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至るところで、恋~2014秋、短編スペシャル~

作者: 鷹山敏樹

そんなこと言ったって

もうそうなっちまったんだもんよ

そんなこと言ったって

これがじぶんなんだもんよ

そんなこと言ったって

じゃあどうすりゃいいのさ

やめりゃあいいのかい

でも

そんなこと言ったって

心がかってに

そうなっちまうんだもんよ


そんなこと言ったって


わたしは旅に出ていた。

ギター一本を背負い、他にはなにも持たずに。

自分がどこまでやれるのか。自分という存在はなんなのか。それを知るためにギター一本弾き語りの旅をはじめたのだ。

本当にギターしか持って来なかった。

財布も持たず、食料も持たず、ラジオも持たず、テレビも持たず、おらこんな村嫌だ。

そう歌いながらやってきた。

おかげさまで2日でぶっ倒れた。当たり前だ。ギターケースに金を入れてくれる客もほとんどありませんでしたから、本当、貧乏な国になっちまったなぁと心からこの国を憐れんで、私は救急車で病院に運ばれていきました。

そうして運ばれていった先の病院で、私は運命の女性に出逢った。

彼女は私が寝ていたベッドの横、点滴をうけながら窓のそとを眺めていた。

雪が静かにふる窓のそとを、静かに、まるでその雪の一部になってしまいそうな程に、綺麗な横顔で。

「何を見てるんですか?」私は小さくたずねた。

「雪・・です・・」

そうだろうとは思っていたよ。

「そうですか・・真っ白で、儚くて、綺麗な雪ですね」

「はい・・」彼女は呟いた。

そこで会話が途切れたように思い、私は黙りこんだ。はっきり言ってファッ○ユーだと思った。

いくら私に興味がなくても、少しくらい会話を続けたらどうだ?かわいいからって調子にのるなよ!

「あの・・」すると驚いたことに、彼女が話を続けてきた。

やっぱりアイラブユーだと思い直した。

「私・・もうすぐあの雪のように、積もることなく、冷たく静かに死んでしまうんです」

「なんだって!」私は驚いてベッドの上に立ち上がり、叫んでいた。

そしたら看護師さんがやってきて、注意された。

本当、すみませんでした。

そして彼女、話を続けた。

「私・・あなたに勝手に運命を感じてしまったんです。どうか死ぬ前に、私を故郷に連れていってくれませんか?」

「いいですよ」


そうしていま、この島国の最北端に来ています。

真夜中に彼女と二人。

この季節、海の近いこのまちはとても寒いです。

こっそり二人で病院を抜け出して、まぁそのまえにこっそり病院のロッカー室にしのびこんで誰かの財布をこっそり盗み、私たちふたりは電車に乗りました。

そしてたどり着いたこのまちは、夜のせいか人のいる様子がなく、「まるでゴーストタウンだね」と冗談を言ったつもりが、本当に「ゴーストのまち」になってしまっていたのだと知ったのは、ほんの数秒後の話でした。

私たちふたりはいま、キョンシーにおいかけられています。

腕を前につきだして、ぴょんぴょん追いかけてきています。

その数、たくさん。

私たちふたりは、まるでたくさんの人を引き連れて走るフォレストガンプのようです。

「うぉぉぉぉあ!」と全力で走る私たちの前から、先ほどスイカを頭に被った人間が、キョンシーたちに突っ込んでいきました。

よくわからないけど、いろんな人がいるんだなぁと感心したりしました。

もっと走っていくと、お札を持った爺が立っていて「わしに任せろ」とキョンシーに立ち向かっていきました。

何をするつもりかな?と私たちふたりは後ろ向きに走ることをはじめ、その様子を見ていると、爺がキョンシーの額に『札』を貼っているではありませんか。

もちろん、爺は咬まれて息絶えていきました。

「凄いねぇあの爺ぃ」と私が彼女に言うと、「本当、凄いねっ」と笑顔でかえしてくれたので、私は幸せで、本当に幸せで、『自分もあの爺ぃみたいに、お札をキョンシーの額に貼りに行ったら、彼女はもっと笑ってくれるかな?』と考えたりもしました。

でも当たり前ですが、そんなことはしませんでした。

そうして私たちふたりは、ものかげに隠れる事に成功しました。

駐車場に停めてあった、誰のか知らない車の下です。

私たちは寝そべって、手を繋ぎながら話をはじめました。

「どうしてこのまちにキョンシーがいるんだ!?」

「そんなの、どうだっていいじゃない」彼女がそう微笑んだので、私は「そうだね」と微笑んだ。

「ねぇ」と彼女。「ギター、聞かせてほしい」

「えっ!?」私は彼女を見つめた。私はギターを持って来ていた。ギターは二人の足元に寝そべっている。

「でも・・音でキョンシーが寄ってくるよ・・」私がそういうと、彼女が言った。

「そんなの、どうだっていいじゃない」

「そうだねっ」私は彼女の瞳を見つめたまま、その愛くるしさに微笑んだ。

と、突然、私たちが下に隠れていた車に乗り込んだ人物。急発車していく。

露になる二人。私はギターを弾く覚悟が決まった。

因みに車はキョンシーに突っ込んでいったが、突然故障して止まり、降りた男性は「チックショー」という叫び声と共に、キョンシーにやられてしまいました。

私はギターを持ち、彼女の為に歌を歌った。

「アイラブユー♪いまはマジで悲しい歌を歌いたくないよ♪アイラブユー♪だってマジで俺たち悲しい結末を迎えようとしてるよね♪アイラブユー♪多分もうすぐ死ぬよ、二人♪」

オリジナルの即興ソング。ドキドキしたが、彼女は満面の笑みで手を叩き「凄いねっ、とってもいい歌」と言って涙まで流してくれました。

生きたい。そう思った瞬間だった。

だけど、キョンシーに気づかれてしまいましたよ、当たり前だけど。

ふと、キョンシーの群れのなかに先ほどの『お札爺ぃ』がいるのがわかった。

スイカの人はいなかった。いや、いたのかもしれないけど、被っていたスイカは食べられてしまっていたのかな?まぁ、興味がありません。

「ねぇ」私は言った。

「噛まれたらキョンシーになっちゃうんだね。ってことは、映画とかで見たことあるけど、永遠に生きられるってことかな?」

彼女が黙ってこちらを見ている。

「もしそうなら、それも悪くないよね。俺たち、キョンシーになっちまうけど」

「そんな・・ダメよ・・ダメダメ」

ちゃっかり流行に乗っている彼女を見て、愛しさは止めどなく溢れてくる。

「ねぇ」と私。余命いくばくもない彼女の手を掴み、「行くよ」と笑った。

彼女も笑顔で頷いて、優しくキスをくれた。

「私が伸ばした腕が、辛くなったらどうする?」

「その手を支えてあげる」

「私がずっと立って跳び跳ねてることに疲れたら?」

「その時は、俺が跳び跳ねながら君にぶつかり、地面に倒してあげる」

「立ち上がれなくなって、じたばたしてたら?」

「その時は・・」私は向かってくるキョンシーの群れを見据え、しっかりとした声で言った。

「君の足を踏んで、必ず立ち上がらせてみせるよ」

「行こっ」彼女の声で走り出した。


永遠に向かって。


そんなこと言ったって

もうそうなっちまったんだもんよ

そんなこと言ったって

あんただって立派かい?

そうだろうね立派だろうね

なんだってかんだって

あんたのほうがすごいよ

でもさ

こっちのほうがいいって

言ってくれる人がいれば

思ってくれる人がいれば

心がかってに


動くよ

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