚いた銃がびくりと体を跳ねあがらせる。
最早返事をする気力もない。
永海のメールを全力で無視して、佳凪太にメールを送るためにアドレス帳を開いた。
アドレス帳の写真欄に写る笑顔でピースをする佳凪太の姿が聖奈人の荒んだ心を癒す。
「はぁ……かわいいなぁ」
「かわいいね。でも男だよ……?」
いつのまにか隣にいた銃が聖奈人を諌めるようにそういった。銃的に男色はNGらしい。
「かわいいに性別もクソもある……か……」
聖奈人は我が道を突き進むという意思をハッキリ見せたが。そこで先ほどの永海からのメールが頭に浮かび、ハッとした。
相手は緋那じゃないにしろ、これってあいつが思い描いてた展開じゃあ……。
ぶるんぶるんと首を振るい、訂正した。
「佳凪太はかわいいけど、かわいいだけだよな!」
「いや……最初からそういってるけどね」
「だよね!そうだよね!」
今までのことを忘れるかのように素早くアドレス帳の佳凪太のメールアドレスをタップし、メールを送る準備に取り掛かった。
銃はその間に朝食をテーブルに並べ始めた。
『今日佳凪太の家で遊べるか?』
その短いメールを佳凪太宛に送信。起きているかは不安だが、いずれメールを返してくるだろうとスマートフォンをポケットにしまった。
「……あふぅ、朝ごはん、出来てるよ。簡素だけどね」
トーストと目玉焼きと二人分、テーブルに並べられていた。
「さ、食べてよ」
銃が椅子に座った。
椅子がぎぎぃ、と今にも潰れそうですと言わんばかりの悲鳴を漏らしていていたたまれなかった。
聖奈人と座る。きぃ、と軽く軋んだ。
「いただきます」とそう言ってトーストにバターを塗り、口に頬張る。
バターの香りが口の中いっぱいに広がった。
どうやら火縄家ではお高い食パンを使っているらしく、トースト本体から芳醇で高級感漂う味が。普段パンの耳しか食べていない聖奈人にとっては天にも昇るかのような気持ちだった。
トーストを噛み締め、よくよく味わう。次にこんないい食パンを食べることが出来るのがいつになるかわからないからである。
「これ美味いな。俺、食パンとか、しばらく耳しか食ってなかったから……」
そこでふと気がつく。
銃が目を瞑り、下を向いているのだ。
こんな風景を、聖奈人は昔の漫画で見たことがあった。
ムキムキの老人が料理を食べ、しばらく俯いたのちに「美味い!」と目からビームを出すのだ。
今の銃はそれにそっくりだ。筋肉がいい味を出している。
「もしかしてやんのか……?」
聖奈人はワクワクしていた。
あまりボケることのない銃のボケを見ることが出来るかもしれないからだ。
しかし、いつまで経っても銃は俯いたままで何かをする気配はない。
そこで聖奈人は銃の顔を覗き込んだ。
「……くぅ」
寝ていた。
さっきまで元気だったのに何故だ。
「……はっ……寝てないからね」
「いや、聞いてねーよ。というか、なんで嘘つく必要あった」
「……そういえばそうだね」
聖奈人は悟った。
こいつ、この調子じゃ昨日の夜もあんまり寝てねーなと。
寝ぼけて変なことを言っている。銃は寝ぼけていると途端に余計なことをベラベラと話すようになる。
チャンスだ。
聖奈人は魔法少女のことを聞くベストタイミングだと勢い勇んだ。
この機会を逃す手はない。
思い切って口を開く。
「なぁ、そういえば魔法少女って、何人いるんだっけか。俺ちょっとど忘れしちゃってさ」
カマかけである。
魔法少女は何人いる、と直接聞けばこの状態の銃でも流石に答えないだろう。
ましてや、お前は魔法少女か、などと聞けば一瞬で目も覚め、いつもの調子を取り戻してしまうだろう。
短絡的な聖奈人にしてはよくやったものだ。
「魔法少女の人数……?ふわぁ……」
判断力が落ちている。しかし、これで目が覚めないとも限らない。聖奈人は心の中で頼む答えてくれ、と必死に祈った。
「えーっと……いち、にぃ、さん、よん、ご、ろく、なな……私を含めてはちに……」
銃の顔が一瞬にして青ざめた。
対照的に聖奈人の顔は興奮で赤らんだ。
ようやく手かがりを見つけた。
そのままの勢いで聖奈人は椅子から立ち上がった。
「教えてくれ、銃!魔法少女のことを!」
「聖奈人君……謀ったね……」
銃が聖奈人をジロリと睨んだ。
「悪いとは思ってる。でも、頼む!」
「教えるわけないだろう」
「藁をも掴む思いなんだ。頼む!」
リビングが静まり返る。聖奈人は銃を見据え、銃は聖奈人を睨む。
十数秒間、その時間が続いたが「はぁ」と銃が溜息をつき、肩をすくめた。
「ばれちゃったものは仕方がない。食べながら話そう。座りなよ」
聖奈人は黙って座った。




