脳筋女の話Ⅰ
首を鳴らし、肩をぐるんと一回転させた後に軽く伸びをする。
そして、完全に切り替えたという表情で佳凪太と銃に話しかけた。
「さて、今からどうするよ」
「あんなことがあったのに元気な奴だな!」
「え?別に普通だろ……」
「今のやり取りを普通だと言えるみなくんの精神を疑うよぉ……」
「昔からずっとこんなんだからな。さっきの巡水だってある程度は自分で受け流せるようになったんだぜ?」
「あれで受け流せてるのか……?」
はっきり言って、一切受け流すことが出来ているようには見えなかった。
もしかして、あまりにも喰らいすぎてダメージに慣れ、受け流せるようになったと勘違いしているのではないかと疑念が生まれる。
しかし、それを言うとダメージが軽減されていると勘違いしていて、全く軽減出来ていないと分かって、次喰らった時にいつもより痛く感じるかもしれないので、そっと胸にしまう。
「で、次はどうすんだ?俺には決定権ねーし、さっさと決めてくれ」
「そ、そうだね。どこに向かおうか、佳凪太くん」
「えっ?あっ、そうだねー。どこでなにしよーかなー」
二人がこれからの事を考え出す。
これ以上今の話をすると何か突っ込んでしまいそうだったのだ。
「射撃……」
「ん?」
「射撃……見たい」
刃乃が唐突に口を挟む。
「射撃?射撃なんてできる場所あるか?」
「ゲームセンター……なら、できるはず」
「ゲーセンってーと……シューティングゲームか」
やっぱり昨日と一緒じゃねーかと聖奈人はがっくりと肩を落とす。
「やりたい」ではなく「見たい」なのが少し疑問だが、そういうこともあるだろう。
昨日と一緒ではあるが、場所が違うだけまだマシかと刃乃の要求を聞き入れるのであった。
「んじゃ、行くか」
聖奈人が琴葉に許可を頂き、深く一礼をしてからゲームセンターがある上のフロアへと向かい始める。
「彼は本当に人間なのか?」
「わたしもちょっと疑っちゃうかも……」
元気よく駆け出す聖奈人に疑惑の目を向けざるを得なかった。疑問を抱かずにはいられなかった。
「あいつね、昔から私の技の実験台になってたから、体だけは頑丈なのよ」
今の攻撃で頭のネジが外れたのではないかというような楽しそうな聖奈人を冷ややかな目で見つめる琴葉が話し出した。
「実験台って……。新しいバットを買ったから殴らせろみたいな……」
「そっ、そんなんじゃないわよ!」
「どう違うの……?」
ジャイアニズムを素で通す琴葉に恐怖を覚え、少し距離をとる。
そんな二人に「失礼ね」と腕を組んで「ふぅ」、と一つ溜息をつき、人差し指を天井に向けて突き立てて話を始めた。
「一時期ね、あいつは本気で魔女を殺そうと思ってたみたいなのよ。見たことも無いくせにね。『友達をみんな消しちゃって、琴葉ちゃんをあんな姿に変えた魔女を僕は絶対に倒すんだ!』って。相当恨んでたみたいで、偶然魔法適正で魔法をちょっとは使えるようになったからってマジで修行なんか始めちゃって。その時のあいつの目は憎悪で凝り固まってたわ。でも恐怖で怯えているようにも見えた。あのままだと多分あいつ、憎悪と恐怖でぐちゃぐちゃになって、壊れていたと思うわ。だから」
「だから?」
「あいつをボコってあいつの目指す目標をあたしに変えさせたの。今では、魔女を倒すよりもどうやってあたしに攻撃を通すかってことばっかり考えてると思うわ」
場が静まり返る。
こいつ馬鹿だろと誰もが思ったに違いない。
刃乃は眉ひとつ動かさないが、佳凪太と銃はそうはいかなかった。
力技にも程があると口に出したい気持ちでいっぱいなのだが、自慢気に話す琴葉を見ていると馬鹿にはできない。
琴葉は幼き日の美談だと思っているようで、懐かしそうに遠くを見る。
しかし、周りがその話を聞くと、慰めより、先に拳が出る危険な女としか思えなかった。
「ど、どう思う?銃ちゃん」
笑顔を崩さずに琴葉には聞こえないレベルの小声で銃に話しかける。
「の、脳筋にも程があるだろう……。『私がずっと側にいるから復讐なんて考えないで』みたいなことを言えば十二夜ちゃんの思い描くような関係になれたろうに」
「だよね……。それが原因でみなくんがあと一歩を踏み出さないんだと思うんだけど琴葉ちゃん気づいてないよね。……まあ、わたしのみなくんを奪おうものなら、琴葉ちゃんでも許さないんだけど」
「何か言ったかい?すでに小声なんだから、それを更に小声にするのはやめてくれないか」
「ううん、なんでもないよ」
琴葉はまだ自慢顔でいる。




