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敗北

「君が馬鹿なことを言ってる間に冷めちゃったよ。はぁまじはぁ」

「適当なこと言ってんじゃねぇよ!卵にぶちこんでんだから多少冷たくなるに決まってんだろ!」

 聖奈人も肉を口に頬張る。ほんのりと暖かい。

 全然冷えてないじゃねえか、と聖奈人は心で毒づくがここで口にしてもただ何かしらをもって馬鹿にされるだけなので何も言わずにしておく。

 だが、言われっぱなしでは悔しいので、じとりと銃を睨む。

 その視線に気づいた銃が「ふふん」としてやったりと所謂ドヤ顔で聖奈人を見下した。

 聖奈人の顔に血管が浮く。右手に持つ箸に力がはいる。

 聖奈人は負けず嫌いだ。故にいつも琴葉への挑戦を繰り返している。

 そんな聖奈人が負けたまま目を瞑ったというのに相手に勝利を誇示されたとなると怒らずにはいられないというのも無理はない。

 顔がゴリラなのも相まってウザさが数倍増している。

 エロ漫画ならば腹パンされるといったレベルのドヤ顔だ。

 しかし、今の銃に腹パンなどしようものならミンチに変えられてしまうだろうので聖奈人はあえて無視した。

 ぱくぱくと一心不乱、無念無想で肉を口に運び続ける。

 時々、何も掴んでいないのに箸を口へいれることもあるが怒りを収めるのに必死で気づかない。

「あはは、猿みたいな顔」

「てめえの顔はゴリラだろうが!ナックルウォークでもしとけよクソが!」

 ついに聖奈人がブチ切れた。

「何怒ってんのさ」

「明白だろ!」

「君が勝手に怒ってるんだろう。私はただ冷めちゃった、とふふん、と最後のセリフぐらいしか言ってないよ。君が無駄に思考を深めて怒り出したんだろう?」

「ぐ……」

 当たっているだけに反論が出来ない。確かに煽ったのは銃だが、表情に対して必要以上に怒ったり、そんな間抜けな顔を晒したのも聖奈人だ。

 だが、聖奈人の心は釈然としない。

「で、でも」

「最初にレディーに太るぞ、なんて無神経なことを言ったのは君だ。さて、まだ何かあるかな」

「ぐぬぬ……な、ないです……」

「よろしい」

 箸を二本同時でペン回しという凄技をあっさりと披露したのちに食事に戻る。

 聖奈人もはぁ、と大きなため息をつき、遂に敗北を認めて再度食事を取り始めた。

 聖奈人の落胆、銃が浸る勝利の余韻によって静寂が訪れる。

 室内に立つのは先ほどと変わらぬ鍋が煮え立つ音だけだった。






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