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視点が変わります。
更新遅くて申し訳ないです。
そのうえ2,3話で終わりそうにありません。
もうしばらくお付き合いください。
「おはよう」
やっと目を覚ました彼女に声を掛けた。
返事もなくぎょっとした様子の彼女は、最初今の状況が分かってないようだった。俺の裸の肩に目を留めてから二度見するように自分を見て、さらにぎょっとした。手を伸ばそうとすると、狭いベッドから落っこちそうなほど後ろに下がった。上掛けが引っ張られて俺の上半身が露わになり、慌てて戻って俺に布団を掛けようとして、手が触れてまたびくっと手を引っ込める。
その慌てふためく様子がおかしくて笑ってしまった。
「そんなに慌てなくていいよ」
身動きするとまずいと思ったのか、今度は固まったように動かなくなった。
「昨日のこと覚えてる?」
さっき起きたばっかりの時には、酔って記憶を失っていたかったと思ったことなどそれこそ忘れてしまったかのように、すっかり方向転換してしまっていた俺だった。
彼女も覚えてるだろうと思い込んで、ただ話し出すきっかけにそう尋ねたのだが……。
「……」
あら? 無言。
待て待て、同意の上でのことだったと思ったけど、まさかいやだったのか? 無理矢理なんかじゃなかったよな?
ちょっと焦って昨夜のことを思い返す。
抱き寄せたとき抵抗もされなかったし、俺のキスにもぎこちなく応えて、俺の背中に緩く手を回してきたはずだ。
となると本当になんにも覚えてないのか? そう考えてまた別の意味で焦った。あの時の微妙な雰囲気の流れというか、成り行きを口で説明しろと言われてもなんと言えばいいのか。本格的に焦りだしたとき。
「……××××××……」
「えっ? 何?」
彼女が何か呟いたけど、よく聞こえなくて聞き返した。
「……覚えてます」
さっきより少しだけ大きな声が聞こえた。
ひとまずしどろもどろに説明する事態は避けられたようでほっとした。
「ごめんな。初めてだったんだよな。初体験が酔ってる時なんてムードなくて悪かった」
「……いえ……」
「次はもうちょっとちゃんとしよう」
「え?」
「ちゃんとデートとかして、おしゃれなとこで食事して、自然の流れでムードが盛り上がってなだれ込む……、みたいな?」
照れくさくて、ちょっとおどけたふうにそう言った。
「え? デートって、え?」
「俺達付き合わないか?」
たっぷり一分ぐらい黙ったままだった彼女は、それまでの慌てぶりとは対照的なほど落ち着いた様子で、うっすらと微笑んでこう言った。
「大丈夫ですよ」
付き合おうと言って、大丈夫ですよと言うのは一体どういった返事なんだ?
いいのかダメなのか悩んでいるとさらに彼女は言った。
「気なんて遣わなくていいですから」
ちょっと向こう向いててもらえますかと言われ、思わずその通りにすると、彼女がベッドから抜け出す気配がして、ごそごそと音がした後バタンとドアが閉まった。風呂場に直行したようだ。
肩越しに振り返ってドアを見つめ、そのままパタッと背中からベッドに沈み込んだ。
断られたのか? 俺が?
自信過剰で嫌みな言い方に聞こえるかも知れないが、俺はそこそこ女の子にもてる。中学時代からよく告白めいたことはされたが、こっちから断ったことはあっても、断られたことはこれまで一度も無かった。
いや待て、彼女は遠慮してるだけだ。
気を遣う? ……確かにそうかも知れないけど、付き合う気はちゃんとあるぞ。その辺をもっと強調するべきだったか?
とにかく切り出し方を間違えたと、ハーフパンツを身につけて風呂場に向かった。
ドアを開けたら服を着ている最中の彼女がきゃっと声を上げた。シャワーを浴びているのかと思ったら、物慣れない彼女には俺に無断でそんなことは出来なかったようだ。
「あ、ゴメン。シャワー使ってもよかったのに」
またもや慌てふためく彼女。ついからかいたくなった。
「それともこれから一緒に入る?」
「と、とんでもありません」
そう言いながら慌ててTシャツをひっかぶった。
なんだかそんな様子がこれまで付き合った相手と違って、いちいち新鮮で面白い。
「ねぇ、さっきの話、本気だよ。俺と付き合いなよ」
こう言えば、すぐ承諾の返事が返ってくると思っていたのだ。
「だから、いいですってば、気にしないで」
ちょっとむっとした。
「俺のどこが気に入らないんだよ?」
「気に入らないわけじゃないですよ」
「じゃあ、何でだよ」
ムキになって聞いた。
「だって、タイプじゃないでしょ」
「タイプじゃないって何が」
「いつも一緒にいる人ってみんなスラッと背の高い美人さんばっかりじゃないですか。わたしなんて……」
「大木も可愛いじゃないか」
「いいですよ無理しなくて……」
今度こそむっとした。
「俺が可愛いって言ってるの! 無理なんてしてないし、わたしなんてとか言うな」
なんかかちんと来てそう言った。不満げな顔をしている大木をみて思いついた。
「俺が変身させてやる。そしたら文句言わないで俺と付き合えよ」
訳が分からないと言った顔をしている彼女に、このあと一緒に出掛けるから使いたかったらシャワーを使うようにと言い残して、一旦部屋に戻った。
携帯を探して姉の勤める美容院に電話を入れた。
まだ開店前の時間で、すぐ本人に代わってもらえた。
『もしもし、どうしたの? こんな朝から』
「今日予約入れられる? なるべく早い時間がいいな」
『あんたわたしがカットするのやなんでしょ』
「俺じゃないよ。彼女」
まだ承諾はもらってないけど。
『……珍しいこともあるのね。紹介してくれるの』
笑いを含んだ声で少々からかわれたあと、予約時間を決めた。
電話をしている間にシャワーの音が聞こえてきた。近所のコンビニまで、朝食と彼女の下着を調達しに行くことにした。自分はあとでいいやと簡単に着替えて財布を片手に家を飛び出した。