メシアはすぐそばに
「『メシア』?」
「『救世主』ってやつだよ。バカ」
くるくると丸められた薄いワークブックで頭を叩かれた。
「ふぅーん」
私は興味なさそうにいいながらシャーペンをくるくる回した。
「で?」
私は相も変わらずシャーペンをくるくる回しながらソイツに聞いた。
「その『救世主』サマがどうかしたの?」
「あ?」
意味がわからないのかソイツは私に聞き返した。
「だから、その『救世主』サマとやらがどうかしたのって!!」
ソイツは哀れんだ目を向けた。
「お前、今、何書いてんだよ……」
「は?」
私はソイツに聞き返した。
何言ってんだ?
コイツ。
頭ついにいかれたか?
「何言ってんの?」
私の質問にソイツは頭をゆがませた。
「文化祭の原稿に決まってんじゃん。アンタ馬鹿?」
一気に言い放った私にソイツはつぶやく。
「何かすっげぇムカつく」
ぶつぶつ言うソイツは無視してシャーペンを握りなおした。
あー……書けないし……。
「おっまえさぁ……。クラスで決めた劇のテーマ覚えてるか?」
あからさまにため息をついて言ってくるソイツにカッチーンときた。
「馬鹿にしてんの!? そんくらい覚えてるわよ。確かー……『ワタシだけのきゅーせーしゅ(ハート)』なんていうふざけたテーマ……」
「だから『メシア』なんだよ」
「むっ!?」
「アホか!」
変顔をして見せた私にソイツは容赦なく頭を叩く。
「私の毛細血管かーえーせぇ!!」
「はい、書く」
そう言ってシャーペンを押し付けた。
「だいたいさぁー」
シャーペンを動かしながら私は疑問に思っていたことを口にする。
「『ワタシだけのきゅーせーしゅ(ハート)』ってテーマさー」
「言うな。そんなの俺も思ってる」
私の言葉は遮られ、ソイツはあからさまに気落ちしながら言った。
とりあえず、これだけは言っておこう。
テーマ決めたやつ!!
ふざけんなぁ!!
「だいたいきゅーせーしゅって助けなきゃいけないじゃん」
ブツブツ言う私に便乗してソイツも口を開く。
「どうせ、きゅーせーしゅって強くて、かっこよくてとか期待してんだろ。んなやつ、いねぇよ」
「まったくだ」
「どうせ劇やんならさ、ヘタレなメきゅーせーしゅとかさぁー」
その言葉にソイツはひらめいたように顔を上げた。
「それだ!」
「はぁ!?」
「だぁかぁら!!」
唾がとびそうな程勢いよくいうソイツに顔をしかめた。
「へたれな救世主主人公で」
「……なるほど。どこいでもいる主人公だね」
「そう、気付けば隣に!!」
「……それストーカー?」
「メシアだ!!」
ソイツの熱弁とともになんとかできた台本。
恥ずかしいから言わないけど。
ソイツこそ私のメシアだと思う。
メシアはすぐそばに、あながち間違いじゃない。
2011/06/23
に書いたと思われる作品です。
友達とけらけら笑いながら書いた作品の一つだと思います。
私のいた学校では六月は文化祭だったので、それもこの作品の生まれた一つの理由かと思います。
よろしければ感想とかいただけたら幸いです。
芽実
次ページにはこの物語であたしとソイツが頑張って書いたお話、という設定でのお話を連載予定です