第40話 最終決戦、帝都へ
ポート・ロイヤルでの勝利から数日後。
アステリア王国の王城会議室には、重苦しい空気が漂っていた。
陸海空の防衛には成功したものの、国力の差は歴然としている。長期戦になれば、資源の乏しいアステリアが先に干上がるのは明白だった。
「……打つ手なしか。講和を申し入れるしかあるまい」
軍務大臣が弱音を吐く。
「いいえ、まだ手はあります」
私は地図の上に、一本の赤いラインを引いた。
アステリア国境から、帝都ガレリアへ至る最短ルートの直線だ。
「講和など生ぬるい。……こちらから攻め込み、ヴァレリウス皇子を直接叩きます」
会議室がどよめいた。
「正気か!? 帝都へ行くには、大陸の背骨と呼ばれる『グラン・アルプス山脈』を越えねばならん! 標高四〇〇〇メートルの雪山だぞ! 軍隊が越えるには数ヶ月かかる!」
「越えませんよ。……潜るんです」
私は不敵に笑った。
「山が高いなら、穴を開ければいい。……帝都の地下まで直通の『地下鉄』を通します」
◇
翌日。国境の山岳地帯。
そこには、私の構想を具現化した、アステリア技術の結晶が鎮座していた。
全長一〇〇メートル。直径二〇メートル。
先端には、ダイヤモンドとヒヒイロカネの複合合金で作られた、無数の回転刃を持つ巨大な円盤が輝いている。
超巨大自走式シールドマシン――『ギガ・ドリル』。
本来は大陸横断トンネル計画のために設計していたものだが、今は帝都攻略のための「攻城兵器」だ。
「へへっ、待ちくたびれたぜ旦那! こいつの試運転をしたくてウズウズしてたんだ!」
操縦席のカイトが、子供のように目を輝かせている。
「アルス様、後続の装甲列車部隊、準備完了ですわ! 資材も弾薬も満載です!」
リリーナが敬礼する。彼女の後ろには、精鋭部隊を乗せた列車がずらりと並んでいる。
サクヤ、カグラ、そしてシルヴィアたちも乗車済みだ。
「よし。……これより『帝都急行』を発車する! 終点はガレリア帝都、皇宮の地下だ!」
私は『ギガ・ドリル』の起動スイッチを押した。
「土木魔法・全開! 回転数最大! ……穿てェェェッ!!」
ズゴゴゴゴゴゴゴッ!!!
大地が悲鳴を上げた。
巨大なドリルが高速回転し、硬い岩盤を豆腐のように削り取っていく。
同時に、私の魔法が発動する。
削り取った土砂を瞬時に圧縮・硬化させ、トンネルの壁面を形成。さらに、マシンの後部からは自動的に枕木とレールが敷設されていく。
掘削、壁面造成、軌道敷設。
これらを同時進行で行う、驚異の超高速工法。
時速三〇キロ。
通常なら数年かかるトンネル工事を、私たちは猛スピードで突き進んでいった。
◇
一方、帝都ガレリア。
皇宮の玉座の間で、ヴァレリウス皇子は報告を聞いていた。
「……国境の山脈で、大規模な地震を観測? 雪崩か?」
「いえ、震源が移動しています! 地下深部を、一直線にこちらへ向かって……!」
ヴァレリウスは眉をひそめた。
彼の完璧な計算の中に、「地下からの侵攻」という変数はなかった。山脈は天然の要塞であり、攻略不可能と判断していたからだ。
「まさか……。山を貫いているというのか? たった数日で?」
ドウン……ドウン……。
微かな地響きが、皇宮の床を揺らし始めた。
それは徐々に大きくなり、やがて足元から突き上げるような轟音へと変わった。
「殿下! 皇宮前広場の地下に、巨大な熱源反応! 直下です!」
ヴァレリウスが立ち上がった、その瞬間。
ズドォォォォォォォォォン!!!
皇宮の窓ガラスが割れ、外の広場のアスファルトが噴火したように吹き飛んだ。
土煙の中から飛び出したのは、回転する銀色の怪物――『ギガ・ドリル』。
そして、その直後に続く、アステリアの旗を掲げた装甲列車だった。
「ごきげんよう、ヴァレリウス殿下! 約束通り、会いに来たぞ!」
先頭車両のデッキから、拡声器を使った私の声が帝都に響き渡る。
呆然とする帝国兵たちの目の前で、列車のハッチが開き、サクヤ率いる瑞穂の侍たちや、アステリアの精鋭部隊が雪崩れ込んだ。
「な、なんだこれは!? どこから湧いて出た!」
「地下だ! 地下から列車が来たぞ!」
難攻不落を誇った帝都の絶対防衛圏は、内側から食い破られた。
混乱する帝国軍を尻目に、私たちは皇宮へと殺到する。
◇
皇宮の深部、『星の間』。
ヴァレリウスは、モニターに映る惨状を見てもなお、冷静さを保っていた。
いや、その瞳には狂気にも似た冷たい光が宿っていた。
「……見事だ、ヴェルダン公爵。物理の壁すら超えてくるとはな」
彼は玉座の後ろにある、古びた制御盤に手を置いた。
「だが、ここへ来たことが貴殿の敗因だ。……この帝都の地下には、建国以前から眠る『守護神』がいることを知らなかったようだな」
彼がキーを回すと、帝都全土が激しく明滅した。
地下から汲み上げられた膨大な魔力が、皇宮の地下深くに一点集中していく。
「目覚めよ。……古代対惑星殲滅兵器『ティターン』」
ズズズズズズズ……!!
私たちが制圧した広場のさらに下、地底深くから、山脈をも超えるような巨大な影がせり上がってきた。
それは、石と金属でできた人型の巨神。
全長五〇〇メートル。
かつて神話の時代、星を砕くために作られたという最終兵器だ。
「な……なんだあれは……!?」
シルヴィアが絶句し、見上げる。
巨神の一歩で、帝都の区画一つが踏み潰される。
その圧倒的な質量の前では、私の装甲列車など玩具のようだった。
「交渉の時間だ、公爵」
巨神の肩に設置されたバルコニーから、ヴァレリウスの声が降ってくる。
「この『ティターン』は、魔導核を一撃で消滅させる火力を持つ。……降伏せよ。さもなくば、アステリアはおろか、この大陸ごと消し飛ばす」
究極の破壊兵器を前に、私は笑った。
「……大陸を消し飛ばす? そんなことをすれば、インフラも経済も崩壊するぞ。効率厨の君らしくないな」
「支配には恐怖が必要だ。……さあ、選べ。服従か、死か」
私は『ギガ・ドリル』の操縦席に飛び乗った。
「悪いが、どちらも選ばない。……私が選ぶのは『工事続行』だ!」
「なに?」
「デカい図体だが、所詮は石と鉄の塊だろう? ……なら、それは『建築物』だ。私の管轄内だよ!」
私はカイト、シルヴィア、リリーナに合図を送った。
相手は神ごとき力を持つ巨神。
だが、私にはそれを解体する技術と、世界最高の仲間たちがいる。
最終決戦。
土木屋 vs 破壊神。
星の運命をかけた、最後の大工事が始まる。




