第5話
ーホストクラブKINGにてー
隼人は 席の片隅で、ヘルプについている男の、ぎこちなさが目に入って、気づけばそちらを注視していた。
「そんなにTOHRUが気になるのかい?」
竜馬がそう言うと、そのホストの方を向きつつ、隼人は返事をした。
「まぁ……」
竜馬はそんな隼人の様子を見て、ため息を付きつつ、続ける。
「アイツは、真面目すぎて指名なし……ヘルプに毎回付いて働いてるだけなんだよなぁ……そう気にしなくていいよ」
竜馬は、諦めたような口調から一転、気を取り直したように続ける。
「取り敢えず、KOUの横に付いて盛り上げてくれればいいさ。表情は硬すぎるからもう少し緩くしてくれ」
「……あ、あぁ、はい」
隼人は竜馬に促され、コールを行う。慣れない雰囲気に行動のせいか、ぎこちなさがあり、竜馬からは『体験だし、仕方ないね』と苦笑されてしまう。
明らかに、『その接客センスで何故ここに来たの?』と言わんばかりの顔だった。
苦戦しつつも、その後も接客を続けた後、
「そろそろ、時間だし、体験入店も終わりにしようか」
そう竜馬が告げたため、接客を終えようとしたが、隼人は金張の情報を掴んでいないため、このままでは終えることが出来ないと考え、竜馬に問いかける。
「金張さんは、今日は出勤してないんですか?」
その問いに対して、竜馬は一瞬固まったが、すぐに笑みを浮かべた。
「知り合いかい?確かにここで働いているが……生憎、個人の情報はあまり教えてないんだ。厄介客も多いからね。」
隼人はそれに対し、言い返す事はせず、竜馬に連れられ控室に入っていった。
ー控室にてー
「とりあえず、説明はここまでとなるけど、どう?うちの雰囲気は、他と比べても賑わってる方だと思うけど。」
「そうですね……とりあえ……」
隼人が返答をしている最中、別の部屋から、大きな声が聞こえてくる。
「おい!売り上げ最底辺!今日もヘルプだけのお仕事で儲けてお疲れ~!」
竜馬と隼人の間に沈黙が流れたが、竜馬は苦笑しつつ、話し始める。
「あいつら……すまない気にしなくていいんだ。いつもああだから……あ、おい!」
隼人は、竜馬の制止を無視し、声のする方へ駆けていった。そこでは航が、ヘルプに付いていたホストを、罵倒していた。
「シカトこいてんじゃねぇよ、いつになったらまともに働くんだ?お前マジでやる気あんの?お前がいると冷めるって姫からも言われてんの。俺の身にもなれって、お前なんでクビになんねぇんだよ。」
まるでイジメのような雰囲気で、さらに講釈を垂れる航。
「嘘の1つでもこいて、その気にさせりゃいいの。身体求めるだけで……そいつは釣れるの。分かる?教えてやってんのにな。お前、もしかしてまだあんな女の事、引き摺ってんの?」
ドンッ!!
ロッカーを打ちつける、鈍い音が鳴る。責められているホストは、黙ったままだった。
「なんか言えよ。」
航が冷たく言い放ち、拳を振るおうとした、その時。
「やめとけ」
隼人が航の拳を抑える。
「なんだてめぇ、あぁ……体験入店のメイクもド素人のコスプレホストか。一丁前に気取ってんじゃねぇよ。」
航は大きく煽るが、隼人は目線を航から逸らすことなく睨み続ける。
「気分悪ぃな……クソ、やめだ、やめ」
航は、それ以上の行動を起こさず、部屋を去って行った。そこに、遅れて竜馬が駆けつけてくる。
「見られてしまったか……大丈夫か、哲也」
そのホストは、竜馬の顔を見ず、小さく頭を下げた。そして隼人は、竜馬がこのホストの事を『哲也』と呼んだことを聞き逃さなかった。
「哲也……って、こいつ金張か?さっきまでトオルって呼ばれてたが?……しかし、これが日常的に?」
隼人は、信じられないという感情で、竜馬に問いただしていた。体験入店どころの、騒ぎではない。隼人からしてみたら、目の前で傷害事件が起きているのだ。
「TETSUYAじゃダサいでしょ……。後はまぁ、だから目をつけられないように と ね。」
竜馬の口ぶりからして分かる。これは、日常的なものだ。隼人は再度、竜馬に問い質す。
「止めはしないのか?」
「見かけた時には毎回止めている。注意もしているさ。」
やるべき事はやっている。と言わんばかりの竜馬の態度に、納得のいかぬままの隼人。明らかにおかしい。
そして何事も無かったかのように、荷物を整え、帰ろうとする金張を隼人が止める。
「……おい、大丈夫か?」
「余計な事……すんじゃねぇよ」
隼人は、顔もみず、足早に部屋を去ろうとする、金張に紙切れを渡した。
「おい待て、これ連絡先だ。なんかあったら……言えよ。」
哲也は、受け取りはしたが、何も言わずに去って行く。
「……しかし驚いたな、君正義感強いんだね。恐れ入ったよ笑」
竜馬は、空気を変えようと、貼り付けたような笑顔で、話してくる。
「まぁ……こんなのを見られた以上無理強いはしないさ。後味悪いかもしれないが、体験入店も終わりだし、帰っていいよ。すまなかったね。」
竜馬は、その笑顔のまま、隼人に退店を促した。
ーその頃ー
愛美と美咲は、帰り途中に、今日の事を振り返っていた。
「は~楽しかった~!笑 つかさ、みさきち、意外と歌上手いじゃんね!まじビビったわ笑」
「……あまり経験が無いので、上手いのかどうかは分かりませんが。そういえば、貴方のあの歌い方、鼻につきます。」
「まなみんって呼んでって笑笑 しかも酷くね!?ウチ褒めたのにそんな事言う!?……けど、懐かしいなぁ……ウチ友達や親とも、よくカラオケ行ってたんだよ!」
美咲は、愛美の友達については、何となく想像がついたため、親の事について尋ねた。
「あなたの両親はどんな方だったのです?」
「ま、な、み、ん!ね! まぁ…いい人だったんじゃないかな……毒親とかではなかったし、底辺高校に通う、金髪になった私を、お父さんは、毎日仕事前に、駅まで送ってくれてさ、でも、オンボロの軽だったけど。笑 なんにも言わずに黙ってね、笑」
少ししんみりしながら、話し続ける愛美。
「だけどさ、『高校3年間、送ってくれてありがとう。』って、ウチ言ったのに、『はい。』としか言わんし。笑お礼言ったのにさ!酷くない!?なんかもっとあるじゃんね!?」
愛美の親の話は、止まらない。美咲は楽しそうに話し続ける愛美の話を、静かに微笑みながら聞いていた。
「学校帰りに、カフェ寄りたいって連絡したらさ、『はい。』だけ帰ってきてさ笑、んで帰りに無言で寄んの笑笑忘れてんのかと思ったけどさ、普通にスーッて笑 しかも、ふつーのコーヒー頼んでさ、笑 せっかくカフェならさ、もっとなんかあんじゃん!」
過去の不満を、笑いながら大きな声で熱弁する愛美は、はしゃで話す若い学生のようにも見えた。それらの類いは、学生の頃に何度も見ていて、自分が蚊帳の外だった事を思い出す。
美咲は、あまり味わってこなかった、少し新鮮な気持ちになって、戸惑いつつ返答した。
「……不器用ですね。」
愛美は、そうそう!と言わんばかりに、
強く頷きつつ、話し続ける。
「だねー。マジそれ。かったいのよ!お父さん。お母さんとはね〜、たまにカラオケ行ってたりしたよ。」
今度は、母親との思い出を語る愛美。
「『あんたの歌は、よー分からん。』って、言われてさ笑。いやいや、そっちの歌こそ、よく知らねーし。みたいな笑」
美咲は、ひっきりなしに話す愛美に対し、黙って頷きつつ、話を聞き続ける。すると、愛美が少し間を空けて、今度は落ち着きつつ話し出す。
「でも、高校行ってからかな、なんだか冷たくなっちゃった気がして。カラオケに行くこともなくなって、近くに居るのに、疎遠になった気がしてさ。私が、悪いのかもしれないけどね。笑 こんな髪して、底辺高校行ってたから。笑 でもさ、こんな私でも、優しい言葉を貰いたくなったりしてさ。」
愛美は少し俯き、笑った。
こんな格好でありながら、心は自分よりよっぽど純粋なのか。と、美咲は出会った頃に、嫌悪感を覚えていた自分を忘れて、相槌をうつ。
「贅沢ですね。」
愛美は美咲のその返事に、少し笑って、話し続ける。
「そうかもしんない笑、ウチ、『愛してる』って言ってくれなきゃ、分かんないタイプかも笑 でもそんなウチにも、彼氏出来て、そういう言葉も貰えてさ、『同棲しよう』ってなって、彼の子供も出来たのに、こんな事なっちゃってさ。」
2人の間に沈黙が流れる。
あれだけハツラツだった、愛美が黙ったのは、2人が出会ってから初めてだった。美咲は、愛美は殺されたのだと、改めて思い知らされた。
それに、身篭った状態のまま殺された事に戸惑いを隠せずに、何も返事出来ずにいた。
「ごめんごめん笑 ウチらしくないよね。笑」
明らかに取り繕う笑顔を見せる愛美。美咲は、言いようのない想いに駆られていた。
「いえ、こういう時に、どう声をかけるのが正解か、私はよく知らないので」
美咲は、愛美を傷つけないように考える。まるで友達に対して、優しい言葉をかけてあげるように、頭の中で考えてしまっていた。
「そうだよね。笑 でも、ウチはみさきちが『まなみん』って、呼んでくれるだけでいいよ笑」
良くも悪くも、嘘が下手な愛美に、感情を掻き乱される美咲。
「善処しましょう。」
「……って呼んでくれないじゃん。笑」
愛美はまた少し、無理して笑っていたように見えた。
ー続くー




