表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空域ノ記憶  作者: 湯川 空
無邪気な破壊者
24/37

#24 接点

作戦後の夜、拠点には重たい沈黙が流れていた。

夜桜(やお)は端末を操作しながら、記録映像を何度も巻き戻しては見返していた。無意識に頬をかき、ぽつりと呟く。


「……私の指示ミス」


どれだけ繰り返しても、あの瞬間の判断の遅れは消えない。


一方、ブリーフィングルームでは、橋本と風間、泉が向かい合う形で座っていた。


「今回の件、やはりまだ時期尚早だったんじゃないか?」


風間の言葉に、泉は冷静に切り返す。

「とはいえ、連携の兆しはありました。むしろ今回の作戦で、課題が浮き彫りになったとも言えます」


橋本は腕を組み、静かに頷いた。

「あの場は(せい)()一人では切り抜けられなかった。今後もメンバーを変えるつもりはない。(だい)()はこのまま入れる」


彼の口調はいつも通り穏やかだが、その意志に揺らぎはなかった。



──翌日、訓練場。

集まった面々は、どこかよそよそしい空気を纏っていた。大毅は職員に元気よく挨拶をしていたが、凊佐に対しては一言も言葉を発さないまま、黙々とメニューをこなしていく。

凊佐の方も何も言わず、ただ与えられた内容に集中していた。

が、ふと気づく。大毅の視線が、訓練中ずっとこちらを向いている。


(警戒されているのか?)


一つの挙動も見逃すまいと真剣な顔つきだった。

呆れ混じりに目を逸らした凊佐だったが、心のどこかで、静けさに安堵している自分にも気づく。

訓練後、更衣室には二人だけが残った。


しばし沈黙が続いた後、口を開いたのは凊佐だった。


「……怪我、してないか」


「へ?」


「昨日、腕を引いたとき……」


「ああ、うん、大丈夫!お前が引っ張ってくれたから助かったし。あの程度は前もよくあった」


凊佐は目を逸らしながら小さく、「……悪かった」とだけ言った。

大毅は目を丸くして、頬を綻ばせた。


「嬉しい!お前から話しかけてくれたの、初めて!」


そのままの勢いで話を続けようとしたが、ふと我に返ったようにトーンを落とす。


「ちゃんとお前のペースに、合わせるようにする。だから、いつか認めてもらえたら嬉しい。」


凊佐は返事をしなかった。ただ、ほんの少しだけ目を伏せ、黙って頷いた。



午後に向け、物資倉庫でチェック作業をしていた夜桜を、凊佐は開け放たれた扉から覗いた。声をかけるつもりもなかったのに、自然に言葉が漏れる。


「……静かだな、今日」


凊佐がぼそりと呟く。夜桜はクスッと笑った。

「もしかして、話しかけられなくて寂しいの?」


凊佐の表情が一瞬止まる。だが、素直に返した。

「……そうかもな」


その言葉に、夜桜は目を見開く。まるで恋バナでも聞いたかのような反応をして、じっと凊佐の顔を見た。

夜桜は目を丸くして凊佐の顔を覗き込む。まるで恋バナでもされたような反応に、凊佐はばつが悪そうに視線を外し、そそくさと立ち去っていった。



午後の訓練。

標準的なコンタクト演習だったが、以前のような騒がしさはない。大毅は凊佐の視線を意識しているのか、言葉を使わず、目線とジェスチャーだけで合図を送ってきた。凊佐のスタイルを真似している。


(……合わせてきた)


無言のまま、同じタイミングで動き出す。凊佐が撃ち漏らした標的を、大毅が何も言わずに処理する。以前なら「今の惜しかったなー!」と一声かけるところだった。

言葉が減って、呼吸が合っていく。



その夜の食堂にて。

軽食を取っていた夜桜の前に、大毅が明るく駆け寄ってくる。


「聞いて聞いて、今日凊佐が俺に先に話しかけてくれたんだ!」


夜桜は吹き出しそうになりながらスプーンを止めた。


「ほんとに?」


「うん!『怪我はないか』って!俺、嬉しすぎて変な顔してたかも」


夜桜は笑いながらも、どこか安堵した表情を浮かべた。


「……まったく、二人して何やってんだか」

その声には、ほんの少し、温かさが滲んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ