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私事について  作者:
33/36

②ポスター、エキストラ

※ 今回メシマズ要素があります。ご注意ください。


22、映画について ②ポスター、エキストラ


・ポスター


2025.3

 ある日、アパートに戻るとドアポストに不在票が入っていることに気づいた。

 私は通販をそれなりに利用するけれど、そのときは何も注文していなかった。そしてサプライズで何か送ってくれる人にも、もちろん心当たりはなかった。ポストから抜き取って、差出人を確認すると、映画館の会社様からだった。

 

「……、……」しばらく考えて、あ、と気づく。


 映画のポスターの抽選に応募していたことを思い出した。

 ただ、どうせ当たらないだろうと全く期待していなかったのだ。



 2024年にその映画館のポイントカードを作った。

 ポイントカードの特典には、既定の回数映画を観ることで1回映画を無料で観られるということが1つ。加えて、それとは別に映画の上映時間(分単位)によって付与されるポイントもあった。(実はいまいちシステムがよく分かってない)

 無料鑑賞の方はたまに使っていたのだけれど、後者は全く手つかずだった。


(こういうポイントって1年経過すると失効したりするよな)と思い、(2025.1)用途を調べ、面白かった映画のポスターの抽選の応募に1年貯めた全ポイントを使用した。ただ、私は昔から抽選というものに当たったことがなかったので、(宝くじもすぐに買うのをやめた)まさか本当に当たるとは思っていなかった。ただ無駄にするよりはいいだろう、くらいの気持ちだった。

 生きているといいこともあるんだなあ、と思った。自分が当選しないからと言って、本当に抽選しているのだろうか、と疑っていたことが恥ずかしくなった。すみませんでした。


 けれどもしかしたら、知らないところで裁判沙汰に巻き込まれていて、それ関係の書類なのではないか、という一抹の不安があった。



 それから再配達されるまで、ソワソワしながら過ごした。こんなにソワソワしたのはいつ以来だろうか。もしかしたら今までで一番かもしれない。


 そして近所のスーパーの前の宅配ロッカーに取りに行き、直方体の段ボール箱を回収しアパートに戻る。

 送り状を見てみる。品名は「ポスター」となっている。よかった。しかしこれは……と、送り状の文字に目をやる。


 綺麗な字(筆跡)だと思った。やはり映画会社に勤めるような人は、よくできた方だろうから、きっと字も綺麗なんだな、と思った。


 段ボールを開梱していくと、エアパッキンに包まれたポスターと当選のお知らせの紙が現われた。梱包も丁寧だし、やはりお知らせの字も綺麗だった。(それは文書作成ソフトの字だろ)ドキドキしながら丸まったポスターを伸ばしていく。


――これは……映画館に貼ってあるやつだ――


 煽り文や制作会社、監督、演者の方の名前や、公開日の日付も入っていた。

 いや、映画館のものよりも一回り小さいかもしれない。サイズとしてはB2だった。後日、ホームセンターで額縁を買ってきて入れた。



 とても嬉しかったのだけれど、時間が経つとこういう考えが浮かんできた。


(これをもらうのが自分でよかったのだろうか)


 確かにこの映画は好きだけれど、間違いなく私以上の熱量を持って好きな人が存在するはずの映画だった。それに私は別に映画館にとっていい客というわけでもないよなあ、とか思ったりもした。回数は観るけれど、食べ物もパンフレットも買わないし、基本的に料金が安い日にしか行かない。

 でも今さらどうしようもなかった。熱意のある方に譲るいい方法も思いつかなかったし、だから私は死ぬまで大切にするしかなくて、それでいいと思うことにした。

 大切なのは私がこのポスターに恥じない生き方をするということだ。


―――――――――――――――――――――――――


・エキストラ


202X

 ある日映画を観に行ったら、もぎり(なんか2010年代の中頃から、入場特典があるとき以外はもぎられなくなりましたよね)の所で、係の方に「よかったらどうぞ」と、A4の紙を渡された。フライヤーだろうか、と思って座席に着いてからよく見てみると、エキストラ募集のチラシだった。



 そのとき私は無職だった。

 私は映画を観るのは好きだったけれど、映画に出ようと思ったことはなかった。そもそも出ようと思って出られるものではないですし。チラシによると、深夜撮影の分のエキストラが足りていないようだった。私は時間に融通が利くし、撮影の集合場所もギリギリ徒歩で行ける距離だった。映画の撮影がどういうものなのか見てみたいという気持ちもあったし、やはり出られるなら出てみたいという気持ちがあったのだと思う。けれど自分の外見ではなあ、とも思っていた。

 あーだこーだ悩んでみたけれど、結局無為に過ごすくらいなら、応募するだけしてみようと思った。それで落とされたなら、仕方ないで終わりにしようときめた。


 募集要項にある通りに必要事項を入力していると、自分の写真(全身と顔の3方向からのもの)を添付しなければならないことに気づいて、やっぱりやめよう、となった。



――数分後――

 いやいや、自分の写真なんて悪用しようがないだろう。有名な監督だし、映画館で配られていたのだから、そんな怪しいところではない……はず? どうせ自分はオッサンだし、無職だから会社に迷惑をかけるとかもないし。そう思って頑張って写真を撮って応募した。(皆さんはよく調べてから応募してください)


――撮影当日――

 返事が来なかった。

 まあ、返事が来ないってことは落ちたってことですよね。

 せめて落ちたなら、落ちましたってメールでもくれればいいのに。今頃、自分の写真が笑いものにされているのかあ(そんなに暇ではないだろ)とか卑屈なことを思っていた。そもそも自分のような人間がそんな目立つようなことをしようというのが(エキストラですが)、間違いだったのかもしれない。でもまあ応募したのだから、勇気を出して行動したところは褒めてもいいだろうと思っていた。


――集合2時間前――

 集合メールは2時間前くらいに届いた。

 いろいろ大変だったそうだ。深夜に結構な人数の個人を集めるとなると、確かに大変そうですよね。一人一人メールして、この人はこの外見だから、この役で、この役は何人必要で、とか。


 実は気持ちが切れていたのだけれど、こんな中途半端では駄目だと思った。行く以上、伝説を作るくらいの気持ちでないと、いいものはできないと自分を奮い立たせる。

 私は急いで髭を剃り直し、スーツを着て(襟に血が付かないように注意する。私は急いでいるとよくやってしまう)、通勤鞄を持って徒歩で集合場所へ向かった。言うまでもないけれど、この格好がものすごく似合わない。自信のなさが顔に現れている感じがして、およそ社会人らしくない。無職役のエキストラならバッチリなのだけれど、それはないだろう。現地についてから配役を決めるとのことで、いろいろ対応できるように念のためスーツを着てきてほしいとのことだった。


――集合――

 現地に着くころには、少し汗をかいていた。

 結局、役柄の服に着替えることになって、スーツは使わなかった。想像していたよりもスタッフの方は優しかったので安心した。


 ※ 詳しいことは書いてはいけないのでフワフワした感じになります。申し訳ないです。


 撮影現場に移動する。

 ほぼ待ち時間で、こちらにカメラが向くときだけ、軽く指示をされる。私はまだビクビクしていたけれど、他のエキストラの方は慣れているようで、必要以上に緊張していなかった。私もしばらくすると、カメラの画角に入っていないのにガチガチになっている必要は全くないということに気づいて、肩の力を抜いた。


 やはり人数が足りなかったのか、カメラの向きに応じて、その背景に存在するように撮られる場面があった。それだと映画の時系列的に、2か所に同時に存在していることになるのだけれど、かなり後ろの方で、誰かまでは特定できないので問題ないのだと思う。逆に人が存在しない方がよくないという判断なのだと思う。こうやってやりくりしているんだなあと思った。

 基本的に画面の奥の方に位置していて、メインの出来事に反応してちょっと動くだけ、というものだったけれど、一度俳優の方の近くに配置されたことがあった。


エキストラ同士でこんな話をしていた。


「今、ちょっと話しかけられました」

「うわー、いいないいないいなー!」(私)


「さっき、ありがとうって言われました」

「うわー、すごいすごいすごい!」(私)


 私は俳優の方をガン見したかったのだけれど、ジロジロ見るのはNGだと釘を刺されていたので、あまり見ないことにしていた。だから結局誰一人、顔をちゃんと見ることはできなかった。ただ、遠目から見ただけでもスタイルの良さがはっきりとわかった。顔は小さく、足は長い。近くに立っているのが恥ずかしくなるくらいだった。本当に同じ世界に存在しているんだなあ、とか思ったりした。

 これで顔まで見てしまったら、もう立ち上がれなくなっていたかもしれない。


 いい景色だと思ってカメラで撮ってみても、なんだか肉眼で見た時のほどの感動がないな、みたいなことがありますよね。もちろんいいカメラが使われていると思いますが、それでも映画で観るより、直接拝見する方が絶対にすごいのでしょうね。


――解散――

 想像していたよりも撮影現場は怖くなかった。いい経験ができたと思う。

 クオカードをもらえた。(失業保険をもらっている期間だったので、これはハローワークで申告しました)また機会があれば参加してみたいと思っています。



 参加させてもらってからしばらくは興奮していたけれど、ある時揺り返しが来た。


(現実の縮図だったのかもしれない)


 主役がいて、自分はいてもいなくてもさして影響のない役をしている。


 ……でもまあだから何だというはなしですよね。

 それが適材適所なら、正しいことですよね。主役を張りたいなら努力して実力をつけるべきだし、能力はないのはまだ仕方ないにしても、努力もしていないのに不満だけ言うというのはなんか違うよなと思いました。重要度は低くとも誰かしら必要なのは間違いないわけであって。


 大して重要ではない存在だから、映画的には2か所に同時に存在するというのはなんだか少し面白いですね。

 最初は絶対映画を観に行こうと思っていたのですが、勇気が出なくて結局観ていなかったりします。なので私の映った映像が使われているのかどうかもわからないのですが。


(完)

読んでくださり、ありがとうございました。

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