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辺境領主の魔導変革記 ~魔力結晶と魔導列車で、世界の経済と物流を支配する~  作者: Nami


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第11話 王都への旅路と道中の襲撃


 ガタゴトと車輪が石畳を跳ねる音が、尻に響く。

 クッションの良い高級馬車を用意したとはいえ、サスペンションのない木の車輪の振動は、数時間も乗っているとボディブローのように体力を削ってくる。


「……酷い乗り心地だ。これなら貨物列車の方がまだ快適だよ」

「ふふ、贅沢な悩みですね、アルス様。ほんの数ヶ月前までは、これが貴族にとって最上の移動手段だったのですよ?」


 向かいの席で、リリーナがクスクスと笑った。

 彼女は揺れる車内でも平然と帳簿を開き、ペンを走らせている。慣れとは恐ろしいものだ。

 私たちは今、ヴェルダン領を出て、王都アステリアへと続く「北街道」を南下していた。


 御者台には巨漢のボルグ。

 そして馬車の前後には、エルヴィラが手配してくれた私兵団「ロッシの牙」から選抜された騎馬護衛が四名ついている。


「分かっているさ。だが、この振動も無駄にはしない」


 私は窓のカーテンを少し開け、流れる景色に目を凝らした。

 ただ景色を見ているのではない。私の網膜には今、魔力による拡張現実(AR)のようなグリッド線が表示されている。

 独自魔法『地形構造スキャン(トポ・スキャン)』だ。


「この街道、地盤が緩いな。地下五メートルに水脈がある。ここに線路を敷くなら、パイルを打ち込んで地盤改良が必要だ。……逆に、あそこの丘陵地帯は岩盤がしっかりしている。トンネルを掘るには最適だ」

「もう、頭の中は鉄道のことばかり。……でも、夢がありますね」


 リリーナが帳簿から顔を上げ、私の視線の先を追った。


「この道がすべて鉄のレールに変わり、ヴェルダンの物資が王都まで数時間で届く……。もし実現すれば、北部の経済規模は現在の十倍になります」

「ああ。そのためにも、今回の王都行きは失敗できない。線路を敷く許可と、その莫大な工事費を国から引き出す」


 私の言葉に、リリーナは力強く頷いた。


          ◇


 旅程の三日目。

 私たちは中継地点である宿場町「ロズウェル」を通過し、険しい山岳地帯へと差し掛かっていた。

 『泣き峠』と呼ばれる難所だ。切り立った崖に挟まれた一本道で、盗賊が出やすい場所として知られている。


「……若様」


 御者台のボルグから、低く緊張した声が掛かった。

 私は即座に地図を閉じ、懐の魔石に手を触れた。


「どうした?」

「鳥が鳴いてねぇ。……それに、風の匂いが変わりやがった。油の臭いだ」


 ボルグの野生の勘は、私の探知魔法よりも鋭い時がある。

 次の瞬間。


 ヒュンッ!

 

 風切り音と共に、前を走っていた護衛の馬の足元に何かが突き刺さった。矢だ。

 馬がいななき、隊列が乱れる。


「敵襲ッ!! 上方、崖の上だ!!」


 護衛の一人が叫ぶと同時に、崖の上から巨大な岩塊が転がり落ちてきた。

 ゴゴゴゴゴッ!

 地響きを立てて迫る岩は、馬車を押しつぶすのに十分な質量を持っていた。


「チッ、古典的だが効果的だ!」


 私は馬車の扉を蹴り開け、外へと飛び出した。

 リリーナも私の手を借りて飛び降りる。


「ボルグ、馬車を捨てて岩陰に入れ! リリーナを守れ!」

「へいッ!」


 私たちが岩陰に滑り込んだ直後、落石が馬車の屋根を直撃し、轟音と共に木っ端微塵に粉砕した。

 砂煙が舞う中、崖の上から十数人の男たちがロープを使って降りてくる。

 身なりは薄汚いが、その動きは統率が取れている。ただの山賊ではない。


「……狙いは荷物じゃない。俺たちの命だ」


 男たちは無言で剣を抜き、散開して私たちを包囲し始めた。

 リーダー格と思われる男が、目だけで合図を送る。

 プロの傭兵、あるいは暗殺者だ。


「やれやれ。王都に着く前から『歓迎』とはね」


 私は前に進み出た。

 敵の一人が、私が丸腰の子供だと見て侮ったのか、ニヤリと笑って突っ込んでくる。


「死ねぇっ、ガキが!」


 剣が振り下ろされる。

 私は動かない。ただ、足元の地面に魔力を流し込んだ。


「土木魔法・第一種――『地盤流動クイック・サンド』」


 ズブッ。

 男の足元の地面が、一瞬にして泥沼のように液状化した。

 踏み込みの勢いが殺され、男はバランスを崩して前のめりになる。


「なっ!?」

「そして、第二種――『急速硬化セメント・セット』」


 私が指を鳴らすと、泥沼化した地面が瞬時にコンクリートのような硬度を取り戻した。

 男の両足は、膝まで地面と一体化して完全に固定された。


「う、動けねぇ!? なんだこれは!」

「建築用の基礎固め魔法だ。……一生そこで案山子かかしになっていろ」


 動揺する敵たち。

 だが、彼らもプロだ。一人が捕まったのを見て、「魔法使いだ! 距離を取って弓で射殺せ!」と叫び、散開する。

 矢の雨が降り注ぐ。

 ボルグがリリーナを庇って大盾を構えるが、多勢に無勢だ。


 私は懐から、小指の爪ほどの魔石を五つ取り出し、空中に放り投げた。


「火球でも雷撃でもない魔法を見るのは初めてか? ……よく見ておけ。これが『物理学』だ」


 空中の魔石が青く発光し、見えない力場を形成する。


「空間術式――『重力プレス(グラビティ・コンパクション)』」


 本来は、道路工事の際に砕石を締め固めるために開発した魔法。

 それを、局所的に、かつ最大出力で展開する。

 

 ズンッ!!!


 空気が悲鳴を上げた。

 私を中心とした半径二〇メートルの空間に、通常の十倍の重力(G)がのしかかった。

 放たれた矢は、まるで叩き落とされたかのように地面に突き刺さる。

 そして、襲いかかろうとしていた傭兵たちは、目に見えない巨大なプレス機に押し潰されたように、地面に這いつくばった。


「ぐ、があぁぁ……ッ! 重、い……ッ!」

「指一本……動かせ、ねぇ……ッ!」


 骨が軋む音が響く。

 彼らは地面に顔を押し付けられ、呼吸すらままならない。

 私は重力の影響を受けないよう術式を調整した空間を、悠然と歩いた。


「この術式は、魔石のエネルギーを質量変換して重力場を歪める。……抵抗しても無駄だ。君たちの上には今、見えない岩山が乗っているのと同じだからな」


 私は這いつくばるリーダー格の男の前にしゃがみ込み、彼の首元を掴んで少しだけ重力を緩めた。


「かはっ……! はぁ、はぁ……!」

「質問だ。誰に雇われた?」


 男は充血した目で私を睨みつけた。


「……言える、わけが……ねぇだろ……」

「そうか。なら、もう少し荷重を増やそう。次は肋骨が折れて肺に刺さるぞ」

「ま、待て……ッ!」


 男の視線が泳ぐ。

 私は彼の胸元に、奇妙な紋章が刻まれたペンダントがあるのを見逃さなかった。

 銀色の杖に、蛇が巻き付いた意匠。

 私はそれを引きちぎり、リリーナに見せた。


「リリーナ、これに見覚えは?」

「……ッ! それは、『王立魔導ギルド』の下部組織、異端審問部隊の紋章です!」


 魔導ギルド。

 王国の魔法技術を独占し、特権階級として君臨する組織。

 私の予想通りだ。彼らは、私の技術――魔石を使わずとも、大気中の魔素を結晶化させる技術や、魔力を持たない者でも使える魔導列車という存在を、「既得権益を脅かす異端」として認識したのだ。


「なるほど。山賊に見せかけて私を消し、技術を闇に葬るつもりだったか」


 私は立ち上がり、冷めた目で男たちを見下ろした。


「殺しはしない。……だが、雇い主にはこう伝えておけ。『喧嘩を売る相手を間違えた』とな」


 私は術式を解除した。

 重圧から解放された男たちは、戦意を完全に喪失し、恐怖に震えながら後ずさりした。

 彼らは理解したのだ。自分たちが相手にしたのは、ただの子供ではなく、魔法のことわりそのものを操る怪物だったと。


「失せろ」


 私の低い一喝に、彼らは這うようにして逃げ去っていった。

 ボルグが呆れたように息を吐き、大盾を下ろす。


「……へっ、まったく。若様を怒らせると、山賊より怖ぇや」

「無事でよかったよ、ボルグ。リリーナも、怪我はないか?」

「はい。……ですが、馬車が全損です。これでは野宿ですね」


 リリーナは壊れた馬車を見て溜息をついたが、その表情に恐怖はなかった。

 彼女もまた、この程度の障害は想定内だったようだ。


「王都に着く前から、敵の正体が分かったのは収穫だ。……魔導ギルドか。古い権威にしがみつく老害どもめ」


 私は手の中にある、奪い取った銀の紋章を握り潰した。

 ギルドが私を排除しようとするなら、逆もまた然り。

 王都での私の目的が一つ増えた。

 鉄道建設の許可を得ること。

 そして、この国の技術進歩を阻害する「魔導ギルド」を解体し、私の新しい魔導体系で上書きすることだ。


「行こう。ここから先は徒歩だ。……自分の足で歩くのも、たまには悪くない」


 私たちは夕闇が迫る山道を、再び歩き出した。

 王都アステリアまで、あと三日。

 そこには、華やかな宮廷と、ドス黒い陰謀が渦巻いている。

 私の血が、久しぶりに熱く滾るのを感じていた。



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