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私事について  作者:
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15、Tシャツについて

15、Tシャツについて


2025.8

 私は相変わらず図書館で本を読んでいた。

 10年ほど前に中心市街地に移転された市立図書館の中には美術館や喫茶店などが併設されていた。というのは図書館を主として利用する私から見た認識であって、新しく建てられた大きな複合ビル、その中の施設の1つに図書館があるといった方が正しい。ただ私は基本的に図書館しか利用しなかったし図書館の移転先には違いなかったのでそのビル自体を図書館と呼んでいた。

 

 本を読むのに疲れた私は、気分転換に建物内をうろついていた。

 図書館の隅の方のスペースに、市の催し物についてのポスターがまとめて貼られているのを見つけた。その中に、市の花に関連する持ち物を持っていけば、美術館や動物園、科学博物館の入館料や入場料が無料になるというイベントについて書かれたものを見つけた。


 毎年、文化の日は博物館が無料開放されるというのがあるけれど、それに近いものだろうか。(そうでもないような……)今回の場合は日にちが限定されておらず、なにかその花のアイテムを持っていればOKということだった。



 私はアパートに帰り、なにかないかなと探してみたのだけれど、私が花に関するものを持っているはずもなかった。

 無料になる入場料や入館料を合計すれば2000円弱にはなるだろうから、それより低い金額でなにか手に入れれば、とか考えたのだけれど、……こんなことばかり考えているのもどうなんだろうか、と我に返った。


 けれど無職はイベントに飢えているものだから、(私見です)今まで行ったことのない所に出かける理由が欲しかったのかもしれない。


 通販サイトで、市の花に関連する服を探していたら、オシャレなものがあったのでそれを買ってみることにした。夜景の中に一輪の花が咲いているイラストが、プリントされたTシャツだった。


 服が届くとそれ以上悩むことはせず、袖を通し、早速出かけることにした。


―――――――――――――――――――――――


①美術館


 街を歩いていると視線を感じた。普段なら自意識過剰だと切り捨てるところだけれど、今回は明確に、服を、見られていた。目を引いてしまうのだと思う。

 その日、道行く人々の服の柄を注意して見てみたのだけれど、(私自身そうなのだけれど)無地の服を着ている人が圧倒的に多かった。今まで注意したことがなかった。

 

 私は美術館(図書館と同じ建物の中にある)の受付で、Tシャツの裾を軽く引っ張って、花の絵をアピールしながら言った。


「すいません。あの、市の花のやつで無料になるところだけ入りたいんですけど……」


 イベントだから、なにも悪いことをしていないし気後れすることはないのだけれど、どうしても居心地の悪さを感じてしまっていた。


 受付の方はごく普通に対処してくださった。優しい。


 私の認識だと、無料で見られる範囲は限定されていると思っていたのだけれど、美術館すべてを見ることができた。ありがたい。


 綺麗なものを見ることができた。おそらく私はTシャツを買わなければ(イベントを知らなければ)、一生美術館を訪れるはなかっただろう。同じ建物の図書館には足しげく通うのに。それは一種、悲しいすれ違いのようにも思えた。

 これだけでも十分Tシャツを買った甲斐があった。


 

 私はアパートに戻りすぐに服をネットに入れて、洗濯機を回した。なるべくこの服は汚したくなかった。白い服だったので、襟を黄ばませたくなかった。


――――――――――――――――――


②動物園


 同じ流れで受付でイベント用の申請書に記入し、中に通してもらった。


「いい服ですね」と、服を、褒められたので

「実はこのために買ったんです」と言わなくてもいいことを言ってしまった。


 私は猫が好きなので、ヤマネコを見るのが楽しみだった。

 ヤマネコは檻と檻をつなぐダクトのような部分で眠っていた。ダクトの部分は高さがあってそこも檻になっているから風通しがよくて涼しいのだろう。

 私の存在に気づくと猫は少しだけ瞼を開けて、そしてまたすぐに眠ってしまった。可愛い。降りてきてくれないかなと期待したのだけれど、こんなに暑いのでは仕方がない。見られただけでもよかった。


 この暑さのせいだろう、他の動物たちもよく眠っていた。

 私は無職で体力が落ちているせいか、一通り見てまわっただけで汗だくになって疲れてしまった。ヤマネコが見られてよかった。



 歩いていると花の髪飾りを付けている方や、花のリストバンドを付けている方とすれ違った。オシャレだと思った。


――――――――――――――――――


③科学博物館


 科学博物館では常設展の他に、夏休みだからか、光についての体験コーナーが設けられていた。若い人たちが多いのかな、と思っていたけれど、大人の方たちも多くて皆さん体験展示を楽しんでおられた。私も勉強になった。私は不勉強なせいで、光の回折というものを知らなかった。


 楽しみにしていたのがプラネタリウムだ。

 私はプラネタリウムに関しては有料でもお金を払って見るつもりだったけれど、これも無料になるとのことだった。プラネタリウムは日替わりで3種類ほど投影されていた。無料なら、ぜひ全種類観たいと思った。思ったのだけれど、流石にそれはどうだろうかとも思った。もちろん何も悪くないのですが。そのとき、無料で行くのは1回までにしようと決めた。


 夏休みということで家族連れが多くてほぼ満席だった。1人だった私は、家族連れの間の席に座らせてもらい、投影される星空を見上げていた。家族でこういう所に来たら、きっといい思い出になるのだろうなと思った。


――――――――――――――――――

④民芸館


 イベント最終日、駆け込みで行ってみることにした。

 受付でTシャツを見せる。少し慣れてきた。


「それ、ゴッホですか?」学芸員の方なのだろうか、流石だと思った。

「ええ、たぶんセイゲツヤっていうのをモチーフにしてデザインされているんだと思います」


 あとで調べてみると、星月夜は「セイゲツヤ」ではなく「ホシヅキヨ」と読むらしかった。道理で、あれ? そんなのあったかな、という反応をされていたわけだ。申し訳ないです。私は読みがわからないとき、とりあえず音読みにする癖がある。 


 土器や古い住居を鑑賞した。ずっと昔から人間はここで暮らしているのだと思うと、すごいと思った。


 民芸館には離れに茶室があって、和菓子と抹茶を出してもらうことができた。これは有料だったけれど、私は入館料が無料になっていたのもあって注文することにした。


 部屋は狭いけれどとても心が落ち着いた。窓から綺麗な中庭の景色が見えるので実際以上に広く感じるのかもしれない。


 私は机の上に大学ノートが置いてあるのに気づいた。訪れた人が思い思いのことを綴るものだ。私はこういうのを見るのが好きだったりする。地元の人、旅行客の方、外国の方、いろいろな方が文章を書いていた。海外の方にはこういう体験は特に喜ばれるだろうな、と思った。


 私もTシャツのおかげで出かけるきっかけが生まれてよかった、ということを書いておいた。


(完)

いろいろイベントを利用してみると楽しいかもしれません。

読んでくださってありがとうございました。

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