対抗
ゾンビが二人に襲いかかり始めた。
銃の形は昨日と同じハンドガンタイプの聖奈人が最も得意とするもの。
弾数は少ないが一発で敵を倒すことが出来るので精密な射撃が出来る聖奈人はマシンガンタイプのように物量で無理やり押し切らなくても問題ないのだ。
しかし、それは銃も同じなわけで。
どれだけ体をぐねぐね動かして狙いが定まらないようされても確実にヘッドショットを決めてくる。
無駄撃ちは一切せず、一発も弾を外すこともなく。
二人とも一匹に弾を二発は使わない。
まだ最初のステージだが、初心者ならばもういっぱいいっぱいになっている頃だろう。
だが、二人は特に苦労するような顔も見せず、ズギャンズギャンと安っぽい音を立てながら次々と敵を倒していく。
倒れていくゾンビはどれを取っても同じ倒れ方をする。
それは、精確に寸分違わず同じ場所を撃ち抜かれているので皆一様に同じように倒れるのだ。
両腕で銃を固定せず、片手で撃ち続ける姿に、琴葉を始めとする周囲の人々は驚きを隠せない。
おもちゃとはいえ、普通に反動はあるのだ。
だが、反動をいともせずただ撃ち続けていく。
普通、こういうゲームをやると白熱するものだろうが、二人とも普段より落ち着いて見える。
そこには過去にエロマシーンと呼ばれていた男も、学級委員のゴリラもいなかった。
いるのは、二人のガンマン。
屈強な男と、胸の開いたピチピチスーツを着た金髪の女がいた。
「なかなかやるね聖奈人君」
「そうだね」
銃が聖奈人に話しかける。
だが、返事は適当。
「なあお前は3+5+7+12+7+1+3+9+7の答えわかるか?」
「2」
銃も適当に返す。
実際の勝負のみならず、お互いの妨害も行われていることに驚愕。下手に話しかけようものなら蜂の巣にされそうな勢いに、誰も話しかける事が出来ない。
そんなこんなでゲームは中盤に移り変わっていた。
未だ眉ひとつ動かさずに敵を撃ち続ける姿に顔を青くしながらも画面から目を離さず勝負の行方を見守り続ける。
お決まりなのだろうか、昨日同様巨大な敵が姿を現した。
敵は一体しかおらず、他に狙う相手もいないので二人が協力して攻撃する。
「流石に協力するんだね」
「協力プレイの、クリアが目標の筈のゲームで得点争いなんか普通はしないわよ。この二人がおかしいのよ」
そのはずだが、ここでもより多くの弾をより高得点が出る部位へと相手より早く撃ち込むことに二人とも必死だった。
相手の攻撃を出す前に封じ、普通はもう少し段階を踏まなければ倒せない敵を弱点特攻でいとも簡単に倒してしまう。
「雑っ魚。割と新しめのやつみたいだけどハズレだなこれ」
「そうみたいだね。最近のはヌルゲーすぎて困る」
中間のスコア計算で空いた休憩タイムの時に二人して愚痴を漏らす。
「こ、これでヌルゲーって何者なのよあいつら……」
驚きを通り越して呆れに変わる。
プレイしている本人たちより、何故か見ているだけの自分たちが疲れているのに気がついて、更に呆れた。
そして、ついにゲームは終盤に差し掛かる。
敵の動きが過激化していく。
仮にもゾンビだろうに、そんな高速駆動していいのかというくらいに画面中を跳ね回る。
しかも、一体や二体の話ではない。
十体も二十体もいるのだ。
聖奈人と銃はヌルゲーだと言っていたが、ここにきて急に難易度が上がったように見える。
おそらく、それまで簡単にクリア出来たからボスまでも辿り着けるだろうと安易な考えでプレイヤーに挑ませ、油断を誘ってゲームオーバーにし、あと少しだからということでコンテニューをさせる戦略なのだろう。
事実、ゲームが始まる前に見たランキングでゲームオーバーになったステージが大抵中盤だった。
琴葉は、作戦失敗だざまぁみろと思ったが、だからといって難易度が変わるわけでもない。
常人ならこんなのクリアできるわけがない。
だが、ここにいるのは常人でもなんでもない、唯の廃人だった。
ぼうっと考え込んでいるうちに、聖奈人と銃がエンディングを迎えていたのだ。
「は?」
ついつい間抜けな声が出る。
「ちっ、なんか微妙だったな。グラフィックはすごかったけど」
「そうだね。なんだか物足りないよ」
エンディングを迎えたというのに大した盛り上がりも見せずに話し込む二人。
そんな二人をぽかんと見つめることしか出来ない琴葉と佳凪太。
それらをじっと見渡す刃乃。
「さて、得点はどうだ」
「負ける気がしないね」
「そっちが本題なんだね……」
「当たり前だろ。クリアなんか出来て当然だ」
エンディングが終了すると同時に、最終スコアが表示される。
結果は、聖奈人と銃の同点だった。
「同……点?」
「嘘……」
二人同時に床へと倒れこむ。
あと一点、あと一点さえとれば勝利出来ていたのにと後悔の念が押し寄せる。
「あそこでああすれば……ああああ他にもあそことかああしとけば……」
「あの場面で聖奈人君に遅れをとったのは0.4秒、その前の場面で聖奈人君が撃ちそうな敵に意地を張って向かっていったのが原因……。あそこもああいう風に出来た筈なのになんで……」
ぶつぶつと反省を呪いのように繰り返す二人を見て乾いた笑いが出る。
「火縄、銃」
誰にも見えず、声も届かない距離にいる刃乃がいつものごとくぼそり、と呟いた。
彼女の真意を知るものは、現時点でただ一人を除いていなかった。




