#24 接点
作戦後の夜、拠点には重たい沈黙が流れていた。
夜桜は端末を操作しながら、記録映像を何度も巻き戻しては見返していた。無意識に頬をかき、ぽつりと呟く。
「……私の指示ミス」
どれだけ繰り返しても、あの瞬間の判断の遅れは消えない。
一方、ブリーフィングルームでは、橋本と風間、泉が向かい合う形で座っていた。
「今回の件、やはりまだ時期尚早だったんじゃないか?」
風間の言葉に、泉は冷静に切り返す。
「とはいえ、連携の兆しはありました。むしろ今回の作戦で、課題が浮き彫りになったとも言えます」
橋本は腕を組み、静かに頷いた。
「あの場は凊佐一人では切り抜けられなかった。今後もメンバーを変えるつもりはない。大毅はこのまま入れる」
彼の口調はいつも通り穏やかだが、その意志に揺らぎはなかった。
──翌日、訓練場。
集まった面々は、どこかよそよそしい空気を纏っていた。大毅は職員に元気よく挨拶をしていたが、凊佐に対しては一言も言葉を発さないまま、黙々とメニューをこなしていく。
凊佐の方も何も言わず、ただ与えられた内容に集中していた。
が、ふと気づく。大毅の視線が、訓練中ずっとこちらを向いている。
(警戒されているのか?)
一つの挙動も見逃すまいと真剣な顔つきだった。
呆れ混じりに目を逸らした凊佐だったが、心のどこかで、静けさに安堵している自分にも気づく。
訓練後、更衣室には二人だけが残った。
しばし沈黙が続いた後、口を開いたのは凊佐だった。
「……怪我、してないか」
「へ?」
「昨日、腕を引いたとき……」
「ああ、うん、大丈夫!お前が引っ張ってくれたから助かったし。あの程度は前もよくあった」
凊佐は目を逸らしながら小さく、「……悪かった」とだけ言った。
大毅は目を丸くして、頬を綻ばせた。
「嬉しい!お前から話しかけてくれたの、初めて!」
そのままの勢いで話を続けようとしたが、ふと我に返ったようにトーンを落とす。
「ちゃんとお前のペースに、合わせるようにする。だから、いつか認めてもらえたら嬉しい。」
凊佐は返事をしなかった。ただ、ほんの少しだけ目を伏せ、黙って頷いた。
午後に向け、物資倉庫でチェック作業をしていた夜桜を、凊佐は開け放たれた扉から覗いた。声をかけるつもりもなかったのに、自然に言葉が漏れる。
「……静かだな、今日」
凊佐がぼそりと呟く。夜桜はクスッと笑った。
「もしかして、話しかけられなくて寂しいの?」
凊佐の表情が一瞬止まる。だが、素直に返した。
「……そうかもな」
その言葉に、夜桜は目を見開く。まるで恋バナでも聞いたかのような反応をして、じっと凊佐の顔を見た。
夜桜は目を丸くして凊佐の顔を覗き込む。まるで恋バナでもされたような反応に、凊佐はばつが悪そうに視線を外し、そそくさと立ち去っていった。
午後の訓練。
標準的なコンタクト演習だったが、以前のような騒がしさはない。大毅は凊佐の視線を意識しているのか、言葉を使わず、目線とジェスチャーだけで合図を送ってきた。凊佐のスタイルを真似している。
(……合わせてきた)
無言のまま、同じタイミングで動き出す。凊佐が撃ち漏らした標的を、大毅が何も言わずに処理する。以前なら「今の惜しかったなー!」と一声かけるところだった。
言葉が減って、呼吸が合っていく。
その夜の食堂にて。
軽食を取っていた夜桜の前に、大毅が明るく駆け寄ってくる。
「聞いて聞いて、今日凊佐が俺に先に話しかけてくれたんだ!」
夜桜は吹き出しそうになりながらスプーンを止めた。
「ほんとに?」
「うん!『怪我はないか』って!俺、嬉しすぎて変な顔してたかも」
夜桜は笑いながらも、どこか安堵した表情を浮かべた。
「……まったく、二人して何やってんだか」
その声には、ほんの少し、温かさが滲んでいた。