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誠心誠意

「かな」

「は、はい」

 不意に白羽の矢が立てられ、ついつい敬語になる。

 もっとも敬語になった理由は、先程床が突きつける程の威力のパンチをあろうことか人に向かって繰り出したことにあるだろうが。

「私が悪いかな」

「えっ……」

「正直に答えて」

「そ、その……多少は……」

「そうよね。悪いわよね」

 悪いといいつつ、一切悪びれる様子もなく淡々と会話を進めていくその異様さに一行は一筋の戦慄と悪寒を背中に感じる。

「でもね、こんな場所で人を口説くのもおかしいと思うのよね。かなもそう思わない?」

 佳凪太も聖奈人に対して多少とはいえ殺意、刃乃に対しては嫉妬を覚えてはいたが、そこまでする程ではないと思っていた。

 ただ、そこまでする程ではないと言っても、”今”の段階ではそこまでする必要はないと踏んだだけで、度が過ぎれば琴葉以上の事をすることも辞さないというスタンスではある。

「そ、そうだね。みなくんが悪いよね」

 しかし、いずれは聖奈人を我が物にする為、ここで死ぬわけにはいかない。

 聖奈人を庇うことなく更に罪を着せる。

 どんどん状況が悪化していくのを見て銃はかなりの罪悪感を感じていた。

 悪ふざけのつもりで聖奈人をおちょくったのだが、まさかここまでとは。

 さっきまでのやりとり……デコピンやチョップで明らかにはなっていたが、琴葉の力が床を抜く程とは思ってもいなかった。

「……お金、返して貰わなくていいや」

 誰にも聞こえない声で居なくなった聖奈人を思ってつぶやく。

 空を見上げながらそう言ったので、死んだ者を追悼するかのように見えてしまっているのはここだけの話だ。

「待て……てめぇら……」

 背後で震える男の声。

 もちろん聖奈人だ。

「なんだ、生きてたのね」

「死んでたまるかこのクソゴリラ!けど死ぬかとは思ったぞ!」

「逆にあれで死ななかったのか……」

「部外者は黙ってろォ!」

 全面的に銃が悪いはずだが、聖奈人の怒りは直接行動に出た琴葉へと向いていた。

 銃の心中は申し訳ないという気持ちでいっぱいだった。

「で?何かあたしに言うことはないの?」

「ああ、俺はお前に言いたいことがある」

 一瞬即発のムードに周囲が息をのむ。

 関係のない人々も、その空気を感じ取って聖奈人達を見つめる。

「言ってやるよ……『ごめんなさい、僕が悪かったです』ってな。そして見せてやるよ。ここまで成長した男のDOGEZA☆スタイルをな」

 あまりにも堂々と言うので、最初、佳凪太達には何を言っているか理解できなかった。

 だが、その後の行動で聖奈人の発言をようやく理解する。

「申し訳……ありませんでした。ごめんなさい、僕が悪かったです」

 その洗練された土下座に佳凪太達のみならず、道行く人々までもが目を奪われる。

 なんと美しい。

 齢十数歳で到達できる境地ではない。

「聖奈人くん……君は今まで何回の土下座を重ねてきたんだ……」

 感嘆の声をあげるが、すぐにそれは賞賛に値するものではないと理解して取り消す。

「顔、あげなさい」

 琴葉のお許しが出る。

 その言葉を待ち受けていたかのように聖奈人が顔をあげた。

 そしてすぐに立ち上がり、叫んだ。

「バァァァァァァァカ!俺が心から謝るわけねーだろ!」

 拳を握り、琴葉の腹へと思いっきりパンチを繰り出した。

 勿論ノーダメージである。

「あんた、本当馬鹿よね。一回も効いたことないってのに、毎回毎回」

「ふっ、男にはやらなきゃなんねー時があんだよ」

「まったく、あたしがこんな体じゃなきゃ、アンタ普通に捕まってるんだからね。……それはそうと、今がその時ね。”殺”らなきゃ、ね」

 人差し指で聖奈人の額を全力全開で突く。

 突かれた聖奈人は、その場で静かに倒れこむ。

「衝撃を外へ伝えることなく、体の中を血液が巡るかのように対象の体内にそのまま留める。かしこりゅう一番、巡水じゅんすい。ほんとは、剣でする技なんだけどね」

「ひいいいい……」

 怯える佳凪太。

 巡水を喰らった聖奈人は、目も当てられない姿をしていた。

 衝撃がいつまでも逃げないので、一定の間隔でビクンビクンと体が大きく跳ねるのだ。

 数分待ち、聖奈人の目に光が消え、うっすらと涙が浮かび始めた頃。

 琴葉が「散っ」と聖奈人の胸を踏みつける。

 すると、聖奈人の体の跳ねが止まった。

「あ……う……」

「反省した?」

「は、はい……猛烈に反省致しました……」

「よろしい」

 すっ、と手を差し伸べる。

 聖奈人はそれをなんの躊躇もなく握った。

 今まで散々聖奈人をボコボコにしていたのは琴葉だというに、聖奈人は「ありがとう」とまで言っている。

「何がなんだか……」

「わかんないね」

 佳凪太と銃が顔を見合わせ、二人の奇妙な友情に肩をすくめる。






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