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四月八日の話Ⅱ

 ファミレスに到着し、受付を済ませてから席に座る。

 慣れたものだった。

 とりあえず一息つき、出された水を飲んでからメニュー表を三人で眺め、やがて聖奈人へと佳奈太が話しかける。

「みなくんはなに頼むの?」

「そうだなぁ、俺はそれででいいや」

「じゃあ、わたしもそうする!」

 そんな二人の会話を聞いて、琴葉が口を挟んだ。

「あんたたち少食ねー」

「節約生活してたら胃袋が縮んだんだよ」

「そういえば、あんたの家って、家の大きさの割にはビックリするほど貧乏よね……」

「みなくん、かわいそう……」

 佳凪太が聖奈人へと憐憫の目を向けるが、聖奈人は毎月母親から決して少なくない額のお金が送られてくるが、趣味にお金を使いすぎて、自分の分の食費を毎月残せていないだけだなんて口が裂けても言えなかった。

「というか、お前は食いすぎなんだよ」

 話を逸らすかのように琴葉の事を口にする。

「そう?こんなもんでしょ」

 聖奈人と佳凪太はもうすでに決まっているので、メニュー表を琴葉に譲ったが、それから琴葉は、「これにしよう」をすでに五回は言っている。

 魔法によって構成された肉体の上から更に自前の筋肉をプラスしていくスタイルに、聖奈人は恐怖を覚えずにはいられなかった。

「もうこれくらいでいいか。食べ過ぎも良くないしね」

「普通に食い過ぎだ」

「あたしの中では八分目だからいいのよ」

「琴葉ちゃん、相変わらずすごいね」

 どういう意味ですごいかの真意はともかく、ある意味すごいというのは確かである。

 聖奈人は見ているだけで腹が膨れるような気がしてならなかった。

 一方琴葉は、そんな聖奈人の不安も露知らず、ボタンで店員を呼び出して次々と注文をする。

 琴葉の注文が終わると、ようやく聖奈人と佳凪太の注文を出来る時間が回ってきた。

 店員は、心なしか少し苛立った様子で二人の注文を待つ。

「あ、じゃあこれ二つと、ドリンクバー三つで」

「かしこまりました……ちっ」

 店員が舌打ちをする。

 待たせすぎたのも悪いが、態度の悪い店員だ。

 聖奈人は若干の嫌悪感を感じながらも、ずっとそのままでは食事が不味くなると考え、忘れることにした。

 まもなく先ほどの態度の悪い店員によって料理が運ばれてき食事に取り掛かる。

 接客態度はともかく、味はなかなかいけるな。

 チェーン店でなおかつ安価な割にはなかなか味は良く、舌が肥えていない聖奈人にとっては高級料理店で食事をしているような気分になった。

「なんというか、普通ね」

「まぁ、チェーン店じゃこんなものじゃないのかなぁ」

 二人が味の感想を伝える。

 聖奈人は琴葉と佳凪太の両名が味に多少とはいえ不満を感じたにも関わらず、一人だけ昇天しそうになってたことが急に気恥ずかしくなり、コロリと意見を変えた。

「そ、そうだな。フツーだよなフツー」

「……あんた、超美味しいって顔してたわよ」

「うん。すごく幸せそうだったよぉ」

 そして、佳奈太は携帯電話をそっと懐に仕舞った。

「おい、かな、お前今何をした」

「え?何もしてないよぉ」

「嘘つくなよ。ケータイでなんかしてただろ!見せてみろ!」

 佳奈太から携帯電話を奪い取り、データフォルダを開き、その後写真フォルダへとアクセスする。

 しかし、そこには聖奈人が危惧していたものはなく、以前聖奈人、永海、琴葉、佳奈太で撮った写真があるだけだった。

「ほら、何もしてないでしょ?」

「お、おう。悪かったな」

 聖奈人が佳奈太へと携帯電話を返す。

「うん、いいよ」

 純粋な笑顔を聖奈人へと向ける。

 聖奈人は佳凪太を疑ったことに多少の罪悪感を感じると同時に、笑顔に癒されていた。

 佳凪太は聖奈人から携帯電話を受け取り、再び懐へ戻そうと下を向いた。

 その時、佳凪太の顔は先ほどと打って変わって邪悪な物へと変貌する。

 高速で携帯電話のデータフォルダから写真フォルダ……ではなく、プライベートフォルダ、つまりパスワード付きのフォルダへとアクセス。

 パスワードを瞬時に打ち込み、先ほど撮影した聖奈人の写真を見る。

 今の一瞬の間に写真フォルダからパスコードが必要かつ、写真フォルダに表示されないプライベートフォルダへと今の写真を移動させたのだ。

 二人は佳凪太の行動に一切気づいていない。

 完璧だ。思わず笑みが溢れる。

「ふふふ……」

「かな?」

「ふぇっ⁉︎ど、どうしたの?」

 突然指摘された佳凪太は焦りを見せる。

「いや、どうかしたのはお前だろ。急に笑い出して」

「い、いや、なんでもないよ!あはは……」

 佳凪太は笑ってごまかす。

 幸い、佳凪太は聖奈人と琴葉からの信用は厚いのでそれ以上何かを追求されることはなかった。

 心の中で胸を撫で下ろす。

 ちなみに、今のやり取りの間で、料理は冷めてしまっていた。



「ふう、食った食った」

 食事と会計を済ませ、店を出る。

 最後まで態度の悪い店員に当たって運がなかったとテンションが下がるものの、満足げな一人の天使と、一匹のゴリラの姿を見て考えを改める。

 ふと時計を見ると時刻は一時半。まだまだ帰るには早すぎる時間だった。

「なあ、これからどっか行くか?」

 聖奈人が二人にこれからどうするかを相談する。

 聖奈人の心情としては、まだまだ遊んでいたい気分だが、二人の選択によってはそのまま帰宅ということもありえる。

「みなくんがどこかに行きたいならわたしも行くよぉ」

「あたしはあんたがどっか行きたいってなら行くけど」

 聖奈人は、全員がお互いに任せっきりという状況に陥ったことを把握し、ここは男らしくズバッと決めようと何か案を画策する。

「そうだなぁ。とりあえずゲーセンにでも行くか?」

「ゲーセンねぇ。いいんじゃない?」

「わたしもいいと思う」

 聖奈人が案を出し、これからの行動があっさりと決まる。

 聖奈人は内心、ゲームセンターという男が好んで行きそうなところを案に出してしまい、嫌な顔をされると思っていたが、そもそも二人に考える気が無かったので全く問題ないということ思い出して安堵のため息をつく。

 そこで聖奈人はもう一つのことを思い出す。

 佳凪太も男だ。



 ゲームセンターもファミレスと同じく、表通りにあるのでそこまで遠い距離を歩くということもない。

 この通りには比較的なんでも揃っており、ないのは大型のショッピングモールぐらいなものである。

 とはいっても、自転車を使えばすぐにつくような距離にあるので、困ることはないのだが。

 目的地が決まり、ゲームセンターへと足を運ぶ。

 歩きながら他愛のない雑談を交わす。

 雑談内容は主にこれからの学園生活のことであり、琴葉も佳凪太も旨を膨らませているようだ。

 聖奈人はそんな二人の会話に耳を傾けるのみだったが、その楽しそうで微笑ましい内容に頬をほころばせ、自然に口元を緩ませる。

 最初、佳凪太とは別段仲が良いというわけではなかった。

 同じ男ということでよく、何かしらのペアを組まされることが多かったので、仲良くならざるを得なかったのだ。

 次第に二人の仲は深まっていったが、琴葉とはそうはいかなかった。

 琴葉は当たり障りのない交友関係から仲良くなっていくのは得意だったが、急に引き合わされたりして仲良くなる、という事が出来なかったのだ。

 それは佳凪太も一緒だった。

 友達の友達は友達という風にはいかず、最初は琴葉と佳凪太は、聖奈人がいないとまともに会話すらできない状態だったが、こうやって何度も遊んでいるうちに関係は良好になっていき、今ではすっかり昔から知っていた仲だったかのようにしている。

 そんな聖奈人も実を言うと幼馴染みである琴葉、同じ学校で唯一の男である佳凪太以外にほぼ友達はいなかった。

 だから聖奈人は、二人を大切にしている。

 それは琴葉も佳凪太も一緒で、二人も他の二人を大切に思っているのだ。

 聖奈人は瞳を閉じ、二人が大好きだと心の中で呟くと同時に二人を守っていこうと誓う。

 それは誰に誓ったわけではないが、絶対に破らないと固く志す。

 そして目を開くと、目指していたゲームセンターの大きな看板が目に入る。

 到着だ。

「あ、ついたよ」

 佳凪太も看板を見たらしく、聖奈人が考えていたことと同じことを言う。

「さーて、まず何からやろうかなっと」

 琴葉が当たれば人をも殺せそうな勢いでブンブンと腕を回す。

 空を切る音が聖奈人の恐怖を煽る。

 お前は今から殴り込みにでもいくのかと言ってやりたいが、あんな音を聞かされた後では何かを言う気にはなれなかった。

 そして入り口をくぐり、全体的に明かりが少ない内部を見渡す。

 予想してはいたが、人は多くない。

 音楽ゲームの辺りには人はいるが、格闘ゲームの周りには一切人がおらず、閑散としていた。

「あんた達、まず何したい?」

 琴葉がやる気満々という様子で二人に質問する。

「格ゲーとかどうよ」

「いいわね。かなは?」

「わたしは見てるだけで楽しいからなんでもいいよぉ」

「了解。じゃあ勝負しましょうよ、聖奈人」

「いいだろう。返り討ちにしてやる」

 そんなこんなでゲームを始めた。

 佳凪太の前では負けられないと、聖奈人はレバーを強く掴んだ。



 結果を言うと、琴葉の圧勝。

 ノーダメージでの完封、聖奈人では手も足も出なかった。

 こいつ、こんなにゲーム上手かったっけと聖奈人は頭を抱えた。

 椅子から立ち上がり、琴葉の元へと行くと、してやったりという顔で聖奈人を見下していた。

 そして指をさして、「雑魚」と聖奈人を罵る。

 一方聖奈人の方は、指を指された時点で、いつ己の体が爆発するか気が気ではなかった。

 お前はもう死んでいる、と死の宣告をされた気分である。

「あんだけ威勢良かった癖に何?あたしに惨敗しやんの!」

「うるせーよ!俺、このゲーム苦手なんだよ」

「言い訳とか……ダッサ」

 肩をすくめ、勝者の余裕を盾に聖奈人を煽る。

 当然そこで黙っている聖奈人ではない。

「じゃあ、次はこっちので勝負だ!」

 聖奈人が指差したのはガンシューティングのゲーム。

 襲いかかってくるゾンビを撃ち殺して点数を稼ぐというオーソドックスなものだ。

 最新機らしく画質も良く、ほとんど使われた形跡もない。

 銃は拳銃タイプで軽そうだ。

「いいわよ。受けて立つわ。かな、相方お願いできる?」

 佳凪太に協力を要請する。

 しかし、佳凪太はこういう……というよりゲーム全般が苦手なようで、断った。

 仕方なく琴葉が一人で二個の銃を取り、通常の倍額をいれてゲームをスタートする。

 舞台は謎のウィルスによって汚染されたビルから始まり、そのウィルスに汚染された人々がプレイヤーに襲いかかってくるというありきたりなものだった。

 巧みに二丁拳銃を操り、次々とNPCを倒していく。

 上手いものだ。

 そんな内にストーリーは中盤に進み、徐々に大きめな敵が現れ始める。

「くっ、結構強いわね!」

「爆弾使えよ爆弾」

「もったいないでしょこんなところで使ったら!」

 オプションの爆弾を使うのを渋る。

「あ、ヤバイヤバイヤバイ!あーあ……」

 ゲームオーバーだ。

 しかし、記録は中々のもので、店内の最高記録を大幅に更新した。

 琴葉は銃を置き、聖奈人へと笑いかける。

「ふふん。どうよ」

「ん、いいんじゃないのか?」

 百円玉を親指で弾き、落ちてきたところを片手でキャッチする。

「調子乗ってんじゃないわよ」

 聖奈人の尻を軽く蹴る。

「あいだっ!」

「大袈裟ね」

 あくまで軽くなのでそこまで痛くはないはずだが、聖奈人はそこそこダメージを喰らってた。

「あ、かなもやっぱりやらないか?」

 佳凪太へともう一度提案する。

「うーん。みなくんがそう言うならやろうかな」

 心変わりしたらしく、佳凪太も銃を取る。

 あまりこういうものに触ったことがないようで物珍しそうに銃を眺めている。

 そして、二人が百円ゲームに投入してゲーム開始。

 銃を画面へと向ける。

 琴葉と同じように舞台は謎のウィルスに侵されたビル。

 聖奈人は琴葉がやったよりも鮮やかに敵を倒していく。

「やるじゃない」

 琴葉が聖奈人の様子を見て感心する。

 一方、佳凪太は「きゃーっ!」と怖がるだけで一切聖奈人の助けになっていない。

 案の定すぐにゲームオーバーとなった。

「あう……」

「あう……って、そりゃそうでしょあんた」

 佳凪太ががっくりと項垂れ、少し名残惜しそうに眺めた後銃を戻し、聖奈人の観戦兼応援に回った。

 その後も聖奈人一人でどんどんゲームを進めていく。

 二人はしばらく様子を見ていたが、どうやら物語はもう終盤に差し掛かっており、琴葉が倒せなかった敵を何体も相手をして未だノーダメージでいるようだ。

 しかも、爆弾を一発も使っていない。

 爆弾を使わなければ突破できないよう設定されているところもあるだろうに、全部銃一丁で対応している。

 いつのまにかラスボスを倒すところを見ようと人だかりが出来ており、さっきの静けさが嘘かのように賑わっている。

 だが、聖奈人はその状況に眉ひとつ動かさず、黙々と銃をぶっ放し続ける。

 そして、今までより一際大きい敵が現れた。

 これでラストだろう。

 聖奈人はやはり表情を変えずに敵に応対する。

 敵はラストに相応しく体力が多く、いくら弱点を狙い撃ってもヒットポイントが全く減らない。

 そこで聖奈人は今まで温存していた爆弾を使用。

 爆弾には一撃で相手を倒せる性能があり、それによってあっけなくボスは撃沈。

 その後、短いストーリーを展開してからエンディング、そしてゲームオーバーになる。

 もちろん得点は店舗最高記録、それどころかオンラインの日本全体でもトップに立っていた。

 まさに流れるかのような勢いでゲームをクリアしてしまった。

「俺の勝ちだな」

 聖奈人はいやらしく琴葉に笑いかける。先ほどまでの姿が台無しだ。

「あんた、最低ね」

 自分の得意なゲームで相手に勝ったのだ。

罵られてもおかしくはない。

「負け惜しみか?」

「ほんっとあんたって人をイライラさせるの上手いわね」

「どうも」

「褒めてないわよ!皮肉だっつの!」

 しかし、心の中では凄いと思っているらしく、そこで追求は終わった。

「というか、あんた上手すぎでしょ。なんでそんなに上手いのよ」

「みなくんすごかったよ」

 二人が聖奈人を称賛する。

 だが。聖奈人はそこまですごいと思っていなかったらしく、少し驚いていた。

「え?いや、そこまですごくはないだろ。こんなのその辺にゴロゴロいるっての」

 大袈裟に腕を広げ、自分が全然だということをアピールする。

 それは、謙遜でもなんでもなく、ただ単にまだまだだと自分に言い聞かせているようだった。

「さ、これで五分五分だけど、まだやるか?」

 聖奈人が話題を変え、次の事へと話をシフトする。

「もういいわよ。それに、かなが何もしてないじゃない」

「それもそうだな。かなは何かしたいことあるか?」

「わたし?そうだなぁ。特にしたいことはない、かな」

 佳凪太が申し訳なさそうに俯く。

 それを受けて、聖奈人も琴葉も口を揃えて「飽きた」と言った。

「え?」

「ゲーセン飽きたし、他行こうぜ。そうだな、佳凪はどこがいい?俺たちじゃイメージが貧困すぎて思いつかねーよ」

 佳凪太の顔がぱぁっと明るくなる。

「じゃあ、服屋さんにいこうよ!」

 聖奈人と琴葉はお互いを見て笑い、「じゃあ行こうか」と佳凪太を先頭に服屋へと向かう。

 ゲームセンターを出ると、日差しがまぶしく照りつける。

 暗いところよりは明るい所の方がいいな、と聖奈人は思った。

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