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辺境領主の魔導変革記 ~魔力結晶と魔導列車で、世界の経済と物流を支配する~  作者: Nami


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第20話 戦後処理と東の国からの招待状



 装甲列車『アイギス』が王都アステリアに凱旋した日、街は建国以来の熱狂に包まれていた。

 無数の市民が沿道を埋め尽くし、傷だらけで黒煙を吐く鉄の巨獣に向かって、花びらと歓声を浴びせている。


「アルス様! 英雄アルス様万歳!」

「ヴェルダン鉄道万歳!」


 それは、新しい時代の到来を告げるシュプレヒコールだった。

 かつて「煤まみれの鉄屑」と嘲笑された魔導列車は、今や国を救った「守護神」として崇められていた。


「……やりすぎだ。私はただ、インフラを整備しに行っただけなんだが」


 王城のバルコニーで、私は眼下の熱狂を見下ろして苦笑した。

 隣に立つシルヴィア王女が、輝くような笑顔で私の腕に手を添える。


「謙遜は嫌味になりますわよ、アルス様。貴方は、誰も成し得なかった『電撃的な援軍』を実現し、帝国の野望を挫いたのですから」

「姫様の言う通りだぜ、旦那。……見てみろよ、あいつらの顔。みんな、あんたが作った未来を信じてる顔だ」


 後ろで、正装(といっても技師の制服だが)に着替えたカイトが、誇らしげに鼻をこすった。

 リリーナも、手元のスケジュール帳を確認しながら、隠しきれない笑みを浮かべている。


「……ええ。そして、これだけの支持を得た今、もはや貴族院の古狸たちも文句は言えません。予算も、法案も、全てアルス様の思い通りです」


 彼女の言う通りだ。

 この勝利は、単なる軍事的な勝利ではない。

 私の提唱する「魔導産業革命」が、政治的に完全勝利した瞬間だった。


          ◇


 数時間後。王城「獅子の間」。

 論功行賞の儀が厳かに行われた。

 玉座に座る国王陛下は、跪く私を見下ろし、朗々たる声で告げた。


「アルス・フォン・ヴェルダンよ。その功績、誠に大義であった。……よって、余はここに宣言する。ヴェルダン辺境伯家を『公爵家』へと昇格させ、王国の守護者たる地位を与えるものとする!」


 会場がどよめいた。

 辺境伯からの飛び級昇進。公爵といえば、王族に次ぐ最高位の貴族だ。


「さらに、東部国境に至る全鉄道の永代管理権と、王都近郊の工業地帯の領有を認める。……受け取ってくれるな?」

「……身に余る光栄。謹んでお受けいたします」


 私が頭を下げると、国王はニヤリと悪戯っぽく笑い、声を潜めた。


「うむ。……して、褒美はそれだけではないぞ。なぁ、シルヴィア?」


 国王の合図と共に、私の隣に控えていたシルヴィア王女が一歩進み出た。

 彼女は頬を赤く染めながらも、決意に満ちた瞳で会場を見渡し、高らかに宣言した。


「わたくし、シルヴィア・ド・アステリアは……今回の戦いを通じ、アルス公爵令息こそが、生涯を共にするに相応しい殿方であると確信いたしました!」


 会場のどよめきが、悲鳴に近い歓声へと変わる。


「お父様! わたくしは、アルス様以外の殿方には嫁ぎません! 彼と共に、魔導技術でこの国を導く『王配』として、彼を迎える許可をいただきたく存じます!」


 事実上の逆プロポーズだ。しかも、国王公認の。

 私は驚いてシルヴィアを見たが、彼女は「逃がしませんわよ?」と言わんばかりに、私の手をギュッと握りしめた。


「……お待ちください」


 その時、私の背後から冷ややかな、しかし熱を帯びた声が響いた。

 リリーナだ。

 彼女は一歩も引かず、王女と国王に向かって恭しく一礼した。


「殿下の想いは素晴らしいものです。ですが……アルス様の事業は巨大です。公爵家の切り盛り、鉄道網の管理、そして膨大な資金運用。……これらを支えられる『実務能力』を持つパートナーもまた、正妻・・として必要不可欠かと存じます」


 リリーナの眼鏡がキラリと光る。

 彼女は遠回しに、「お飾りの王女様だけでなく、財布の紐を握る私も嫁に入ります」と宣言したのだ。


「ああん? ずるいぞ二人とも! 旦那の機械マシンを一番理解してるのは俺だぞ! 俺だって……!」


 カイトまで参戦し、玉座の間は一気に修羅場――いや、華やかな恋の戦場と化した。

 国王は「わっはっは! 英雄は色好むと言うが、娘も苦労しそうだな!」と豪快に笑っている。

 私は天を仰いだ。

 線路を敷くよりも、こちらの調整の方が難工事になりそうだ。


          ◇


 その夜、祝賀会の喧騒を抜け出し、私はバルコニーで夜風に当たっていた。

 公爵への昇格。王女との婚約話。

 全てが順調すぎるほど順調だ。


 だが、世界は広い。

 エルヴィラからの報告によれば、敗北したガレリア帝国では、武闘派で知られる**第二皇女ヒルデガルド**が、私の「装甲列車」に異常な執着を見せているという。

 「あの男を私の軍門に下らせる」と公言しているそうだ。厄介な敵が増えた。


「……失礼いたします。アルス・フォン・ヴェルダン公爵閣下とお見受けします」


 ふと、背後から鈴を転がすような声が聞こえた。

 振り返ると、そこには見慣れない衣装をまとった女性が立っていた。

 黒髪を高く結い上げ、絹の着物のような衣服に、腰には一振りの刀を差している。

 東洋的な美貌を持つ、凛とした女性だ。


「貴女は?」

「お初にお目にかかります。はるか東の海に浮かぶ島国、『瑞穂みずほ皇国』より参りました外交特使、**カグラ**と申します」


 瑞穂皇国。

 文献でしか見たことのない、独自の魔法体系と武術を持つ神秘の国だ。


「遠い異国の特使殿が、私に何の用でしょう?」

「単刀直入に申し上げます。……どうか、我が国をお救いください」


 カグラは、その場に深く平伏した。

 武人としての誇りをかなぐり捨てた、必死の懇願だった。


「我が国は今、滅亡の危機に瀕しております。……海より出ずる巨大魔獣『海竜リヴァイアサン』の群れにより、全ての航路を封鎖され、島々は孤立しました。物流は途絶え、民は飢えております」


 彼女は顔を上げ、涙を堪えた瞳で私を見つめた。


「噂を聞きました。貴方様は、道なき荒野に鉄の道を敷き、魔導の力で巨大な敵を打ち砕いたと。……どうか、その知恵と技術を、我が国のためにお貸しいただけないでしょうか!」


 海、か。

 私はバルコニーの手すりに手を置き、遠く東の空を見上げた。

 鉄道は大陸を繋ぐ血脈だ。

 だが、海を渡ることはできない。

 もし、鉄道と同じように、荒れ狂う海を制し、大量の物資を運ぶ「魔導船」を作ることができれば……。

 それは、真の意味で世界を一つにするインフラとなる。


「……面白い」


 私はカグラに向き直り、手を差し伸べた。


「顔を上げてください、カグラ殿。……困っている民がいるなら、そこへ道を繋ぐのが私の仕事です」

「で、では……!」

「行きましょう、海へ。……レールが敷けないなら、波を切り裂く『鉄の船』を作るまでです」


 私の言葉に、カグラの瞳に希望の光が宿った。

 

 陸の次は海。

 大陸横断鉄道の次は、大洋航路の開拓だ。

 新たな技術、新たな資材、そして和の国での新たな出会いが待っている。


 私の内政チート(インフラ革命)は、まだ始まったばかりだ。

 




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