2話
愛美は人に対して、久しぶりに接した喜びからか、どうでもいい話ばかりを、美咲に一通り投げた後、暇そうにして、ぶらぶら家の中を、歩き回り始めた。
相も変わらず感情の起伏が激しいやつ……と横目で見ながら美咲が、愛美に話しかける。
「そういえば……聞きたいことあるのですが、死後の世界って、実際どうなのです?」
「それがさ〜、意外とぼんやりとした感じで、気づいたら、こっちに降ってきてた!って感じなんだよね〜」
愛美は、美咲の顔も見ず、適当に返事をし、座り込んだ。
思えばここまで、霊とコミュニケーションを取ったのは初めてだったからか、こちらから、こういった事を、聞くことが無かったな、と美咲は考えていた。
そのまま、おもむろに冷蔵庫のドアを開け、水を手に取り、思い出したかのように問う。
「そうなんですね。お腹空いたり、喉乾いたりとかはないんです?」
「ん〜確かに平気だなぁ。匂いは分かるけど、結局何にも、触れないからね。うち笑、てかさ、こっちも聞きたいんだけどさ、なにこれ、好きなの?笑」
不敵な笑みで、リビングのPCの画面を指さし、美咲の顔を見る愛美。
まるで、いい物みーつけた。と言わんばかりだ……。
「ちょ、ばっ……!」
美咲は必死に、キッチンからリビングに戻る。が、しかし、アドレナリンが切れたのか、先程出会った時に、地面に強打した腰の痛みが、足を引っ張り、モタついている。
「確かに、イケメンだけどさぁ〜笑」
愛美はニヤつきながら、PC画面内の、イケメンが語りかけるのを見ている。
(おかえり。今日も仕事おつかれ様。今日は俺の腕の…)
「あああぁ!!こんの……!」
美咲は、無我夢中で、目に付いたコードをぶち抜き、慌てて、PCの電源を落とす。
「ガチ照れじゃん笑笑 おもろ笑笑 でも、そういうの好きなんだね〜。笑 そういう態度、見せるとは思わなかったな〜笑笑」
意外な1面を見れて、嬉しそうな愛美を横目に、憂鬱な様子の美咲。
まさか先に、こっちの化けの皮を、剥がされるとは……と考えつつ、美咲は、強がりながら返答した。
「推しに褒められようとして、何が悪いんです……?PCの画面を、開きっぱなしにしたのは、私の愚策でした……。やはり、あなたとは相容れません」
少しズレたメガネを、かけ直し、愛美の方を、一切、見ようとしない美咲。
「あ〜……そんな怒んないでよ〜 。つーかなんで、ずっと敬語〜?みさきち歳上だし〜、会った時、タメ語だったじゃん〜」
「癖ですから……。あの時、タメ語だったのは……私が冷静さを、欠いていたからでしょう。今まで、見えていても、ここまで私に干渉してくる、霊は初めてでしたから」
大きなため息を吐き、さらに続ける。
「まぁ……でも、あなたは霊なので、別に私の今の姿を、他人に広めることは無いでしょうし、冷静に考えてみれば、なんともないのですが」
「それな〜。てか早口だし、過剰だよ。みさきち笑 ね〜、うちもあだ名で呼んでよ〜。友達には『まなみん』とか呼ばれてたよ、うち!」
いつまでも明るい愛美に、少し疲れてきた美咲。ずっと同じものを摂取して、胃もたれを起こすような、『クドい』と似たような感覚のようだ。
「あなたはあなたです。今日は疲れたので、警察には、明日行きましょう」
雑な返事した後で、美咲は床についたのだった。
「みさきち冷た〜。はいは〜い。」
そう言いつつ、美咲の布団に入ってくる愛美。
「ちょっと……何やってるんですか。勝手に入ってこないでください。しかも……あの……体が、布団と私を貫通してますよ……」
鬱陶しがりながらも、同時に困惑する美咲。ずっと、愛美のペースに振り回されている。
「だって……ずっと一人だったし……。人の温もりっていうの……?久々、味わいたいというか……。私幽霊だから、ほら!逆にさ!貫通出来るから、スペース気にしなくて大丈夫だよ!」
一瞬、凄く寂しそうな目をして、また明るく振る舞う愛美。計算なのか分からない、この変な感覚に押されつつある美咲は、愛美を少し不憫に思い、
「好きにしてください……。疲れました。もう寝ます」
その日の眠りは、
2人にとって、深いものとなった。
ー翌日ー
美咲と愛美は、警察署へ向かっていた。
「いいですか?あんまり、余計なことを喋らないでくださいね。あなたは、私以外には見えてない上、声さえ聞こえていないので。」
「あれ?それ今言うの?笑 今、こうやって会話してて大丈夫なの?笑 とりあえず分かった!なるべく頑張る!」
時々正論をついてくる愛美に、またも振り回される美咲。
「ごちゃごちゃうるさいですよ。それに、なるべくじゃないです。絶対です」
愛美はこの後も、横で美咲に話しかけ続けたが、美咲は全く相手にしなかった。
そのせいか、美咲は警察署に着いた頃には、もう疲弊していた。
ー警察署にてー
署にて、2人の刑事、青木・半田 が、応対をしてきた。
「はい、本日はどうされました?」
気怠げな態度で、青木が、そう発する。完全に見下した態度だと、一目で分かる。
「うわぁ、何この態度、なんでこんな偉そうなの。マジで、だから嫌いなんよ。このク○!ク○!」
愛美は、先程の話が、まるで無かったかのように、
中指を立てている。が、
美咲は、この時ばかりは、愛美に少し、同調していた。と同時に、約束を忘れたのか!という気持ちも混ざりぐちゃぐちゃにもなる。それでも必死に抑えて、手筈通りに進めた
「落とし物をしちゃいまして……」
愛美を視界に入れないように、
青木の目を見て、淡々と話し続ける。
「へぇ、落とした物の詳細は?そして、どちらで落とされましたか?」
青木はメモを手に取りつつも、
気怠い態度を変えず、こちらを向く。
「推しのキーホルダーなんですけど……茶髪のキャラで、白のスーツ……目が黄色でして……」
「はい、はいはい。じゃあこちらに、電話番号を。」
半田は、淡々と言い放つ。青木も何も言わないが、『面倒くさい』と言わんばかりの顔で、こちらをチラチラ見ている。
「…もーまじ無理。こいつら最悪だわ。仕事ぐらい真面目にしろっつーの。」
愛美は、刑事2人の周りを歩き、挑発している。
それを見て美咲は、思わず声を出して、止めてしまう。
「いいから黙って…!」
「はい?今我々に黙れと仰いましたか……?」
聞こえてしまった……。だが同時に確信した。
この2人には愛美は見えていない。美咲の作戦はこうだ。愛美の姿が見える、警察の人間を探し出す為に、落とし物をしたという体で、話を進めるのが美咲の作戦だった。が、しかし愛美が、見えていない以上、ここに居座り続ける必要は無い。
そのため今すぐ帰りたい所だが、先程の発言が、余計な面倒事を起こしそうで、美咲は頭を抱えている。
ー署内奥ー
「なんか揉めているのか……?なんの騒ぎだ?」
この刑事は、瀬野隼人。
中堅の警官。真面目で実直。イケメンで、
曲がったことが大嫌い。
おっちょこちょいな、小田を後輩に持ち、青木・半田からは、あまりよく思われていない。
「先輩!なんか青木さんと半田さん、女性相手に、威圧的な態度!いつにも増して、いけすかねえっすね!……にしても、なんか相手は、冴えない女の人ですよ。あの人……見るからに、暗いというか、なんというか……」
奥から表を見る、小田を横目に、
青木の元へ、向かう隼人。
「……少し行ってくる。」
「ちょ、先輩!?青木さんと、半田さんに、首突っ込まない方がいいっすよ〜!行っちゃった…」
隼人は、青木、半田の元へ駆けつけた。
「どうされまし…!?」
隼人は目の前の光景に、一瞬驚いたように見えた。
「……?」
隼人の、一瞬の驚きが、少し引っかかる美咲。
「瀬野……お前は呼んではいないぞ。引っ込んでろ。」
明らかに、更に不機嫌になる青木。
「え!イケメンじゃん!ちょ待って!今ウチと目が合った気がする!ヤバ!」
愛美は目を輝かせ、隼人の方に視線をやる。
どこまでもお気楽な愛美に、美咲は、思わずまた、口を出しそうになったが、隼人が先に口を開く。
「青木さん、半田さん……代わりますよ。」
隼人は、青木と半田に一礼し、対応を変わろうとする。
「珍しく気をきかせるじゃないか。何かあるのか?知り合いか?」
半田は少し怪訝そうな顔で、こちらを見てくるが、隼人は無視して、対応を続ける。青木、半田は隼人を鼻で笑い、署内奥へと去っていった。すると、隼人が美咲に耳打ちしてくる。
「さっき黙れって言ったのは……そこの派手な女に対してか?」
思わず顔を上げる美咲。
「え……?」
美咲は困惑した。
そう。隼人には、愛美が見えているのだ。
「え!?嘘!!じゃ、じゃあ!まさか、ウチの事見えてる感じ!?」
隼人は、静かに頷く。
「ついてきてくれ」
そう手招かれ、美咲と愛美は、署の裏に誘導され、経緯を、隼人へ話すことに。
「金張哲也……やつの動向を、探るしかないな。事件当日、山で不審人物を見た証言は、得られなかったが……今は、1つの可能性として、彼女の意見を信じてみよう。」
まさかこんな偶然に巡り会い、トントン拍子に、話が進むとは思わず、美咲、愛美は2人して驚きを隠せずにいた。
「まさか、私と同じで見える上に、声まで聞き取れる人がここに居ただなんて……」
訪れた安堵と困惑に、声色が不安定になる美咲。
「めっちゃ頼もしいじゃん!職業的にもサイキョーじゃない!?やっと、哲也って奴を逮捕出来るかな!?逮捕っ♪逮捕っ♪」
愛美は、逮捕♪でリズムを取り、楽しげにステップを踏んでいる。
やはり、バカでお気楽だ。先程言いかけた事を、隼人の前なら、気兼ねなく言える。と考えて、美咲は言い放つ。
「あなた先程まで、ボロカスに警察のことを……」
「……まぁ、少しは見直して貰えたようで、何よりだ」
愛想も何も無い顔で、隼人はそう答えた。
美咲は、仲間を見つけたと同時に、隼人がイケメンである事に気づき、恥ずかしくなる。
「冴えない女」が千載一遇のチャンスを掴めるのは、今かもしれない。
と、こんな状況でも、邪な考えが出てくる。ただ、冷静に考えると、ここまでイケメンなら彼女も居るだろう……と美咲は心の中で静かに思う。
更に、隼人が居るなら、愛美と隼人で行動すれば、事件を解決出来ることに気づき、自身が巻き込まれる事に、尚のこと憂鬱になってもいた。
しかし、美咲は、嫌々ながらも、心のどこかで愛美の事が引っかかり、今後はこの2人と共に、行動する事になるのだった。
ー続くー




