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私事について  作者:
29/36

③サービスエリア

19、閉店について


③サービスエリア

 

 県道沿いにサービスエリアがある。※ もしかしたら高速道路ではないので定義としてはサービスエリアではないかもしれないのですが、そういう名称だったのでそのまま書くことにします。


 インドカレー、焼肉屋、漫画喫茶、定食屋が2つ、コインランドリー、それにゲームセンター。

 私がここで利用していたのは定食屋のうちの1つとゲームセンターだった。両方とも2023年に閉店してしまった。


――――――――――――――――――――――


2014.6

 私はまた無職になっていた。

 このころ第二種電気工事士の勉強だけはしていたけれど、それ以外には何も就職活動はしていなかった。自己都合で辞めて、失業保険もまだもらえていない状態だった。資格を取ってから、本格的に動こうと考えていた。あまり将来に希望は見えなかった。


 その日は気分転換にコインランドリーで布団を洗おうと思い立ち、車に布団を詰め込んでサービスエリアに向かった。

 洗濯を済ませた後、ゲームセンターに寄り、ロボットのゲームを遊んだ。古い筐体のためか100円で2プレイ遊ぶことができた。筐体は2台並んでいて、2人で遊ぶことも可能だった。私はいつも、1プレイ目は一番簡単なルートを最後までクリアして、2プレイ目はそれなりの難易度のルートを選んで遊ぶ(こちらは1面か2面でゲームオーバーになる)ことにしていた。


 ゲームセンターの中を一通り見てから、自動ドアを抜けて外に出ると、定食屋の看板が目に入った。美味しそうだと思った。けれど無職だしなあ、とも思った。



 当時の私は、外食はよほどの出来事がない限り行わなかった。

 私のような人間は自炊して節約するべきだと思っていたのだ。お金もないし。けれど、その日は気まぐれに定食屋に入ってみることにした。

 日に日に生気が失われていくのを感じていたので、なにか元気が出ればと思ったのかもしれない。

 小心者なのでドキドキしながら店内に入る。入口のすぐ右手に券売機が置いてあった。


(券売機で食券を買うシステムか)と安堵した。


 750円のチキンカツ定食を選んだ(一番安い)。

 食券を渡し、引き換えに番号札を受け取り、好きな席に座って待つ。水はセルフサービスだった。機械からは水だけではなくて、細かい氷も一緒に出てくるのが嬉しかった。


 雑誌や漫画が充実していた。私は漫画週刊誌を席に持っていって食事を待つことにした。


 なんだか社会人ぽい、と思った。


 そして食事が運ばれてきた。チキンカツ2枚に山盛りのキャベツ、ご飯は普通の量、スープはお代わり自由、小鉢が1つ。この量でこの値段なら、すごく良心的だと思った。自分で作るよりも安いんじゃないのかと思った。そして美味しかった。

 私の自炊の腕は悲しいレベルなので、落差がすごかった。周りを見渡すと、作業服やスーツを着て昼食を取っている人たちの姿が目立った。


(みんな、こんないいものを弁当のように食べているのか?)


 私は敗北を認めた。完敗だった。(なんの勝負?)


 しかも週刊誌も読むことができるし、また来たいと思った。


 ある部族の風習とかでもあるように(言いたいだけです)自分で取ったものを自分だけで食べてはいけないというか、流行りの言い方をすると、誰かに作ってもらったものからしか得られない栄養というのがあるのかもしれません。



 それから無職の間は、就職活動を1つするごとに1回定食を食べていいというルールを自分で作った。面接を受けに行くとか大それたものでなくとも、履歴書を買うとか、それを書くとか、証明写真を撮るとか、応募書類を送るとか、ハローワークで相談するとかそういうレベルでいいものとした。

 働き出した後も、毎週日曜日の夜には食べに来ることに決めていた。


 日曜の夜に行くのは、翌日からの仕事に向けて英気を養うためだ。

 正直再就職した会社は合わなかった。合わなかったけれど、何度も転職を繰り返しているから、今度こそここで頑張らなければ後はないと思って我慢したけれど、やはり駄目だった。


 電気工事士の資格を取ったこともあって製造部門に応募して採用されたのだけれど、なぜか生産管理の仕事をやらされていた。正直、向いていないと思っていたけれど、前述の理由もあって、まあ、頑張ってみようか……と思っていたのだけれどやはり無理だった。製造に異動させてもらえないか聞いてみたのだけれど、駄目だと言われた。


 ああ~、じゃあもういいや。■■。となって辞めた。


 仕事内容もそうだったのだけれど、本当に人が好きになれなかった。結局、辞める理由なんてほとんど人間関係なんじゃないかなと思います。愚痴でした。すいません。


 こう書くと、仕事が辛いおかげで店に通い続けていたみたいに読めるかもしれないのですが、それとこれとは別の話です。定食で元気をもらっていたのは事実ですが、別の仕事だろうと通っていたと思います。



 その職場を辞めた後、職業訓練を受けたりまた働き出したりしたけれど、定食屋に週に一度通うことは、よほどのことがない限り欠かさなかった。美味しいし、量も多いし、キャベツもあるので健康にもいいはずだ。それに漫画週刊誌(青年誌)を読めるのも大きかった。

 いくつか読むものを決めて毎週読んでいた。連載作品の他にも、読み切り作品も楽しみにしていた。読み切り作品は一期一会で、想像していない作品に出合えるので好きだった。

 私はこのお店で心と体に栄養をもらっていた。


――――――――――――――――――――


2020.4~

 私は無職になっていた。(いつもの)

 新型コロナウイルスの影響で、このころはもしかしたら休業されていたかもしれない。

 けれどある程度落ち着いたら、私はまた通い出した。無職になっていたし。一応食べるとき以外はマスクをしていた。テーブルにはアクリル板が置かれていた。食べ終わったら、今週分の漫画を読み終わり次第、急いで帰った。(迷惑になるような長時間の居座りはしていないつもりです。主観でしかないですが)


 気が付いたらアクリル板も置かれなくなっていた。それがいつ頃だったのか、よく覚えていない。

 

 私は他人と食事をするとき、ここを選ぶことが多かった。私が唯一、常連ぽい感じで入ることのできるお店だったからだ。


――――――――――――――――――――――


2023.X

 新型ウイルスの影響で客足が遠のき、飲食店が閉店するというニュースを聞くたび、このお店は大丈夫だろうかと不安になっていた。

 2023年に入って世界はだいぶ、以前のように戻ってきているように思えた。だからもう山場は越えたものと勝手に思っていた。

 

 ある日、扉のガラスに張り紙があった。閉店する旨が書かれていた。

 私はそれを見てショックを受けた。ただ予感はあった。予感というより予兆だろうか、少し前に向かいのゲームセンターも閉店してしまっていたのだ。


――――――――――――――――――――――


 一度ゲームセンターの話になります。

 

2020.4

 気が付くとロボットゲームの筐体は1台だけになり、そのあと残った1台も電気が通らなくなり、そして撤去された。

 私は基本的に(いくらやっても取れない人間なので)クレーンゲーム的なものはやらないことにしている。これは明らかにバランスが悪くて簡単に倒れそうだ、みたいなものを見つけた場合は少しだけやってみることはあった。たまに取れることもあったけれど、だいたいが、やはりやらなければよかった……という感じで終わっていた。まあでもそういうものですよね。


 ある日、入り口のすぐ横に在庫処分とPOPの貼られた筐体を見かけた。

 1プレイ500円だけれど、よほどヘマをしないかぎりは、まず間違いなく取れる設定になっているらしかった。どんなものがあるのかと見てみると、1つの景品に目が惹きつけられた。


(可愛い……)


 浅葱色の髪をしたゲームのキャラクターの人形だった。私はそのゲームを遊んだことがなかったけれど、軍艦を擬人化したキャラクターが登場するものだということは知っていた。(今もゲームをしていないので詳しいところはよく分かっていない)

 ゲームの景品は800円までのものと決まっていたはずだけれど(今は少し上がったそうです)日に焼けて色あせたパッケージを見る限りでは、そうとは思えないほど造形もポーズも凝っていた。

 私は筐体越しに凝視し、悩んだ。可愛いし、この設定ならばまず確実にとることができる。しかし……美女(正確には軽巡洋艦になるのだろうか)の人形を部屋に飾ることは、なにか一線を越える行為であるように思えたのだ。


 そして定食屋に来るたび、ゲームセンターにも足を運び、まだ残っていることを確認していた。新型ウイルスは人間を孤独にするものだと思っていた。お前は流行る前から孤独だっただろ、と言われればその通りだけれど。2020年の前半は本当に辛い時期だった。だから部屋になにか綺麗なものを置いておきたかったのかもしれない。格好をつけずに言えば寂しかったのだと思う。


 美女の人形を飾ることと、日本人形やギリシャ彫刻を飾ることにどれだけの差異があるだろうか。美しいものを見たいという気持ちに、なにも変わりはないはずだ。私はそう考えて人形を取り、今も部屋に飾っている。



 それ以降、また働き出してからもこのコーナーはチェックし続けていた。

 人形の他にも漫画のキャラクターの絵が描かれたワイヤレスイヤホンなんかを取っては、その漫画が好きだと言っていた会社の人たちに配るというよく分からない行為をしていた。

 見返りが欲しかったわけではなくて、(実際余計なお世話かもしれなかったので気にしないでほしいと念入りに言っていた)ただなにか普段と変わった行為がしたかっただけだった。(実際、設定が甘くても景品が取れると楽しい)

 それで何かが変わるかもしれないと思っていたのかもしれない。何も変わらなかったけれど、でも何かをやってみるということは大切ではないだろうか。


――――――――――――――――――――――


2023.Ⅹ

 最終営業日、私は何か記念に取っていこうと思って、クレーンゲームに挑んだのだけれど1000円投入しても、さっぱり取れるイメージが湧かなかったので、諦めた。


 ありがとうございました。


―――――――――――――――――


 また定食屋のはなしです。


2023.Ⅹ

 定食屋の最終営業日、私はチキンカツ定食の特盛を頼んだ。通い出したころは胃もたれを気にせず食べられたけれど、この時は特盛はさすがに少しキツくなっていた。

 週刊誌を読もうと思ったのだけれど、これが最後だと思うとどれがいいか決められず、選べなかった。黙々と食べて、ごちそうさまでしたと言って、いつも通り食器を返却口に返した。



 それから日曜日の夜、することがなくなってしまった。

 他の定食屋にも行ってみたりしたのだけれど、どこへ行っても通おうとは思えなかった。これは私が年を取ったせいもあるかもしれないけれど、あの居心地の良さは得難いものだったのだと、改めて感じた。たまたまその定食屋に巡り合えたのは私にしては珍しく幸運な出会いだったと思う。


 美女はまだ部屋にいるし、私の中に思い出は残っている。それで十分なのだと思う。


 ありがとうございました。

 

(完)

読んでくださり、ありがとうございます。 

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