第6話
2人はぎこちない空気のまま歩いていたが、愛美が耐えられず美咲に話しかける。
「みさきちの親は?どんな人だったの……?」
美咲は、少し間を空けてから、返事をする。
「私の親はね……」
言いかけたその時、愛美はふと立ち止まり、一点を見つめる。
「……ちょっと待って」
「……どうしました?」
愛美は少し微笑んだ後、手を合わせて『ごめんね』のポーズをする。
「みさきちごめん!先帰ってて……!」
「?……分かりました」
疑問に思いながらも、美咲は歩いて一人で帰る。愛美の事が気になり、振り返りながらも、声をかける事も出来ず、結局一人で帰ることにした。
「やはり、友達が少なかったから、でしょうか。ああいう時、どう声をかけてあげるべきか、よく分からないですね。」
独り言を吐き出した美咲に、背後から男が話しかける。
「よお、なんかの帰りか?よく外なんかほっつき歩いてたな。金張が居たらアウトだったんじゃねぇか?」
隼人だった。少しメイクもして、硬い雰囲気が少し抜けた状態で現れ、美咲は困惑しつつも返答をする。
「刑事さんでしたか。金張は居ましたか?それと潜入は上手く行きましたか?……それに少々態度が変わったような……それが体験入店の弊害でしょうか」
「何が、『上手く行きましたか』だ……!お前らのせいでえらい目にあったぞ……それと、そんなに態度が変か……?ああいう接客を見てるとこれくらい何とも思わなくなってくるが。あと……収穫がゼロだった訳じゃないのも、大きいかもしれん」
隼人は美咲に、携帯の画面を見せる。
ー金張とのやり取りー
金張【先程はすいませんでした。助けて頂きありがとうございました。】
隼人【気にするな、何か思い詰めているんじゃないか?俺で良かったら何時でも話聞くぞ】
金張【少し重い話になりますが、伝えておきたいことがあります。直接話をしたいので、駅前の公園に2時頃と、遅い時間ですが来ていただけますか?】
隼人【了解した。今日か?】
金張【ありがとうございます。そうです、今日です。】
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「怪しすぎませんか?それに、単独で行くおつもりですか?」
美咲は顔を曇らせ、怪訝な様子で、隼人の顔を見上げる。
「今は少しでも情報が欲しい。しかし会った時は殺人犯とはとても思えなかったが……それに、この丁寧な物腰、逆に恐怖すら感じるな。ただ、罠であっても行こうと考えている。」
隼人は何かを隠すように、詳細は話さず、頭を搔く。
美咲は、その様子を見て、事情があるのだと悟り、切り出した。
「そうですね。罠かもしれませんね。なので、このスクショを保存し私に転送してください。これ連絡先です。」
美咲は、携帯の画面を見せ、連絡先を教えた。
隼人はそれに対し、少し驚いた表情を見せる
「あまり個人情報を共有するのは警察として如何なものか……という気持ちもあるが、いや、今はいいか。そうだな。俺になにかあれば、そのままこのスクショを、頼りないが……うちの署内の、小田という刑事に見せに行ってくれないか?」
「分かりました。」
そんなやり取りをして、イケメンと連絡先を交換する美咲であったが、この時はそんな事など考えてもいなかったが、次の隼人の言葉で、自覚してしまう。
「驚いたな。そっちから、そういうアクションを起こすとは、失礼を承知で言うが、コミュニケーションは不得意な方だろう?」
「今のは別に……!そういう訳では……あと、不得意で悪かったですね、仰る通りです」
美咲は、怒りと恥ずかしさの両方を必死で押し殺し、冷静を装った。そこで、隼人は、静けさに気づき辺りを見回した。
「……あのうるさいギャルはどこへ行ったんだ?」
美咲は、少し誤魔化す様に、返答した。
「さぁ……?」
少し間が空いた後、美咲が口を開く。
「あの……もし、もしですよ。あなたの友達が、不幸のドン底に落ちていたら、なんて声をかけますか?」
ぎこちなく話しかけてきた美咲に対し、隼人は瞬時に、何かあったのだと察した。
「?……まぁ、不幸の内容にもよるが……難しいな。というか、俺に聞くのは間違っているんじゃないか?得意に見えるか……?」
「そうですね、明らかに不器用そうですし」
「人に聞いといてその態度はねぇだろ……。あと、分かってるなら、最初から聞くなよ。まぁ、横に居てやるだけでいいんじゃないか……?で、あいつと友達になれたのか?」
隼人は、美咲に直球で聞いた。
「何の話です?」
らしくない質問をする、美咲の行動からして、隼人は、『見え透いている』言わんばかりに、少し煽り返答した。
「嘘下手か。そっちも不器用じゃないか。」
2人の間に妙な間が流れ、しばらくして
「で?どうして付いてきてるんです?」
「署内に今から戻ると、青木さんと半田さんの相手が面倒でな。時間を潰そうと。あと、公園はこっちの方面だからな。」
美咲は、嫌な予感がして、少し語気を強くして話す。
「どこまで付いてくるのかと、聞いてるんです。まさか……家まで入るのです?もし入るのであれば、玄関から1歩も動かないでください。」
「なぜ、そうなるんだ。俺が一言でもそんな事を言ったか……?ただ……今晩は冷えそうだな。」
「……それはつまり……待ち合わせまでの間家に入れろと……?」
狼狽えつつ、一人で突っ走る美咲に
「冗談だ」
隼人は顔も見ずに返答したのだった。
「っ……!」
「あのギャルがあんたを揶揄う気持ちが、少しわかる気がするな。」
「いい加減にしてください。あれでも手を焼いてるのに、それが2人なんて……」
そんな言い合いをしている中、美咲が振り返ると俯いて歩く愛美の姿が見えた。
「あ……まなみん……」
美咲は不意にそんな言葉を呟く。
「まなみん……ってアレがか?なんだ、そんなに仲良くなってるのか」
隼人が美咲に向かって問うが、美咲は隼人を無視して愛美の方を見つめている。
「そんなに心配だったのかよ……面倒くさいやつだな……」
頭を掻きながら、ため息をつく隼人をよそに、美咲は愛美を見つめたまま、口を開く。
「分からないんです。あの子の気持ちが、いや……『分かってあげられない』んですかね。それは境遇が違うから、でもあの子が悲しいなら、私も少し悲しくて」
「それが『友達』なんじゃないのか。死人のペースに合わせてくれる生者は居ない。死人が前向いてる時に、悲しんだり、死人が悲しんでても、もう前を向いてたり。どこかで生者は、自分に都合のいい形で、区切りを作ってしまうんだ。それは生きてく上で、仕方ない事なんだけどな。でも、『あんた』は今、違うだろ。あのギャルの横で、同じペースで居られるのは、今となっては唯一の友達である、『あんた』だけだ。」
「それが、体験入店で得た、接客トークのひとつですか」
「こんな話普通の人間にしな……」
隼人が返答してる最中、食い気味で美咲が口を出す。
「冗談です」
すると、愛美が顔を上げて美咲に気づき、美咲と隼人を交互に見て、何かを察したように口を開けてわざとらしいリアクションをして、親指を立ててウインクしたのだった。
『邪魔者は消えますよ』とでも言いたいのだろうか……おバカのお節介は厄介な方へばかり……
「待って!違う違う違う!!」
美咲は必死に愛美を追いかけて、走って行った。
隼人はそれを見つつ、微笑んで居たが、ある気配に気づく。誰かに付けられている。そんな気配がした。
「チッ……どこからだ……まさか店からか……?」
しかし、美咲が走って愛美を追いかけた際に、気配が消えた。愛美が見えて居ないのなら、自分の方に駆けてきた、と勘違いしたのか。しかし不審感は消えないままだった。
すると愛美を説得した美咲が帰ってくる。愛美は開口1番余計な事を口走る。
「なーんだ。面白くないの〜。2人とも距離近かったから、付き合いだしたのかと思った〜」
「ばっ……ばかなことを!!勘違いも甚だしいですよ!!」
愛美に揶揄われ、取り乱す美咲。ケタケタと笑いつつ、愛美は続けて煽るのだった。
「でも実際推しに似てるもんね〜。あっ、これ言っちゃダメなんだっけ。笑 ごめんね?」
こいつ、わざとである。美咲は愛美に向かって、突っかかろうとしたが、ようやく、貼り付けた笑顔ではない愛美の顔に、安堵の気持ちも混ざり感情がぐちゃぐちゃになり、美咲も、『もういいや』という気持ちで落ち着き、思わず笑ってしまったのだった。
すると愛美は瞳をキラキラと輝かせ、いい事を思いついたと言わんばかりに、また、あの時のように指を立てて、自慢気に話し出すのだった。
「待って!私いい事思いついた!」
こうなった時は、嫌な予感しかしない。美咲・隼人はガックリと項垂れた後……
ー数分後ー
「お邪魔します」
「いいですか!私物には触れないでくださいね!そして服も返してください!」
美咲は予感が的中し、荒れに、荒れていた。美咲の家に、愛美だけならともかく、隼人まで上がり込む事になったのだ。
「……はいよ」
「スリッパ!スリッパ履いてください!いいですか!それとPC!PCだけは絶対に絶ッ対に触らないでください!!」
隼人はPCに『見られたく無いものがあるのだろう』と察したが、あまりの必死さに、煽ることもしなかった。
「……少し落ち着いてくれ。」
「私は……落ち着いています!どうしてこんなことに……作戦とはいえ、こんなのおかしい……あなた達2人ともですよ!!」
美咲は、肩で息をするほど、冷静さを欠いていた。その変貌ぶりに、ドン引きして、言葉に詰まっていた、隼人と対照的に
『美咲と隼人の距離を縮める、完璧なアシストをした』とでも言いたいのだろうか、腕を組み力強く頷く愛美。この状況を誰よりも楽しんでいる。
「と、とりあえず……作戦通り、応援を呼ぶつもりだ。頼りないかもしれないが、よろしく頼む」
ーその作戦の詳細は、数分前まで遡るー
ー続くー




