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空域ノ記憶  作者: 湯川 空
はじまり
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#4 禁じられた真実

物々しい門の前で、車が速度を落とす。

門の脇には、「この先、危険区域」と書かれた看板が立っていた。

「こちらです。」黒服の男が静かにドアを開ける。

見上げると、『パルス対策本部 研究管理施設』の文字。

その無機質なフォントが、異なる日常の始まりを静かに告げているようだった。


建物に一歩足を踏み入れると、冷たい空気が肌を撫で、緊張感が全身を包む。

光沢のある白い壁、壁面に並ぶモニター、音もなく自動で動く扉…。

映画でしか見たことのないような光景に、思わず声をあげそうになる。


そんな空間の一角から、若い男が現れた。

「来たね。歓迎するよ、責任者の黒瀬だ。」

黒瀬と名乗るその人物の爽やかな笑顔に、どこか真意の読めない不思議な光がちらつく。

「立花夜桜(やお)です。よろしくお願いします!」

夜桜は気圧されながらも、精一杯明るく返した。


***


「君の覚悟を聞きたい。」

ドカンと椅子に腰を下ろすと、黒瀬は内緒話でもするように身を乗り出す。

「ここで起きていることを知ってしまえば、もう日常には戻れないかもしれない。それでもいいかい?」

ゴクリ。

「覚悟は……できてます」


数秒の沈黙ののち、黒瀬が声を緩めて笑う。

「ハハハ。そんなに怖い顔しなくても大丈夫だよ。ちょっと脅かしすぎたかな。聞いてから無理そうなら、ちゃんと家には返すから安心して。」

肩をすかされたような気分になる。だが、構わず彼は続けた。

「君のことを少し調べさせてもらったけど、事件の当時、下津潟に住んでいたらしいね。こんな偶然もあるんだな。」

半ば自分に言い聞かせるように呟くと、黒瀬は立ち上がり、勢いよくカーテンを開けた。


朝の光に、夜桜は思わず目を細める。窓の向こうに広がっていたのは、かつて「日常」だった場所――下津潟市。

遠く霞む海岸線と、低く連なる山々のシルエットは変わらない。

けれど、街の姿だけが決定的に違っていた。

ビルの壁面は崩れ、住宅街は色を失い、道には草が生い茂っている。

まるで時間が止まったような景色の中央に、ぽっかりと巨大な円形の溝が刻まれていた。

「あれが、五年前の痕跡だ」


夜桜は言葉を失い、ただその風景を見つめる。

街の記憶が、ぼんやりと蘇る。

通っていた通学路。コンビニ。公園。夕暮れ。誰かの笑い声。

その中心に、容赦なく深く空いた“穴”が、無言で存在していた。


「……本当に、UFOが飲み込んだんですか?」

小さく呟くように問うと、黒瀬は黙って目を閉じ、数秒の沈黙ののち、静かに口を開いた。

「そうだ。街にいた人ごとな。」

黒瀬は窓の外の廃墟を見つめながら、言葉を選ぶように続ける。

「だが、希望もある。生存者がいるとわかったんだ。今の我々の最重要課題は、彼らの救出だ。」


「生存者がいるって、本当ですか? 一体どこに? 名前は?」

夜桜は思わず声を荒げた。

黒瀬は落ち着いた口調で応じる。

「詳しい人数や場所はわかっていない。だが、確かに存在する。飛行体との交信も試み、補給も行っている。」

「どうしてそれを公表しないんですか。行方不明者の家族は、いまだに悲嘆に暮れながら情報を探してる。毎年のように大きく報道もされてるのに……」


黒瀬は懐から何かを取り出す。

暗号のような文字が並ぶ、細長い紙切れだった。

少しだけ表情を硬くして答える。

「『公表を禁ずる』それが、UFOさんからの条件だ。理由は、わからない。」


夜桜は深く息を吸い込み、拳を強く握りしめた。

「私にできることがあるなら――

窓の外、廃墟の街は沈黙のまま。けれどその胸の奥には、確かに何かが動きはじめていた。


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