お泊まり
本来至福の時間であろうはずだが、苦痛でしかなかった長い食事の時間を終え、聖奈人は手早く片付けを済ませて自らの家に帰ろうとしていた。
「それじゃあ帰るからな」
銃にそう告げて家から去ろうとする。
「待ちなよ」
引き止められてしまった。
「なんだよ……。もうやることないだろ?」
「泊まっていきなよ」
銃の言っていることがわからなかった。
頭にクエッションマークを浮かべる。
「外、雨だよ」
ふとドアを開けて外に顔だけを出して見ると、バケツをひっくり返したかのような大雨が地面に降り注いでいた。
「さっきまで晴れてたじゃねーか!」
扉を蹴飛ばす。ガンという金属質の大きな音が二人の耳を劈く。
「人の家を無闇に蹴らないでくれるかな!」
今度は銃が聖奈人の頭を蹴飛ばした。ゴキリという頭蓋骨が砕けていそうな音が二人の耳を襲った。
もっとも、聖奈人には聞こえていないようではあったが。
べしゃりと汚い音を出して聖奈人が地に伏せる。
しばらくそのままの状態でいたが、やがてむくりと起き上がり、銃をジロリと睨んだ。
「なにさなにさ。癇癪持ちの小学生じゃあるまいし、少し落ち着きなよ」
「……まあ今のは明らかに俺が悪いな」
後頭部を軽く掻き、その後顔を真面目な風に戻す。
「それで、泊まってけってどういうことだよ」
「そのまんまの意味に決まってるだろう。この雨じゃ危ないよ」
「い、いや……それはわかるけど……」
聖奈人が言い淀む。その先はあえて言わない。
「?」
銃には何故、すぐに了承しないかがわからなかった。だが、そのすぐ後に顔を真っ赤にして慌てふためきだした。ようやく意味がわかったのだろう。
「ばっ……変な意味で捉えないでほしいな!べ、別にそんな意味じゃないしね!」
やめろ。眼と耳が腐って脳が焼き切れる。
「それにしても、迂闊すぎんじゃないのか」
「たまたま不調なだけだ」
なんだ、気づいていたのか。
聖奈人はほっとした。
なににほっとしたかはさておき。
「ま、まぁお前が別に気にしないならよろしくお願いしようかなといったところだ」
「き、気にしないよ。君も気にしないでいてくれ」
ずしんと床を鳴らしてそのまま足早に室内へと去っていった。聖奈人は開いた口が塞がらないままでいた。
「なん……」




