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辺境領主の魔導変革記 ~魔力結晶と魔導列車で、世界の経済と物流を支配する~  作者: Nami


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第23話 桜舞う国と若き女帝



 瑞穂皇国の玄関口、ヤマト港。

 そこは今、数百年の鎖国を破る「黒船」の到来に、蜂の巣をつついたような大騒ぎとなっていた。


「見ろ! 鉄の城が海に浮いておる!」

「なんと禍々しい……異国の妖術か!?」


 港に集まった町人や、警護のために走る侍たちが、呆然と『オオワダツミ』を見上げている。

 木造の和船が並ぶ港において、全長一〇〇メートルの鋼鉄戦艦は、あまりに異質で、圧倒的だった。


「……驚かせてしまったようだな」


 タラップを降り、瑞穂の大地に第一歩を記した私は、周囲の視線を感じて苦笑した。

 港町は、前世の記憶にある江戸時代の日本と、ファンタジーが融合した独特の景観をしていた。

 瓦屋根の木造建築が並び、軒先には魔力で灯る提灯が揺れ、空には荷物を運ぶ紙の式神が飛び交っている。

 美しい。だが、私の目はその美しさの裏にある「限界」を見逃さなかった。


「建物が古い。修繕が行き届いていないな。それに、人々の顔色が悪い」

「……はい。海路を断たれて半年。備蓄食料も底をつきかけ、魔導具の燃料となる『霊力』も不足しています」


 案内役のカグラが、悔しげに唇を噛んだ。

 彼女の先導で、私たちは皇城のある都へと向かった。


 道中、目に入ったのは荒廃した田畑と、祈るように神社へ通う人々の姿だった。

 物理的なインフラ(物流)が止まれば、国はここまで脆く崩れる。

 改めて、鉄道や船という「血管」の重要性を痛感させられた。


          ◇


 港から馬車(瑞穂では牛車だったが、我々の持ち込んだ魔導車両を使った)で数時間。

 目の前に、荘厳な城郭が姿を現した。

 皇城『白鷺城しらさぎじょう』。

 白漆喰の城壁が幾重にも重なり、天守閣は雲を突くようにそびえ立っている。その周囲には、国を守る巨大な結界の要石である『御神木ごしんぼく』の桜が植えられているが……。


「……枯れかけている?」

 シルヴィアが呟いた。

 そう、満開であるはずの季節なのに、桜の花はまばらで、枝は生気を失っていた。


「行きましょう。みかどがお待ちです」


 カグラに導かれ、私たちは城の奥深く、『大広間』へと通された。

 畳敷きの広大な空間。

 その最奥、御簾みすの向こうに、一人の人物が座していた。

 左右には、鋭い眼光を放つ侍や陰陽師たちが控えている。彼らは異人である私たちを警戒し、いつでも斬りかかれるよう刀に手を掛けていた。


「面を上げよ」


 鈴を転がすような、しかし凛とした声が響いた。

 御簾がゆっくりと上げられる。

 そこにいたのは、息を呑むほど美しい少女だった。


 年齢は十六、七歳ほど。

 黒髪を長く伸ばし、十二単じゅうにひとえを思わせる豪奢な着物をまとっている。

 だが、その瞳――黄金色トパーズの双眸には、少女らしかぬ強い意志と、国を背負う者特有の重圧プレッシャーが宿っていた。

 瑞穂皇国、第九九代皇帝、**サクヤ・ミズホ**。


「遠路はるばる、よくぞ参った。アステリア王国の公爵、アルス・フォン・ヴェルダンよ」


 サクヤは扇子を開き、口元を隠しながら私を見据えた。


「カグラより聞いておる。そなたの作った『鉄の船』が、我が国の海を塞ぐ海竜を打ち払ったとな」

「はい。通商路の確保は、私の仕事ですので」

「……礼を言う。民に代わり、心より感謝する」


 彼女は深く頭を下げた。周囲の家臣たちが「帝が異人に頭を下げるとは!」とどよめくが、彼女は意に介さない。

 だが、顔を上げた彼女の瞳は、鋭さを増していた。


「しかし、アルス公爵よ。我が国は『武』と『和』の国。ただ助けられるだけでは、国の誇りが廃る。……そなたの目的は、我が国の『ヒヒイロカネ』であると聞いたが?」

「その通りです。対価として、我が国の食料と魔導技術を提供します。対等な貿易条約を結びたい」


 私は持参した条約の草案を差し出した。

 サクヤはそれに目を通したが、ふっと溜息をついた。


「条件は悪くない。だが……我らは異国の『魔導』というものを知らぬ。得体の知れぬ技術に頼り、古き良き伝統を捨てることにならぬか、家臣たちは恐れておるのだ」


 彼女の視線の先には、頑固そうな老侍がいた。

 筆頭家老兼剣聖、**ゲンサイ**。彼は露骨に私を睨みつけている。


「帝! このような軟弱な男の言葉、信じてはなりませぬ! 鉄の船など、所詮はからくり細工! 我が国の魂である刀と結界があれば、国は護れます!」


 典型的な攘夷派(排斥派)だ。

 サクヤは困ったように眉を寄せ、私に向き直った。


「アルスよ。そなたに『力』と『心』があるか、試させてもらいたい」

「試練、ですか」

「うむ。……これを見よ」


 サクヤが立ち上がり、広間の縁側へと私を招いた。

 そこからは、城の中庭にある巨大な『御神木』が見えた。

 樹齢千年を超えるという大桜。

 だが、近くで見るとその惨状は明らかだった。幹はひび割れ、葉は茶色く変色し、今にも枯死しそうだ。


「この桜は『千本桜』。瑞穂全土を覆う結界の源じゃ。だが、数年前から急激に衰え始め、陰陽師たちがどれほど霊力を注いでも回復せぬ」

「結界が弱まったせいで、海竜の侵入を許したということですか」

「左様。……アルスよ。そなたの『技術』とやらで、この桜を救えるか? もし救ってみせれば、そなたの力を認め、国交を開こうではないか」


 ゲンサイが鼻で笑った。

 

「はっ! 無理に決まっておる! 我ら最高の陰陽師がお手上げなのだ。異国の無粋な機械いじりに何ができる!」


 私はゲンサイを無視し、静かに御神木の根元へと歩み寄った。

 シルヴィアとカイトもついてくる。

 

「どう思います、シルヴィア様」

「……魔力の枯渇ですわ。でも、おかしいですね。大気中の魔素は十分にあるのに、木がそれを吸い上げられていません」

「根腐れか? いや、土の匂いは悪くねぇぞ」

 カイトが土を手に取って匂いを嗅ぐ。


 私は御神木に手を当て、固有魔法『構造スキャン』を発動した。

 視界にグリッド線が走る。

 樹木の内部、根の張り方、そして地下の水脈と魔力脈レイライン

 全てが透けて見える。


「……なるほど。原因が分かった」


 数秒で診断を終えた私は、サクヤとゲンサイの方へ振り返った。


「これは呪いでも寿命でもありません。……『配管詰まり』です」

「は? はいかん……?」

「この城の地下には、霊力を運ぶ水脈が流れていますが、数年前の地震で地盤がズレ、水脈が圧迫されています。人間で言えば、血管が詰まって壊死しかけている状態だ」


 私は地面を指差した。


「いくら上から肥料や魔力を注いでも意味がない。……外科手術が必要です。地下の岩盤を砕き、新しいバイパス(水路)を通して、循環を回復させる」


 私の言葉に、ゲンサイが激昂した。


「ば、馬鹿者! 御神木の根元を掘り返すなど、それこそ罰当たりだ! 祟りが起きるぞ!」

「祟りで国が滅ぶのと、手術して助かるのと、どちらがいい?」


 私は強い口調で言い返した。

 そして、サクヤを真っ直ぐに見つめた。


「陛下。私に任せてください。……祟りなど起きさせない。私の『土木魔法』で、傷一つ付けずに治療してみせます」


 サクヤは私の瞳を覗き込んだ。

 数秒の沈黙。その黄金の瞳が、私の魂を値踏みする。

 やがて、彼女は決然と頷いた。


「……よかろう。賭けてみようぞ、異国の公爵よ。失敗すれば、その首を刎ねるが……よいな?」

「望むところです。……カイト、シルヴィア様、準備だ! 『御神木再生プロジェクト』を開始する!」


 こうして、剣術でも魔術戦でもない、前代未聞の「霊的土木工事」が幕を開けた。

 瑞穂の命運をかけた、私の技術の見せ所だ。



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