不思議な感情
銃から見てその聖奈人の姿は情けないの一言に限った。
銃はこのあたりで聖奈人の性格が掴めてきた気がしてきた。
ぶっきらぼう、何事にもやれやれという、自分は賢いといった様子を気取ってはいるものの本質的には馬鹿。しかもそれを隠せていない。
思ったことはすぐ口にしてしまうところを見ると、単純でもあるのだろう。
そんな性格なのに人見知りが激しいというのだから謎だ。
「はぁ……」
ため息。
右手の二本指を立てて額に当て、やれやれポーズ。
「もういいよ」
そう言って左手を前に突き出し、手のひらを聖奈人へと向けて許しを出した。
「マジか!土下座したかいがあったもんだ!」
「そういうことは言うべきではないと思うよ?」
「はい!」
元気よく返事をしているものの、頭には入っていないだろうと予測する。
「ただ、一つ条件が」
突き出した左手を下ろしながら銃が続けて話す。
その条件というものがなんなのか、聖奈人は面をあげてまるでお預けを食らった犬のように待つ。
「なんでしょう」
聖奈人がそう言うと、銃は片目を閉じてウインクをし、指を顔の前に持ってき、人差し指を立ててこう告げた。
「今晩、夕食を作ってくれたらね」
時刻は午後十七時。
銃と共に夕食の食材を買いに、再びスーパーマーケットへ足を運ぶ。
大丈夫かと聖奈人は銃に問うが、元々大したことでもないし、問題ないよと一蹴。
どうやら本当にただの睡眠不足だとわかって聖奈人はほっとした。
「何か食べたいものはあるか?」
「そうだね…………。なんでもいいや」
「そうだね」としばらく思案した割にはなんでもいいなどと曖昧な返事に投げ出されて怒りで頬を膨らませる。
「可愛くないからやめなよ」
「うるせぇ」
「あ、その反応を見るに狙ってやったんだね。かわいいアピールかい?」
「少なくともお前よりは可愛くはあると思うけどな!というか、この世に似合うやつなんて一人もいねーよ!」
「まだそういうことを言うかな。十二夜ちゃんほどにはいかなくとも、この姿で君のような中肉中背君が殴られたらどうなるかもわかるだろうに」
人差し指で聖奈人の額をうりうりと小突く。
「ちっ、悪かったよ」
非礼を詫びる気は全くないという様子ながら、謝罪の言葉だけは口にする。
何も入っていない買い物カゴを肩に引っ掛け、辺りをキョロキョロと節操なく見渡す。
「何を探しているんだい」
「自分でもわからん」
食材を眺めながら、献立をどうするか思索する。
しばらくするとキョロキョロするのを止め、売り物を見て考えにふける。聖奈人には珍しく、真剣に物を考えているようだ。
やがて何かを思いついた様子で目を見開いた。
「よし、すき焼きにしよう」
ぽん、と一つ手を打って材料の調達に向かう。
「そんな豪勢にいいのかい?お金ないだろうに」
「いいんだ、見栄張らせろ。食べられるだろ?」
そういって銃に笑いかける。
「そうだなぁ、食べられないことはないよ。というか見栄ってなんの見栄さ」
「ほら、あれだあれ。こう、俺の懐の大きさ、とかさ」
「何言ってんだか。君と仲良くなって数日経つけど、数日しか経ってないけど、今更君が見栄を張ったところでなんの威厳も感じないし、滑稽にしか見えないよ」
「な、中々辛口だな……」
「人のこと言えないでしょうが」
「……そうか?」
聖奈人は今、不思議な感情を胸に抱いていた。
話せば話すほど、お互いの距離が縮まっていくかのような、そんな感覚。
同時に、この感覚はどこかで感じたことのあるような気もしていた。
何なのかは思い出せないが、その妙な感覚が何たるかをを求め、記憶の波をかき分けて何だったかと思い出そうとする。




