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私事について  作者:
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⑧スコップ、スタック

車について ⑧スコップ、スタック


①2023.12(雪)

 その日、私はなんとなく地元の山の展望台に向かっていた。

 なにか用事があったわけではないけれど。山といってもそこまでの標高はなくて、このあたりの中学生は夏休み中の部活のとき、自転車をこいで山に登り、坂道ダッシュをさせられる。とはいえもう20年以上前の話だから、(オッサンです)今はもうそういう練習はしていないのかもしれない。自転車で坂道を下ると危ないし。今思うと事故が起きなかったのが不思議だ。


 展望台の駐車場からさらに本格的な山への登山口があった。展望台に向かう坂の入り口に、『登山口閉鎖中』の看板が立っていた。ということは、展望台まではギリギリ行けるだろうと判断したのだけれど、坂を登れば上るほどやっぱりやめておけばよかったと後悔の念が強くなった。


 坂道自体除雪されていなかった。

 雪の深さはそんなにでもないが、カチカチに固まっていた。フワフワの雪なら踏み固めて進めるけれど、固い雪は滑るとかなり厳しい。(状況によります)展望台の駐車場で方向転換をしようと考えていたのだけれど、駐車場の雪はさらに深く、凸凹していた。その様子が目に入った時点で、駐車場に入ることを諦め、坂の途中で方向転換することにした。


 でも、それがいけなかった。



 切り替えして方向転換をしようと思った。

 坂に対して垂直方向にバックして方向転換をしようとした、のだけれど途中で進まなくなった。シフトを前後に切り替えて抜け出せないかやっているうちに、前にも後ろにも進まなくなった。見ると固い雪道にできたわだちにはまってしまっていた。今更だけれど私の車は二輪駆動です。


 後部座席にはアルミの角スコップを乗せていた。車を動かないようにして(というかそもそも動けない状態だけれど)タイヤの周りを掘ることにする。

 スコップで雪を掘っている間も、灰色の空からふわふわした雪(灰雪というらしい)が絶え間なく降っていたのが、精神的にきつかった。雪はやはり固くて、アルミのスコップでもかなり力を加えなければ、差し込むことも厳しかった。

 寒い中スコップで固い雪を掻きだすのはかなりしんどい作業だ。すぐに喉の辺りが痛くなる。手袋を持っていなかったので指も痛くなった。坂道で作業しているのでバランスを取るのにも疲れた。


 ロードサービスを呼ぼうかとも思うが、こんな所に入ってこられないだろう。呼んで皆に押してもらうのか? 私のことなので他に頼れる人に心当たりはなかった。

 人通りもない。ないならないで迷惑にならなくていいのだけれど。


 今日車をここに置いて、雪が溶けたら取りに来るのはどうだろうか。……雪はいつ溶けるというんだ。今だって降り積もっているのに。あまりに無責任だろう。


 なんで来てしまったんだろうか。馬鹿だなといつも通りの反省をする。

 


 少し休憩して冷静になった。


 雪は無尽蔵ではないから、スコップで掘り続ければいずれ終わりが来る。人が通ることもなさそうだから、急いで無理をすることもない。

 車は亀にはなっていなかったから、タイヤの走行ラインだけ雪をなくせればいい。それならそれほど難しくはないはずだ。こういう場合は、駆動輪を優先した方がいいのだろうか、どうだろう。


 そんなことを思いながら、手を動かしていると嫌な感触があった。

 見るとスコップがグニャっと曲がってしまっていた。スコップの刃のアルミが、円筒形から四角い形状に変わるその境目の部分に亀裂が入り折れてしまった。完全にちぎれてはいなかったけれど。


 ……どうするんだ、これ。


 体の力が抜けたけれど、四角い刃の部分が残っているなら、そこを手で持って足で踏んで雪に差し込めばいいだけだ。効率は落ちるけれど、それはもう仕方ない。

 そうして1時間くらいで抜け出せた。


 坂道を下っているとき、1台の車とすれ違った。タイミング悪いな、と思ったけれどそれでよかったのだ。迷惑をかけずに済んだのだから。


 帰り道、ホームセンターで鉄の角スコップを買った。


 あとで思ったのだけれど、坂で無理して方向転換をせずに、轍に沿って車をバックさせてもよかったのではないだろうか。もちろん後方の確認は十分にするのは前提として。


 皆さんもご注意ください。


挿絵(By みてみん)


―――――――――――――――――――


②2025.1(雪)

 日曜日、アパートの駐車場の除雪をしていた。

 四輪駆動の車に乗り換えたので除雪はそこまできっちりやらなくても、駐車場から出るくらいはできるのだけれど、駐車場の右側がすぐ道路になっていて、そこの部分を除雪しておかないと近所の人が困るかなと思って、(邪魔だと思っていても私の車があるとやりにくいだろうし)山になった雪を崩して、奥の方に移していた。


 そのときビシッと、手に嫌な感触が走った。


――馬鹿な……デュランダルのはずだ―― (?)


 おそるおそる確かめてみる。スコップの刃、鉄の部品を木の柄の部分に円筒形に被せ、鋲を打っている部分がある。ちょうどその鋲のところに亀裂が走っていた。

 たしかにこの部分は力かかりそうだものな、と反省した。


 このとき、私はスコップを雪に差して、梃子のように使っていたのだけれど、この使い方はよくない。注意書きにもやらないように、と書いてあった。


 梃子にするにしても、雪を賽の目に切り分けてからでないと、スコップの刃に力がかかって、それでどうなるかというと、まあこういうことになりますね。


 ただ、使いものにならなくなった、という訳でもなかったので、今も使っている。それからは横着せず、雪を賽の目に切るようにしている。


―――――――――――――――――――――


③2025.X(雪)

 久しぶりにドカッと雪が降った。

 会社からの帰り、信号待ちから発進する際、前の車がスタックしてしまったようだった。それでも一度バックして切り返せばあれくらいなら出られるだろうと思って、私はハザードランプを点けてしばらく待つことにした。


 後続の車が、自分たちを追い越していく。私も流れが切れたら追い越していこうと思っていた。自力で脱出できるだろうと思っていたのだ。しかしなかなか、車の流れが途切れなかった。そうこうしているうちに前の車の運転手の方がこちらに歩いてきた。


 私は脱出を手伝うことにした。なんで最初から手伝ってあげないんだよと非難されるかもしれないけれど、まず第一にあれくらいなら脱出できると思っていたのだ、その方は雪道になれていなかったのだと思う。一人でできることにしゃしゃり出ていくのは、なんだか難しいところがある。余計なお世話になるかもしれないし。

 第二にその車は私が以前乗っていた車と同じ車種だった。なんというかうまく言えないのだけれど、抵抗があった。



 私はなぜか最初、押しますよ、と言ってしまった。

 運転手の方にアクセルを踏んでもらって、押そう、と思ったのだけれどどこを押していいのか判らなかった。


(こういう時どこを押せばいいんだろうか)


 バックドアを触ってみる、これは……押したら凹むんじゃないか?

 バックドアの下……はバンパーだからフニャフニャだ。

 コンビネーションランプは……割れるよな。

 ピラーか、Cピラー……お、押しにくい……。押せる面積が小さい。


 タイヤの周りを見てみる。前輪の前に少し雪があって、それはタイヤの形に固まっていた。


(自分もこのくらいの雪で、進まなくなったことがあったなあ)としみじみ思った。流れるようにして色々見た。


 フォグランプ……ついてない。スペクトラムアナライザ……ついてない。


 というか音楽を聴いていない? 運転するときに音楽を聴かないのだろうか。(人の勝手だろ)


 トノカバーの上にはスピーカーもない。それから全体を見る。急に冷静になった。 


――これは私の車ではない――(そりゃそうでしょ)


 どこかでこの車に乗っている運転手の方がうらやましかったのかもしれない。

 

 いらん所ばかり見て(そうは言っても本当に一瞬で見たつもりです)、押してくれない私を不審にというか、不思議に思われたかもしれない。


 冷静になって気づいた。なんで押そうとしたんだろう。切り返せば抜け出せると思っていたのに。


 私は一度バックできないか聞いてみた。

 するとバックはできた。バックできたなら、あとは雪のなさそうなところを通るようにすればいいだけだ。


 私は去っていく後姿を、少し寂しい気持ちで見送った。


(完)

商品名が角スコップとなっていたのでそうしました。

アルミや鉄のスコップを使うときは車に傷をつけないようご注意ください。


最後まで読んでくださって、ありがとうございました。

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