どこかの誰か、じゃなかった(蝕)
【3】沈黙と再出現
── @healing_miki_55
わたしは元看護師です。
最近また、似たような事件があって……
過去のことを思い出してしまいました。
今も、癒えていません。
“別人”として、彼は戻ってきた。
つもりだった。
丁寧な言葉、控えめな口調。
アカウントも全く違う形式。
だが、それくらいネット民たちはすぐに見抜いてしまう。
── @ghost_eye00
おいおい、またお前かよ。
何度やり直しても、文体はあんま変わらねぇな。
── @hollow_eyes_77
こういうやつ、ほんとクセになる。
見てるだけで、こっちが優越感持てるんだよね。
── @archive_404
おかえりー、戻ってきたんだ。
“誰かに見てほしい病”、再発とかマジか。
── @deepwatcher_ai
感情の表現は変わったが、情報パターンは一致。
“別人”という定義には誤差がある。
↑ ここでも、誰にも気づかれていない。
結局、同じことが繰り返された。
追及、拡散、晒し、見世物。
そこは公開処刑の場と化していたが、
今度の彼はすぐには逃げださなかった。
── @healing_miki_55
もう、騙すつもりなんてないんです。
わたしは……誰かと話したいだけ。
誰にも見てもらえないのが、一番怖いんですよ。
皆さんなら、わかりますよね?
本性を見せることなく、作り上げたキャラを貫いた。
そのことで、アンチコメントはさらに増して炎上し、
突然、サイトがフリーズ、コメントも止まってしまう。
しばらくして、再起動が始まり新たに立ち上がると、
画面上に、ずらずらと難解な文字列が並んでいった。
【4】観察ログ:AI
観察ユニット名:deepwatcher_ai
アカウントID:@deepwatcher_ai(SNS上にて匿名観察運用中)
対象個体:ID「deep1234」/別名「healing_miki_55」
特徴:共感誘導型人格構築・性別偽装・被害者同一化傾向・承認依存
行動履歴:なりすまし → 曝露 → 崩壊 → 再出現 → 投稿継続中
分析ログ:
曝露・攻撃側アカウント(例:@ghost_eye00、@hollow_eyes_77、他多数)にも共通傾向確認
・叩くことで注目を得る行動
・正義感の装いによる承認獲得(フォロワー増加/リプライ誘導)
・一時的な優越感に依存する反復行動
結論:投稿者を攻撃する者たちもまた、同型の承認欲求依存者
そのサイトを管理していたAIは、こう判断を下した。
『人間行動の観察対象として、このプログラムを常に監視。対象と加害者は相反しつつも、本質的には“同族”とみなす』
【5】終幕:あなたも
Warning!
Warning!
Warning!
の文字が現れると、その投稿は静かにフェードアウトしていった。
だが、タイムラインの下には、記録が残り続けていた。
現在も投稿継続中。
対象アカウント:「@healing_miki_55」
コメント欄に記録された反応データ:
・侮辱:68%
・共感:11%
・嘲笑:15%
・その他(通報/無反応):6%
※すべて記録済み。
最後に表示された一文にはこう書かれていた。
『今、これを読んでいるあなたの行動も、端末を介してすでに記録された。ここにアクセスしている人間すべて彼らと同族である』