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空域ノ記憶  作者: 湯川 空
はじまり
10/37

#10 帰還

拠点MB-07(エムビーゼロナナ)に戻ると、朝の光がようやく本格的に空を染め始めていた。医療班による初期確認が終わり、二人とも大きな外傷はないとわかると、安堵の空気が基地内に広がる。


「わしが本部に報告を入れておく。お前たちはひとまず休め」


橋本艦長の言葉に、夜桜は素直に頷いた。凊佐(せいさ)は何も言わず、静かにその場を離れていく。任務としてはごく短いものだった。けれど夜桜(やお)にとっては、長く、濃密で、確実に「何かが変わった」と思わせる時間だった。


***


ちょうど朝食の時間だったので、夜桜はその足で食堂へ向かった。

すでに隊員たちが集まり始めていて、夏井さんがいち早く気づいて声をかけてくれる。


「ホバーでパルス蹴散らしたんだって? 初任務で盛大にやったねぇ」


「すいません……」


「いやいや。二人とも無事だったんだから大手柄だよ」


そう言って、いつものように豪快に笑いながら「お疲れさん」と朝食を手渡してくれる。

夜桜はそれを受け取り、周囲の職員たちとテーブルを囲む。さっきのことについて、ぽつぽつと会話が始まった。


「にしても、大群が襲ってくるなんて、今までなかったんだけどなあ」エンジニアの一人が、ちょっと気弱そうな声でつぶやく。


「一旦は、上から監視して鉢合わせないように動くって話だな」

別の職員が応じる。


そこへ、凊佐が食堂に入ってきた。


彼は黙ったままトレイを手に取り、空いている席に腰を下ろす。いつもと同じで、特に誰とも話すでもなく、食事を始めた。その様子を、夜桜はなんとなく目で追っていた。


……あれ?


左手が、膝の上から一度も動かない。

箸もスプーンも、すべて右手だけで器用に扱っていた。


怪我してる? いや、前からこうだったっけ?

言われなければ気づかない程度の「変わった食べ方」だが、一度目につくと、妙に気になった。


***


食後、しばらく仮眠をとった後、夜桜は再び作戦室に呼ばれていた。

午後、隊員たちは作戦室に集まり、今回の任務の振り返りが行われる。中央の大きなスクリーンには、上空から撮影された観測地点の映像が映し出されている。無数のパルスが群れとなって、黒くうごめく塊のように視認できた。


「現在も移動の兆候はなし。一定の距離を保ったまま、観測点に留まっている」


解析班の職員が淡々と報告する。


「このまま静観するのか?」


誰かが問いかけると、前方に立つ橋本艦長が小さく頷いた。


「しばらくは様子を見る。現段階での接触はリスクが高すぎる」


その声には、わずかに緊張がにじんでいた。


「とはいえ──もうすぐ“あれ”も届く頃だろう」


別の職員が、意味ありげに口にする。その言葉に、場の空気が少しだけやわらいだ。


「……“あれ”って?」


夜桜が小さくつぶやいたけれど、その声は誰にも届かなかったようだ。

会話はすでに次の話題へと流れていった。

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