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〈プロローグ〉あれ、俺……またなんかやっちゃいました?

真っ暗だ。

息もできない。音もしない。

けれど、なぜか「生きている」とわかる。

……また、か。

俺は、何度“死んで”きたんだろう。

――生前。

名前は佐久間さくま ゆう

どこにでもいる社畜。

営業なのに、なぜか夜は倉庫で在庫整理。

休日出勤はデフォルト。夢は定時退社。

同期は出世、俺は責任押し付け要員。

「佐久間くんって便利だよね〜」が口癖の上司の顔は、今でも忘れられない。

ある夜、終電を逃して帰る途中、ふと空を見上げた。

月が綺麗だった。

その瞬間、トラックが横から――

……はい、テンプレ。

で、目を開けたらこのザマだ。

体がない。

地面がない。

あるのは――空。いや、宇宙?

「……俺、地球から出勤しちゃった?」

見下ろせば、蒼く光る星。

陸地、海、風の流れ。

まるで神の視点みたいだ。

いや、まさか。

……これ、俺、月じゃね?

数日――いや、時間の概念もないから感覚的に「永遠」――が過ぎた。

誰もいない。喋れない。動けない。

ただ、世界を見下ろすだけ。

……つら。

死んでもブラック企業かよ。

労働も会話もないのに、なんか疲れる。

そのとき、微かな声が届いた。

「……お月さま。どうか、村を守って……」

焚き火の前で、少女が泣いていた。

細い手で祈りながら、何度も俺を見上げている。

「狼が……また、子供たちを……」

涙が、光を反射して揺れた。

俺の中で、何かが――弾けた。

まるで本能のように、

「照らせ」と願った瞬間、

月光が、地上を照らした。

銀の光が森を包み、

狼たちは一斉にひれ伏した。

少女が、涙をぬぐう。

「……ありがとう、月の御方」

……え、俺?

いや、今の、俺が?

その夜からだ。

毎晩、誰かが俺に祈るようになった。

「どうか旅の無事を」

「病の息子を助けて」

「好きな人に勇気をください」

最初は冗談かと思った。

でも、祈りを向けられるたびに、

俺の意識の“範囲”が広がっていった。

山の影を動かす。

風を鎮める。

雨雲を裂く。

……おいおい、なんか天候操作スキル覚えたぞ?

数十日後、地上では「月神信仰」が広まっていた。

俺の光で豊作になった村、嵐から救われた漁師、

みんな俺に感謝して祈りを捧げている。

……俺、いつの間にか神様扱いされてね?

まあ、神になっても労災ゼロだし、

ブラック上司いないし……

これ、天職かもしれん。

そんな俺のもとに、ある日ひとりの女神が現れた。

眩しいほどの金髪、炎のような瞳。

「やっと見つけたわ、“月の君”。

 あなた、ちょっとやりすぎよ?」

「……誰?」

「私? 太陽神ソレイユ。

 あなたの“昼夜のバランス”を壊してる張本人を注意しに来たの」

「いや、待って、俺、なんかしました?」

「しました。祈りを聞きすぎて、この世界の夜、常時満月になってるじゃない!」

「……え、俺、またなんかやっちゃいました?」

「“また”って何回目なのよ!」

その日、太陽と月が並んだ。

彼女の金色の瞳が、俺を見つめる。

「でも……光、優しいのね」

その言葉とともに、彼女の手が伸び、

俺の表面――月の地に触れた。

指先が、ほんのり熱い。

月面が溶けるように、俺の意識が“形”を得ていく。

『祈りの蓄積、閾値突破――神格化開始。

新スキル:〈祈祷吸収〉〈月光創生〉〈恋慕共鳴〉を取得しました』

……スキル通知?

この世界、RPGシステムついてんの?

「ようこそ、夜の王。あなたがこの世界の“月神”です」

気づけば、世界中から祈りが響いていた。

海の巫女、森の精霊、砂漠の姫。

彼女たちの声が混ざり、旋律になる。

光が俺を包み、月は輝きを増した。

……え、ちょ、待って。

また光りすぎて、太陽神が顔真っ赤なんだけど。

「こ、こんなに照らされたら……わ、私……溶ける……っ!」

「いや、俺そんなつもりじゃ……!

 あれ、俺、またなんかやっちゃいました……!?」

かくして、地上に降る光の下で、

多くの女神たちが祈り、恋をし、夜を見上げる。

そしてそのたびに、

“月の神”――佐久間悠は、また一つ奇跡を起こしてしまうのだった。

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